測定器 Insight

IoTに活用されるBluetoothのしくみとは?

レンテックインサイト編集部

Bluetooth がIoT用途で注目されている理由とは?

 Bluetoothはキーボードやヘッドホンなどを無線接続するためによく使われる技術規格ですが、近年IoT用途でも注目されています。 その理由はどこにあるのでしょうか?無線接続にもいくつかの方式がありますが、Bluetoothと同じ2.4GHz帯を使用する無線LANと比べてみると、 BluetoothがIoTで注目される理由が明らかになります。

無線LAN(IEEE802.11シリーズ規格)の主な用途は、PCあるいはワークステーション(以下、PCと総称)と呼ばれる小型コンピュータを有線LANに接続することです。 この用途では、有線LANと同様の使い勝手を実現するために通信速度が高速であることが求められ、近年そのレベルは数百Mbpsから規格によっては数Gbpsに到達しつつあります。 オフィス内を移動しながら使う要求に応えるため、通信の到達範囲は最低でも10メートルから数十メートルあり、場合によっては数百メートル以上で使われる場合もあります。

一方、Bluetoothの主な用途はマウス、キーボード、ヘッドセットのような低速の周辺機器をPCに接続することです。 この用途では高速性は必要ないため、Bluetoothの当初の規格では通信速度は1~3Mbps程度、最近の新しい規格でも24Mbpsしかありません。 通常、マウスのような周辺機器はPC本体のごく近傍で使うため一般的には到達距離10メートル以下の製品が多数を占めており、 規格上でもBluetoothは最長100メートル(低速モードで400メートル)の通信にしか対応していません。

測定器 Insight 図1 無線LANとBluetoothの役割分担

(図1 無線LANとBluetoothの役割分担)

つまりBluetoothは無線LANよりも「遅く、狭い」通信規格なのですが、その代わり電力とメモリの消費が少ないメリットがあり、これがIoT機器用途に適しています。 IoTデータ収集には高速通信は不要で、それよりも電源の取れない場所で小さなセンサーを長時間稼働させるために少ない電力・メモリで動くことが重要だからです。

Class, BR, EDR, BLE, SMARTなど、Bluetoothに関わる謎の略称を探る

 Bluetooth関係の規格を調べているうちに、謎の略称が多いために混乱してしまった方も多いのではないでしょうか。 簡単なものから挙げていくと、まず Class は電波出力を規定していて1~3の三つに分かれており、Classによっておおまかな最大到達距離が決まります。 実際には日本国内では電波法の規制により50mWまでしか出せないため、Class1と2の中間の出力を持つ製品を Class1.5と称している場合もあります。

測定器 Insight 図2 Class と到達距離

(図2 Class と到達距離)

 BR, EDR, BLEなどはいずれも動作モードと呼ばれる概念で、意味は図3を参照してください。 BR(Basic Rate), EDR(Enhanced Data Rate), HS(High Speed)の3種をBluetooth Classic と総称します。 注意が必要なのは Bluetooth 4.0 以降で規定されている BLE(Bluetooth Low Energy)はClassic とは別な規格であり、互換性がないことです。 これはそもそも想定している用途が違うことによるもので、本来 Classic と BLE は完全に別物と考える方が妥当です。

Bluetooth SMARTおよびSMART READYの表記はClassicとBLEへの対応を示すために使われていましたが、 この表記は2016年で廃止されたため現在は使われていません。

測定器 Insight 図3  Bluetooth規格の制定年・通信速度・動作モード

(図3  Bluetooth規格の制定年・通信速度・動作モード)

 Bluetooth Classic はもともとマウス、キーボード、ヘッドホンなどを接続するための規格であり、 通信を行う機器同士は最初にペアリングを行わなければならず、一度接続したら一定時間継続的に通信し続ける用途を想定しています。 一方、BLE (Bluetooth Low Energy) は極めて短時間の通信を断続的に行う用途を想定しています。 IoTデータ収集用途はこれに合致するものが多く、通信中以外はほとんど電力を消費しないためボタン電池1個で数年間稼働する機器も実現可能なことからIoTでよく使われています。 BLEではアプリの設計によってはペアリングも不要なため、ショッピングモールなどに来店した不特定多数のスマートフォンを検知してデジタルサイネージを展開したり特別な広告メッセージを送ったりする応用も可能です。 この種の応用モデルを「ビーコン」機能と言い、iPhoneやAndroidのスマートフォンに搭載されています。

測定器 Insight 図4 Classic と BLE の動作イメージ

(図4 Classic と BLE の動作イメージ)

 IoT用途のBluetoothを考える際に欠かせない新しいキーワードがMeshネットワークです。 これはオフィス内や工場/農場内など一定の領域にきめ細かく環境センサーを配置するような用途を想定したもので、 メッシュ状に配置されたBLEデバイスがバケツリレーのように信号を受け渡してゲートウェイ(GW)ノードへ届けるモデルです。 これによって電波の到達距離を個々のBLEデバイス単体の限界を超えて延長することができ、低コストで広い範囲からデータ収集を行う方法として期待されています。 Meshネットワークは2017年に仕様が公開された新しい規格であり、今後応用が進んでいくと思われます。

測定器 Insight 図5 Meshネットワーク

(図5 Meshネットワーク)

Bluetoothも2.4GHz ISMバンドを使用する

 Bluetooth通信に使う周波数は2.4GHzのISM帯で、そのほぼ全域を使用します。 (2.4GHzISMバンドについて参照) デジタルデータを搬送波(電波)に乗せる一次変調としてBluetooth Classicでは主にPSK(位相変調)を、BLEではFSK(周波数変調)を用いています。 いずれも二次変調ではISM帯の混雑を避けるため周波数を短い時間の間に次々と切り換える周波数ホッピングを行っています。 周波数ホッピングはノイズや混信に強く秘匿性が高い特長があり、Classicでは1MHzおきに設定された最大79チャネル、 BLEでは2MHzおきに設定された最大40チャネルの何れかを移動します。

プロファイルとは?

 一般の無線LAN規格はOSI7階層モデルでいう物理層とデータリンク層を規定していますが、Bluetoothはアプリケーション層まで規定している、 というのも無線LANと違う点の一つです。 これは無線LANがあくまでも「有線LANネットワーク」に接続するための規格であるのに対して、Bluetoothは「周辺機器とPCを接続する」ためのものであったためです。 同じように周辺機器とPCを接続する技術であるUSBには「デバイス・クラス」という概念があり、 デバイス・クラスごとに共通の標準的なデバイス・ドライバがOSレベルで提供されているため、ドライバのインストール不要ですぐに使えるメリットがあります。 同様にBluetoothには「プロファイル」という概念があって接続する機器の種類を表しており、アプリケーションがスタンダードなプロファイルに対応することで、 同じプロファイルを持つ任意のBluetooth機器を接続することができます。

IoT時代のBluetooth

 Bluetooth規格はPCと周辺機器を無線接続する技術としては完全に確立し定着したといえます。 さらに現在ではその低消費電力性を活かしたIoT向けの大きな拡張もなされており、今後のIoT時代により応用範囲を広げていくことでしょう。

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