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ダボス会議で知られる世界経済フォーラムが1000工場の中から選んだ世界最先端な16工場(前編)

レンテックインサイト編集部

 ダボス会議を主催していることで知られる世界経済フォーラム(以下WEF)は、インダストリー4.0の模範となる最先端の工場16工場を発表。 世界中1000工場の中からヨーロッパ10工場、中国5工場、アメリカ1工場が選出されました。日本から選出された工場はありませんでした。

インダストリー4.0のコンセプトの核となるのは「スマートファクトリー」です。 スマートファクトリーでは工場内の機械や管理システムを全てインターネットに接続し、製造プロセスを効率化します。 また多品種、高付加価値な商品の大量生産「マス・カスタマイゼーション(Mass Customization)」を可能にします。 また、IoT技術を導入することで、機械の温度や湿度、稼働情報などをデータとして収集し、AIで分析して機械のパフォーマンスの低下を検出することで、 故障を事前に予知する予知保全を可能にします。WEFが発表した16工場はまさにこのスマートファクトリーの先駆けとなる工場です。 インダストリー4.0については記事『“つながる”がキーワードの工場の変化の鍵』で詳しく解説しています。

今回、WEFが選出した16工場を前編・中編・後編に分けて紹介します。前編の本稿では4工場を紹介します。

➀製薬メーカーバイエル・ディビジョン・ファーマシューティカルズ社
イタリア・ガルバニャーテ工場 - デジタルツインで生産計画を最適化

 バイエルのガルバニャーテ工場では、デジタルツインで大量生産時の生産計画を最適化しています。 デジタルツインとはインダストリー4.0の核となるコンセプトの一つで、物理空間にある現実の工場の機械や設備の稼働状況、 環境情報などのデータをセンサを通して収集し、物理空間と同様の状況をそっくりそのままコンピュータ上に再現します。

ガルバニャーテ工場では、このデジタルツインによって工場の機械や設備のパフォーマンスや生産状況をリアルタイムに把握し、 それをもとに最適な生産計画を立てることで生産性向上に取り組んでいます。 これにより、総合設備効率を40%向上、標準偏差を80%低減することに成功しました。 (WEF発表)

デジタルツインに関しては記事『ロボットの動きを見える化する「デジタルツイン」』で詳しく解説しています。

➁自動車メーカーボッシュ・オートモーティブ
中国・無錫工場 - 高度なデータ分析で予知保全

 ボッシュ・オートモーティブの中国・無錫工場では、機械に取り付けた無線周波数測定器とセンサからデータを収集し、 機械のパフォーマンスをリアルタイムに分析することで、問題が起きているもしくは起きうる機械を検出し警告するシステムを完成させました。 さらに、このシステムでは機械に起きている問題の原因を特定できるようになっています。 これにより機械が停止する前の予知保全が可能となり、歩留まりを向上させることに成功。工場の生産性を高めています。

③家電メーカーハイアールの中国・青島工場
多品種・高付加価値な商品の大量生産「マス・カスタマイゼーション」

 ハイアールは顧客自らが自分好みにカスタマイズした家電製品を発注し購入できるプラットフォーム「COSMOPlat」を開発しました。 顧客が「COSMOPlat」上で入力したデータは中国・青島工場に転送されます。 この工場では機械のセンサから収集されるデータや、ロボットアーム、AIなどを一元的に運用することで、顧客個々のニーズにカスタマイズした家電製品を大量生産することが可能になっています。 製品が生産されている工程は顧客がオンラインで確認することができ、製品が完成すると顧客の元へ直接配送されます。 現在、中国・青島工場では顧客個々にカスタマイズされた商業施設用エアコンを年間1000台以上生産しています。 まさにインダストリー4.0の「マス・カスタマイゼーション」の先駆けとなる工場といえます。

④医療機器メーカージョンソン・エンド・ジョンソン デピューシンセス
アイルランド・コーク工場 - デジタルツインで工場の生産現場を見える化

 股関節と膝関節の人工関節を生産するジョンソン・エンド・ジョンソンデピューシンセスのアイルランド・コーク工場では、デジタルツインを導入して生産現場の見える化を行っています。 デジタルツインを導入する以前はホワイトボードに工場の機械のパフォーマンスを手書きで記録し共有していましたが、 データを十分に生かすこともできない上に手間とコストがかかりミスも起きやすい状態でした。
そこで、機械にセンサを設置してデータを収集・分析し、機械のパフォーマンスをリアルタイムにスクリーン上に表示して確認できるようにしました。 機械のパフォーマンスが正しく把握できるようになったことで最適なタイミングでメンテナンスを行えるようになりました。 結果的に工場のダウンタイムを5%、運用コストを10%削減することに成功しています。

本稿で紹介した工場のように、スマートファクトリーを実現している工場はすでに存在しています。スマートファクトリーはもはや机上の空論ではないのです。 今回はWEF選出のインダストリー4.0の模範となる16工場のうち4工場をご紹介しました。残り12工場の紹介は中編・後編に続きます。

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