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グリーンITとは? サステナブルなIT運用へのシフト

レンテックインサイト編集部

グリーンITとは? サステナブルなIT運用へのシフト

デジタル化が進み、IT技術がビジネスで不可欠となる一方、そのインフラが生み出すエネルギー消費と環境負荷の増大は無視できない課題となっています。例えば、世界各地で稼働するデータセンターは、大量の電力を消費するだけでなく、膨大な量の冷却水を使用し、地球規模での温室効果ガス排出にもつながっています。このような背景から、IT業界を中心に「グリーンIT」と呼ばれる取り組みが注目されています。

本記事では、グリーンITとは何か、そのために具体的にどのような取り組みが行われているのか、どんな課題がありどう解決すべきなのかについて分かりやすくご紹介します。

グリーンITとは? なぜ、どうやって企業は取り組むべきなのか

グリーンITとは、IT技術の利活用において、環境負荷の軽減とエネルギー効率の向上を目指す包括的な考え方や実践です。

ITのエコロジカル・フットプリント(生態系に与える影響)は年々拡大しており、企業が自社の「サステナビリティ」目標を意識してIT運用を見直すことは不可欠とされています。日本ではCo2排出量に関して、2021年4月に2030年度46%削減、2050年度にカーボンニュートラル(実質排出量ゼロ)が目標として掲げられており、2023年2月発表の「GX実現に向けた基本方針」(経済産業省)で省エネ補助金やカーボンプライシングに言及されるなど、具体的な取り組みも予見されます。

例えば、最新の省電力技術を採用したサーバーやネットワーク機器への切り替え、仮想化技術の導入、クラウドの活用によるデータセンター運用の最適化は、すでに多くの企業で導入が進んでいる施策です。また、グリーンITの実践は、社会的責任(CSR)を果たす一環としても重要視されています。今日、気候変動対策や温暖化防止への取り組みは企業の信頼に直結しており、グリーンITは単にIT部門の課題にとどまらず、企業や社会全体の持続可能性を支える基盤と位置付けられています。企業がサステナブルなIT運用にシフトすることで、ビジネスそのものの価値向上に貢献する時代に突入しているのです。

今後は、エネルギー効率の高いIT運用が「選択」から「必須」となるでしょう。ここからは、企業がいかにしてグリーンITを実践し、持続可能なIT運用へとシフトするかについて、具体的な取り組みやそのメリット、導入に伴う課題を詳しく解説していきます。

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具体的なグリーンITの取り組みにはどんなものがあるのか

グリーンITを実現するためには、企業がITインフラ全体においてエネルギー効率を高め、環境負荷を軽減する具体的な施策を実行する必要があります。ここでは、現在広く採用されている代表的な取り組みをご紹介します。

1. データセンターの省エネ化

データセンターのエネルギー消費は、グリーンITの課題の中でも特に大きな影響を及ぼす領域です。そこで、多くの企業がデータセンター内のサーバー、ストレージ機器、冷却システムといった設備の省エネ化を進めています。具体的には、以下のような技術が導入されています。

・高効率冷却システム

従来の空調設備ではなく、外気冷却や水冷式冷却、冷却システムの配置を工夫する「ホット・コールドアイル隔離」など、より効率的な冷却方法が採用されています。これにより、冷却にかかるエネルギーの削減が期待できます。

・仮想化技術の活用

複数の仮想マシンを1台のサーバーで運用できる仮想化技術は、データセンターのエネルギー効率を向上させます。サーバーの稼働率を最適化し、不要なサーバーの稼働を減らすことで消費電力の削減が可能になります。

・スマートグリッド技術の導入

‟賢い電力網”を意味するスマートグリッド技術を利用することで、電力の需要をリアルタイムで監視し、最適な電力供給が可能になります。これにより、電力の無駄遣いを防ぎ、エネルギーコストを削減します。

・クラウドサービスの活用

クラウドサービスを活用し、企業が必要なときに必要な分だけ計算能力やストレージを利用することは、余計な電力消費を減らすことでグリーンITにも一定の効果をもたらします。大規模クラウドベンダーの多くは、自社のデータセンターで先に述べたようなグリーンITの取り組みを進めています。

2.IT機器の省電力化と寿命延長

データセンターだけでなく、日常業務に使われるIT機器の省電力化も、グリーンITの取り組みには欠かせません。省電力性能が向上したPCやモニター、周辺機器の導入、不要時に自動で電源がオフになる省電力モードの利用などにより、エネルギー使用量を抑えることができ、副次的にコスト削減にもつながります。

・エネルギースター認証機器の導入

エネルギースター認証とは、米国EPA(環境保護庁)によって設定された省エネ性能を持つオフィス機器を認証する制度です。サーバーやクライアントPC、モニター、プリンターなどOA機器選定にあたってこれらの認証製品を優先して選ぶことは、最も簡単な省エネの取り組みの一つといえるでしょう。

