ロボット Insight

ロボットの動きを見える化する「デジタルツイン」

レンテックインサイト編集部

ここ数年、企業のICT活用トレンドとして、さまざまなコトやモノをデジタル化することにより、人々の生活や仕事をあらゆる面で良い方向に変化させるデジタルトランスフォーメーションに注目が集まっています。 製造業も例外ではなく、最新のデジタル技術を導入して、ロボットの動きを見える化する手法も登場しました。

ドイツが国を挙げて進める「インダストリー4.0」とは!?

モノづくり大国と称されるドイツでは、2011年から「第4次産業革命」ともいわれるプロジェクト、インダストリー4.0(Industrie 4.0)が立ち上がりました。 インダストリー4.0はドイツ連邦政府、州政府、産業界、学界による総力を挙げた取り組みとして、各国の産業界から注目を浴びています。
インダストリー4.0を促進する手法の一つが、「デジタルツイン」です。デジタルツインでは、IoTやAR(Augmented Reality / 拡張現実感)、 VR(Virtual Reality / 仮想現実感)などの最新デジタル技術を活用して、物理空間で起きている現象をほぼリアルタイムにサイバー空間で再現することを可能にします。 デジタルツインを活用すれば、遠隔地からロボットの動きを見える化して制御・管理することができるようになるのです。デジタルツインが、実際どのようにロボットの動きを見える化するかを紹介する前に、 改めてインダストリー4.0の概要と、なぜ第4次産業革命ともいわれているのかについて整理したいと思います。

人類は18世紀半ばまで、「道具」を人間の力で動かしながら生産活動を行っていました。 その生産活動が、蒸気機関の発明によって生まれた「機械」に引き継がれたことで、産業革命が起きたとされています。 本来、産業革命には第1次、第2次などの明確な定義はありませんが、最初の産業革命からほぼ100年後に「電気」が発明されたことで、 人類の生産活動は機械を一斉に動かして大量生産を可能にする、第2次産業革命に移行したと見られています。 そして近年では、ITの力を借りることで製造工程の自動化と高速化を実現する、第3次産業革命へと進化しています。

現在、ドイツが国を挙げて進めているインダストリー4.0は、ITの力を借りて自動化・高速化された工場における生産活動を、 さらにデジタルの力を借りて効率化させようとしていることから、第3次産業革命をさらに進めた第4次産業革命になるといわれています。 インダストリー4.0では、工場自らがさまざまな機械の制御や管理を行い、生産を最適化する工程を考えるなど、 複数の工場が連携しながらベルトコンベアーのように製造工程をつなげる「スマート工場」を実現しようとしています。 スマート工場の実現には、デジタル化されたデータが重要な役割を持ちます。これまでの産業革命においては、石炭や石油などの化石燃料や原子力がエネルギーとして重要な役割を持っていたように、 第4次産業革命では「データがエネルギーになる」ともいわれています。

インダストリー4.0の実現に必要とされる「デジタルツイン」

インダストリー4.0を促進する手法の1つといわれるデジタルツインは、「ツイン(双子)」という言葉が表すように、最新のデジタル技術を活用して、 遠隔地で起きている物理現象を、まさに“双子”のように再現する手法といえます。 デジタルツインによって、工場で動いている産業ロボットの動作状況を、遠隔地のコンピュータ画面からリアルタイムに確認することができるのです。
これまでも、ロボットの動きを画面上で確認するシミュレーションの手法は存在し、一見すると、デジタルツインと同様に思われがちですが、いろいろと異なる点があります。 従来のシミュレーションは、コンピュータ上に作成されたバーチャルモデルに対して、作業負荷や室温、電力変化などといった外部要因のみをパラメータとして動かしていました。 したがって、シミュレーションでは一度作成されたバーチャルモデルが内部要因によって変化することはありません。

これに対してデジタルツインでは、IoTを利用し、実際に動いている産業ロボットの内部に取り付けた各種センサからリアルタイムにデータを取り出し、 バーチャルモデルの内部にあるモーターやギヤ、軸などといった部品に適応させます。 ロボットを継続的に使用することで生じる部品の摩耗や、温度上昇による膨張などの物理現象も取り込み、現実世界で起きている現象を忠実に再現することができます。 さらに、工場で稼働している産業ロボットにトラブルが起きた際には、その原因を内部から詳しく知ることができる他、部品の劣化や摩耗による故障が発生する前にメンテナンスを行うという、 高精度の予防保全も実現に近づいています。

現在デジタルツインは、ロボット以外にもさまざまな領域での活用が期待されています。 例えば、航空機のエンジンに各種センサを取り付け、毎回のフライト後に収集したデータを分析して、デジタルツインでバーチャルモデルに反映すれば、各パーツの消耗状況や交換時期を正確に予測することができます。 今後、自動車、家電、建設など、さまざまな分野で、保守・メンテンナンスの効率化や、故障の予見にもつながるデジタルツイン注目を集める機会が増えるかもしれません。

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