グローバルな流れを反映し、日本の産業構造は大きな変革期にあると言われます。その一つは、ICTの活用を通してビジネスモデル自体の変革を遂げる「DX」。レンテックインサイトの記事でも、その重要性や実現のポイントについてはたびたび取り上げられています。
本記事で取り上げるのは、もう一つの産業構造の変化として押さえておきたい「GX」です。2023年から10年間のロードマップが組まれた同変革に対し、政府は150兆円を超える官民投資を見込んでいます。 GXとはいったい何で、なぜ重要なのか? 今後10年間の基本方針や重点分野は何か? 今知っておくべき知識を押さえましょう。
GXは「Green Transformation(グリーントランスフォーメーション)」の略称であり、これまでの温室効果ガスを発生させる化石燃料を基盤とする産業構造を、クリーンエネルギー中心に変革することを指します。
2030年に46%の温室効果ガス削減(2013年度比)、2050年にカーボンニュートラル(温室効果ガスの実質排出量ゼロ)を目指すにあたって、GXは不可欠な手段であり、そのために改正省エネ法やFIT/FIP制度、補助金、といった施策が実行されます。
また、GXのもう一つの側面として「安定したエネルギー確保の実現」という目標も挙げられます。2022年6月には東京電力管内を中心に電力需給ひっ迫注意報が発令され、一部企業では電力を使う工程のストップや生産停止などの措置が取られました。2023年も電力供給の予備率は最低水準(3%)をかろうじて達成した水準であり、省エネと再生可能エネルギーの長期安定電源化、安全性を見直した上での原子力の活用などによる対策が基本方針として示されています。
また、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資の拡大は今後も進むことが予想されており、企業が成長するにあたって「環境(Environment)」に資するGXの必要性は高まっています。
2023年度は、GX推進の動きが本格化し始めた年といえます。
2月には『GX実現に向けた基本方針 ~今後10年を見据えたロードマップ~』(経済産業省)が取りまとめられ、5月には『GX推進法』と『GX脱炭素電源法』が成立しました。「今後10年を見据えたロードマップの全体像」では、下記4分野で今後10年間のロードマップが示され、「国際展開戦略」を除いた3分野に150兆円超の官民投資が行われる見込みが記載されています。
政府からはGX経済移行債の発行により今後10年で約20兆円の投資が予定されており、2023年度には0.5兆円(令和4年度第2次補正予算の借換債1.1兆円を合わせれば1.6兆円)が発行されます。
その償還にあたって財源の裏付けとされているのが、カーボンプライシング(企業の排出するCO2に対しプライシング(値付け)が行われる制度)です。カーボンプライシングの一種である「排出量取引制度(ETS)」に賛同企業が自主的に取り組む「GX-ETS」も2023年度より施行される予定であり、2026年に本格稼働する計画となっています。
また、2028年度には「炭素に対する賦課金」が化石燃料の輸入事業者等を対象に課されることが、その5年後である2033年度にはETSにおけるCO2排出枠を有償で販売する「有償オークション」の導入が予定されています。このように、制度が形作られ、賦課金の金額も徐々に引き上げられることを見据え、先行して企業がGXに取り組むように今後10年のロードマップは設定されています。2023年度~2025年度にその備えを整えられるかどうかで、企業ごとのGXの達成状況には大きな差が生まれるでしょう。
GX実現に投じられる約20兆円の政府支出は、具体的にはどのような内訳で用いられるのでしょうか?
政府資料によると、下記の通りになります。
また、それを150兆円超と推定されている官民投資額全体に当てはめると、以下のようになります。
参考:『GXを実現するための政策イニシアティブの具体化について』(経済産業省)19枚目のスライド
政府支援の約20兆円については、「民間企業のみでは投資判断が困難な事業であること」「国内の人的・物的投資拡大につながること」などの基本原則が設けられており、同じテーマであっても、政府支援と民間投資とでできることには差異が生じます。
先行投資を呼び水にGX市場の活発化を促進する狙いがそこにはあり、より足下からのサポートとして、カーボンニュートラル相談窓口の創設も自治体や中小機構などにより行われています。
現在のところGXの認知度はDXに比べまだまだ高くありません。産業構造の転換という大きな目標の一歩として、まずはその重要性や目指すところについての認知が広まることが求められています。
2023年度から本格始動するGXについて、いま知っておくべき基本方針や重点分野についてご紹介してまいりました。『地球温暖化対策計画』(環境省)によると、2019年度の温室効果ガス排出量は12億1,200万トンであり、2013年度比-14.0%となっています。2030年度の目標である-46%に対しては大きな開きがあり、GXの早急な進展が求められます。10年先を見据え、自社のフェーズに合わせた取り組みを進めていきましょう。