・IT機器のリユースとリサイクル

IT機器の短期的なリプレイスは多くの資源を消費します。機器の適切なメンテナンスによって機器の寿命を延ばし、加えてリユース・リサイクルを推進することで、製造や廃棄にかかるエネルギー消費も削減できます。その際リースやレンタルといった選択肢も考慮に入れることで、よりサステナブルなIT利用の選択肢は広がります。

3. 再生可能エネルギーの積極活用

エネルギー源そのものを再生可能エネルギーに切り替えることも、グリーンITの大きな柱です。データセンターやオフィスが使用する電力の一部またはすべてを再生可能エネルギーに置き換えることで、化石燃料への依存度を低減し、CO2排出量の削減に寄与します。

・再生可能エネルギーの優先利用

自社施設にソーラーパネルや風力発電設備を設置する企業や、再生可能エネルギーによる電力供給を打ち出す賃貸オフィスビルが増えています。そうした施設でIT機器を利用することは、グリーンITに大きな効果をもたらすはずです。

・グリーンエネルギー証書の購入

グリーンエネルギー証書とは、自然エネルギーによって生み出された電力の付加価値を購入することとで、グリーン電力を利用したとみなすカーボンプライシングの一種です。自社施設での発電が難しい場合には、グリーンエネルギー証書を購入し、再生可能エネルギーの利用を間接的に支援する方法もあります。

4. ペーパーレス化とワークスタイル改革

ITインフラの省エネ化だけでなく、働き方そのものの見直しも重要な要素です。デジタルツールを活用してペーパーレス化を進めたり、在宅勤務やリモートワークを導入したりすることで、業務効率の向上や従業員の通勤負荷削減だけでなく、環境へのインパクトを軽減できます。

・電子署名とデジタル書類管理

紙の書類をデジタル化し、電子署名を採用することで、紙資源の節約とオフィスの効率化が図れます。

・リモートワークによる通勤削減

在宅勤務やリモートワークを取り入れることは、オフィスのエネルギー消費を削減するだけでなく、従業員の通勤にかかる燃料消費も削減し、環境負荷の低減に貢献します。

グリーンITの三つの課題とその対策

グリーンITの推進は社会や地球にプラスの価値をもたらすだけでなく、企業に企業価値の向上やICT利用の効率化に伴うリソース活用の最適化を通して経済的メリットをもたらすこともあります。ただし、導入において乗り越えるべき課題がいくつか存在するのもまた事実です。

以下に、グリーンIT導入の主な課題とその対抗策を整理していきます。

課題1:初期導入コストとROIの不確定性

グリーンITの実践には、特に導入初期において相当なコストがかかることが少なくありません。 省エネ性能に優れた機器への更新や仮想化技術の導入、データセンターの冷却システム改良、さらには再生可能エネルギーの導入などには大きな投資が必要です。またこれに加え、短期的なROI(投資利益率)が不明確なケースもあり、導入に慎重にならざるを得ない企業も多くあります。また、導入にかかる費用だけでなく、長期的な運用コストやメンテナンスの負担が増加する可能性も考慮する必要があります。

こうしたコスト要因を十分に見極めた上で、経済的な効果が得られる範囲でのグリーンIT施策を計画することが大切です。事業再構築補助金(グリーン成長枠)やものづくり補助金(グリーン枠)などの補助金制度の活用も、グリーンIT推進において検討すべき事項といえます。

課題2:既存システムとの互換性と移行プロセスの複雑さ

グリーンITの実践は多くの場合、既存システムの更新や改修を伴うため、特に老朽化したインフラや専用設計のシステムを抱える企業では移行の難易度が高くなります。例えば、クラウドへ移行する場合、古いオンプレミスシステムとの互換性や既存の業務プロセスに大きな影響を及ぼす可能性があり、運用への負担が懸念されます。

さらに、グリーンITを導入するには従来のシステムを一時停止する必要が生じることもあります。クラウドや仮想化を適用するためのシステムの再構築や従業員のトレーニングも必要となり、企業にはこれらのプロセスが円滑に進むような移行計画を立てる、外部の支援を求めるなどの対策が求められます。

課題3:技術的な知識・スキルの不足

グリーンITの実践には、省エネ技術や仮想化、クラウドの活用など、最新のIT技術に関する専門知識が不可欠です。しかし、これらの知識が十分にあると自信を持って言い切れる人材はそれほど多くないのではないでしょうか。

また、新たな省エネ技術や管理方法を導入する際には、従業員への教育や技術サポートも必要となるため、企業はトレーニングや支援の体制を整えることも重要です。特にクラウド利用やリモート管理が普及する中、セキュリティリスクへの対応も含めた知識をまとめ、問題発生時の対応まで含めてシナリオを立てておくことは不可欠といえるでしょう。

グリーンITの実践にはIT運用や働き方全般の刷新が求められる

企業の社会的責任(CSR)に対し年々注目が集まる現代において、企業が必ず押さえておくべき「グリーンIT」の概念や具体的な取り組みについて解説しました。実効性を伴うグリーンITを推進するには、設備やインフラを見直すにとどまらず、日常のIT運用や働き方全般を刷新することも求められます。今後のIT戦略において、ぜひ本記事でご紹介した考えを下敷きにグリーンITを導入してみてください。

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