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SAP S/4HANAへの移行手順と押さえるべき注意点

レンテックインサイト編集部

SAP S/4HANAへの移行手順と押さえるべき注意点

「SAP ERP 6.0(ECC 6.0)」が保守期限を迎える2027年問題(※)を前に、「SAP S/4HANA」への移行(マイグレーション)に多くの企業が取り組んでいます。そんな中で移行に伴いトラブルが発生し、生産停止や出荷の遅れなどにつながったというケースを耳にすることも増えました。事業に支障が生じる事態を避けるべく、その原因と対策について再度押さえておきたいという声は多く聞かれます。

本記事では、SAP S/4HANAへの移行手順、注意したい問題とその対策について分かりやすくご紹介します。

※…『SAPの基幹システムが抱える2027年問題とは?』で詳しく解説しています。ぜひご一読ください。

『SAP S/4HANA』への具体的な移行手順5ステップ

まずは、基本的なSAP S/4HANAへの移行手順を押さえましょう。

【1】移行計画策定・プロジェクトチーム立ち上げ

【2】自社の業務工程・システム・データの構造を洗い直す

【3】移行オプションの選択とパラメータ・データの整備

【4】移行テスト(単体・結合・総合・受け入れ)

【5】本番移行・トレーニング

上記の5ステップを経て「SAP S/4HANA」への移行が進むのは、SAP ERPから、オンプレミスの基幹システムから、いずれの場合においても変わりません。特に重要なのが「移行計画策定」フェーズで自社の業務特性や、移行で達成するべき目標を明確にすることです。

「SAP S/4HANA」の導入形態はオンプレミス、プライベートクラウド(PCE)、パブリッククラウドの三つのパターンがありますが、いずれにしても従来の業務での利用法やデータ構造をそのまま持ち込むことはできません。そのため、移行とは言いつつも従来のアップデートとは大きく異なるというマインドセットが不可欠となります。

また、SAPの移行方式としては、既存データを資産としてそのまま移行するシステムコンバージョン(ブラウンフィールド)、新規に再構築するリビルド(グリーンフィールド)、任意にデータを選択するSDT(選択的データ移行・ブルーフィールド)が挙げられます。既存環境をそのまま踏襲することを前提とするシステムコンバージョンであっても、データ構造の見直しは必ず発生するため、アセスメントやテストには多くの工数やコストがかかることを前提とすべきです。

現在「SAP S/4HANA」への移行を検討中という場合は、なるべく早期に決定を下すことが求められます。本番環境でのトラブルを防げるかは、いかにアセスメントやテスト段階で不整合をなくせるかに左右されるからです。

「SAP S/4HANA」への移行で起こりうる問題と注意点

「SAP S/4HANA」への移行で起こりうる問題を見ていきましょう。

データの不整合

既存のデータと本番データの間に不整合が存在するにもかかわらず、アセスメント・テストのフェーズで発覚せず、本番環境に移行した後に問題が発覚するケースです。『Readiness Check 2.0』『SI Check』『ATC(ABAP Test Cockpit)』『Panaya』など標準・専門のツールを活用するだけでなく、テストを繰り返して地道に不整合を見つけることが重要です。

現場との認識の相違

システム移行のケーススタディについて調べると、推進側と現場側との認識の相違により、プロジェクトの遅れや停止につながる事例の多さに気付くはずです。例えばSAPではMRP(Material Requirement Planning:資材所要量計画)による管理が設計の前提となっており、日本式の柔軟性が求められる生産モデルとミスマッチを起こす可能性が指摘されています。生産現場では、生産スケジューラーやMES(Manufacturing Execution System:製造実行システム)などでERPの弱点をどう補うか、あるいはいかに現場との相互理解を得て生産モデルを変更するかという視点が求められるでしょう。

「SAP S/4HANA」のバージョンアップへの対応も

基幹システムの移行には十分な工数をかけた準備が必要なことはすでに述べた通りです。しかし、同時に変化する状況に合わせて迅速に対応を進めることが求められるのも事実であり、その理由に『SAP S/4HANA』も毎年(「2023」以降は2年に1度)バージョンアップされ、その度に見直すべき範囲が広がることがあります。「2022」以前の標準保守期限は5年、「2023」以降は7年であり、PCEの場合移行後も段階的にメンテナンスのサイクルを回すことが必要となります。

「Fit to Standard」は重要だが、バランスも求められる

「SAP S/4HANA」の導入に応じて業務プロセスや仕事のやり方を変える「Fit to Standard」は、基幹システムの刷新を通して企業が新たな競争力を獲得するために重要な考え方だと言われています。

実際、先に述べた通り「SAP S/4HANA」への移行にあたって変化が生じることは避けられないこともあり、クラウド時代にあったシステム利用のあり方を導入することは長期的に効果的な方針といえます。とはいえ、長年親しんだ業務プロセスを大幅に変えることは現場とのハレーションに直結します。現場の利用状況を把握した上でトレーニングを提供したり、必要なアドオンを見極めた上で引き継いだりと、"スタンダードに移行しつつ既存の業務のコアとなる強みは逃さない”ための取り組みが必要となるでしょう。

認識の変更や方針の見直しを前提に、早期からの動き出しを

「SAP S/4HANA」移行の手順と押さえるべき注意点について解説してまいりました。移行にかかる金額や工数、現場の認識を正確に見積もり、把握することは難しく、プロジェクトを進める中で何度か認識の変更や方針の見直しが求められることになるはずです。それらに対応するためにも、早期に移行あるいはそれ以外の選択肢も含めて決断を行いましょう。

そもそもERP(統合基幹業務システム)とは何か、そのメリットとは、などのポイントについて知りたい方は、『ERP(統合基幹業務システム)とは? 用途やメリット、導入の注意点を解説』をぜひご参照ください。

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