ドイツが総力を挙げて取り組んでいる「インダストリー4.0(Industrie 4.0)」では、遠隔からロボットの動きを見える化するなど、最新のデジタル技術を駆使して、ものづくり に革命を起こそうとしています。 今回はこのインダストリー4.0の一環である、製造工程を効率化するための「工場そのものをスマート化」する取り組みのご紹介です。
インダストリー4.0を促進する手法の一つに、以前の記事でもご紹介しました「デジタルツイン」があります。 デジタルツインでは、IoTやAR(Augmented Reality / 拡張現実感)、VR(Virtual Reality / 仮想現実感)などの最新技術を駆使して、 製造装置やロボットなどにトラブルが発生した際、内部から詳しく原因を知ることを可能にしています。 一方で、モノづくりを効率化させるためには、製造工程そのものを最適化させる必要があります。 日本のモノづくりの歴史を振り返ると、戦後の高度経済成長を支えてきたのは、少品種・大量生産という手法でした。 当時は今よりも製品のライフサイクルが長かったため、一つの製品を大量に製造し、市場の飽和が見え始めた頃、ようやく次の新しい製品を開発する、といったサイクルでした。 文字通り、少ない品種を大量に生産することで市場のニーズに応えることができていたため、製品の品質確保もしやすく、結果として、 「日本製品は、価格が安くて質が高い」という評価が海外まで広がり、さらに生産量と売上を伸ばすことができたのです。
しかし、現在はライフスタイルの変化や消費者ニーズの多様化など、さまざま要因で製品のライフサイクルが短くなっています。 さらに、以前は一部の流通ルートのみでしか購入できなかった特殊製品でも、インターネット通販をはじめ、購入経路や手段が多岐にわたり、消費者が自由に選べる状況となっています。 こうした背景から、従来の少品種・大量生産ではさまざまなリスクが伴うため、消費者のニーズに沿った多品種の製品を、ニーズに応じた量だけ生産する、多品種・大量生産が今のモノづくりに求められているのです。
もともと日本のモノづくりは、「町工場」と呼ばれる中小企業の工場が中心となり、 そこで活躍する職人たちの「職人技」を武器に、さまざまなメーカー向けの特殊部品や製品を生産する、「多品種・少量生産」を得意としていました。 そのノウハウを生かして、大企業が多様な製品を大量に生産するモノづくりの手法が多品種・大量生産です。
少品種・大量生産から、多品種・大量生産への流れは日本に限ったことではありません。
近年は、価格競争力を持つ新興国の製品が数多く台頭しているため、先進諸国には、より付加価値を持った製品開発が求められています。
そのため、インダストリー4.0においても、「マス・カスタマイゼーション(Mass Customization)」というキーワードで、多品種・大量生産の実現に向けたさまざまな手法が提案されているのです。
多品種の製品を生産するためには、1台の機械が複数品種の製造に関わる必要があります。
さらに、大量生産を実現するためには、複数の機械を連携稼働させることも必要です。
そこで求められるのが、製造機械メーカーの壁を越えた機械の「つながる化」なのです。
インダストリー4.0では、つながる化を実現する手法の一つとして、「管理シェル」というものを考案しています。
インダストリー4.0における管理シェルの位置付けは、設備や機械などのモノだけでなく、生産システムや生産計画、注文書の内容といったように、製造に関する一連の要素を繋ぐことであり、
工場にあるすべての機器をネットワークに直接接続するのではなく、さまざまな機器をつなげるインターフェースのような役割です。
日本企業においても、さまざまな機器を接続して生産性の向上と効率化を目指したオープンプラットフォームを構築する動きが見られています。 ファナック株式会社(※以降「ファナック」と表記)では、シスコシステムズ合同会社、ロックウェル・オートメーション、株式会社Preferred Networks(プリファードネットワークス)などと協業し、 ロボットや工作機械、FA機器、センサ などをネットワークでつなげるプラットフォーム「フィールドシステム(FANUC Intelligent Edge Link and Drive System)」の構築を進めています。 ファナックが目指しているのは、複数の機械による協調制御や予防保全の実現による生産性の向上です。 オープンアーキテクチャのプラットフォームを提供することで、ファナック以外のメーカーの機械やセンサもネットワークに接続できるようになります。
また、三菱電機株式会社が提案するスマート工場向けのプラットフォーム「FA-ITオープンプラットフォーム」では、 生産現場のデータを収集する「データコレクト機能」、生産現場のデータモデルを構築する「データモデル管理機能」、 さまざまなクラウドに接続するための「ゲートウェイ通信機能」といった三つの機能が提供されています。 これらの機能では、工場内で流れる異種のプロトコル情報を変換して、さまざまなFA機器やITシステムが接続できるようになるそうです。
他にも、株式会社日立製作所とオークマ株式会社、株式会社東芝とキヤノン株式会社など、大手メーカー各社が、スマート工場の実現に向けた連携を進めています。 今後も、工場や製造装置のオープン化の波は国内外でどんどん進んでいくと見られ、その流れを積極的に取り入れて製造の効率化を進めることが、さまざまな製造業に求められると言われています。