モバイル端末の活用や、リモートワーク・テレワークの導入にあたって、シンクライアントでのICT利用を検討する方も多いでしょう。
シンクライアントとは何で、どんなメリットがあるのか?実現方式にはどのようなものがあるのか? クラウドとはどう違うのか?
本記事では、誰でもシンクライアントを理解できるよう、気になる上記のポイントを基本から解説します。
シンクライアントとは、クライアントPCの機能を最小限にとどめることで、セキュリティ性や管理のしやすさを実現するクライアント/サーバー方式のICTネットワークです。最小限の機能とは、ディスプレイへの表示、キーボードやマウスによる操作など。反対に排除されるのは、HDD、SSDなどの大容量記憶媒体や、USBやSDカードへのデータの持ち出し機能です。
すなわち、サーバー以外のエンドポイントを「Thin(薄い) - Client(クライアントPC)」とすることで、万が一端末が失われたりなんらかのウイルスに感染したりしても、ロックしたり奪ったりするデータが存在しない状況を構築するということです。また、データの持ち出しも不可とすることで、情報流出の可能性を減少させることができます。加えて、OSやアプリケーションをサーバー側で一括管理することでアップデートや監視が容易になるのもメリットの一つです。
シンクライアントの対義語はファット(太った)クライアントで、大容量記憶媒体やアプリケーションなど多様な機能を持つ、我々が慣れ親しんだいわゆる“普通の”PCのことです。当然、内部には価値あるデータが蓄積されているため、紛失やウイルス感染で発生する被害のリスクはシンクライアントに比べて高くなります。
ただし、シンクライアントは、いわばクライアントPCをサーバーに接続しなければ業務に満足に使えない箱にするということです。そのため、高機能なサーバーと安定したネットワーク環境を構築することは、クライアントPCを利用する上で必要不可欠といえます。
シンクライアントを実現する方法は「ネットワークブート型」「画面転送型」の2種類に分かれます。
ネットワークブートとは、「ネットワーク」経由でOSイメージやアプリケーションをダウンロードし、「ブート(boot:起動)」するということです。ダウンロードがすんでしまえばファットクライアントと同様自由度高く利用できますが、それまでのプロセスで時間がかかりがち、かつリスクが発生するのがデメリットといえます。
「画面転送型」はその名の通り、サーバーで計算や記憶といった指示を実行し、その結果をシンクライアント端末で表示します。また、キーボードやマウスから入力した情報はそのままサーバーへ転送され、指示を実行します。
また、画面転送型にはさらに「ブレードPC」「サーバーベース(SBS)」「VDI」の3種類が存在します。
ブレードPCとは、CPU、メモリ、大容量記憶媒体といった構成要素を基盤(ブレード)に集約し、その基盤と一対一で接続されたクライアントPCを持ち歩いて利用する方式です。
ブレードPCは、ファットクライアントを利用する時と同じように自由度が高く、サーバーへの負担も小さいことがメリットです。ただし、その分導入コストはほかの方式と比べて大きくなります。
社内のサーバーで処理を実行し、個々のクライアントPCに結果を転送する方式です。サーバーを複数のクライアントPCで共有し、アプリケーションを呼び出して利用する方式のため、ブレードPCに比べて、コストの削減につながります。一方、利用できるのはアプリケーションのみであり、また利用台数が増加すれば負担が大きくなるため、大規模なデータ処理や大勢での利用には向いていません。
「Virtual Desktop Infrastructure:仮想デスクトップ基盤」の略で、PCのデスクトップを仮想化(詳しくは『「仮想化」とは? コンテナとの違いとともに解説』をご参照ください)することで、OS、アプリケーション、データなどを1台のサーバー上で複数利用できるようにする方式です。サーバーベース型でありながら、自由度高くデスクトップ環境を利用できるため、現在最も利用されることが多い画面転送型のシンクライアント方式です。
テレワークやリモートワークをはじめとする企業のICT利用を促進する手段として、クラウドを思い浮かべる方も多いでしょう。
クラウドとシンクライアントは、データ処理と保存に関わるテクノロジーですが、基本的には異なる性質と特性を持っています。
そのため、クラウドはシンクライアントと対置させる概念ではなく、クラウド型シンクライアントといったような両者を組み合わせたソリューションも存在しています。
シンクライアントとファットクライアントどちらを選択するのが良いのか、その問題は「クラウドか、オンプレミスか?」を検討するのとも似ています。
クラウドのメリットは、サービスとして仮想デスクトップ環境を利用することで環境構築の手間を大幅に削減でき、さらにコストの平準化にもつながるということです。一方、オンプレミスは自社でデータを管理できる点と、カスタマイズ性の高さが導入の理由となります。
両者の特性についてより詳しくは『いまさら聞けないクラウドの基本 パッケージ・オンプレミス・SaaS・ASP……それぞれの違いとは?』をご参照ください。
シンクライアントの概要やメリット、実現方法などについて詳しく取り上げてきました。シンクライアントをどの方式で実現すべきかは、企業ごとのセキュリティポリシーと業務内容、扱うデータの質などに左右されます。また、5Gなどネットワーク技術の進化・普及によっても状況は変化していきます。
それら内外のあり方に合わせて、最適なシンクライアント環境を構築しましょう。