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2.4GHz ISMバンドについて

レンテックインサイト編集部

2.4GHzはWi-FiやBluetoothなどの無線通信でよく使われる周波数帯域です。 無線を使うと配線なしで通信が可能なことから、IoT向け小型デバイスなどでの活用例が近年増えています。 しかし、配線不要という利便性は同時にほかの電波による干渉を受けやすく安定性が低いという問題と表裏一体の関係にあります。 電波の管理体制の基本とともに2.4GHz帯活用に当たっての基本的な注意事項を知っておきましょう。

電波は有限な資源であり勝手には使えない

無線通信の簡単なイメージを書くと図1のようになります。

無線通信と混信・干渉のイメージ

図1 無線通信と混信・干渉のイメージ

電波は四方八方に飛んでいくため、実用に供するには混信や干渉(以下、干渉と総称します)を防ぐ対策が必要です。その方法は大まかに図2に示す5種類があります。

干渉を防ぐ方法の概要

図2 干渉を防ぐ方法の概要

「①周波数を分ける」のは干渉対策の基本といえます。TV放送でいう「チャンネル」も実際は周波数の違いを表しています。
「②距離を離す」とは、文字通り近くで使わないようにすることです。 放送のように広い範囲に届く電波を無秩序に発信すると干渉が起きやすいため、 地上波TVやラジオなどでは、隣接する放送区域では同じ周波数を使わないようになっています。 そのように考えると「電波は有限な資源である」ことがわかります。

有限な資源である電波を有効利用するためには適切に管理しなければなりません。 そこで、原則として無線電波を発信するためには総務省に申請して無線局としての免許を得る必要があります。 ただし条件によっては免許よりも簡素な手続きで済む登録のみでよい場合、あるいは免許も登録も不要な場合があります。

例えばコードレス電話機やBluetoothヘッドホンも電波を発信する機器ですが、これらの使用にあたっては無線局免許や登録は必要ありません。 免許・登録が不要になる条件は数種類ありますが、中でも重要なポイントは電波出力が小さいことです。 ごく近距離にしか届かない小出力の電波のみ発する無線設備は干渉を起こしうる範囲が小さいため、規制が緩和されています。 つまり「③出力を落とす」ことが干渉対策の三つめになります。

ISMバンドとは?

家庭で電子レンジを使っている時に無線LANやBluetoothヘッドホンの調子が悪くなった経験はありませんか? これは電子レンジの使っている電波の周波数が無線LANやBluetoothで使用している2.4GHz帯に近く、干渉を起こしてしまうためです。 電子レンジは電磁波で食品を加熱する機器ですので、動作中に強力な電波を発生します。 といってもそのほとんどはシールド(遮蔽)されているため筐体の外には出てきませんが、ごく一部漏れ出した電波がBluetoothなどに障害を起こすことがあります。
つまり「④遮蔽する」のが干渉対策の4つめです。 大出力の電波を使用する機器でも、外部に漏れないように遮蔽して使えば干渉は起きません。 電子レンジがその身近な例であり、遮蔽により影響が小さく抑えられています。

ここで、電波を通信以外に使う用途も押さえておきましょう。 食品の加熱(電子レンジ)、医療機器(MRI)、半導体製造(プラズマ・エッチング)、各種レーダーなど、電波は通信以外にも多種多様な用途に使われています。 代表的な応用分野が産業技術(Industrial)、科学技術(Scientific)、医療(Medical)であることからそれらの機器を総称してISM機器、 ISM機器が使用する周波数帯をISMバンドと呼び、利用するための免許・登録は基本的に不要です。 ISM機器の目的によって利用する周波数が異なるため、ISMバンドは低周波数からマイクロ波領域までいくつもの周波数帯が指定されています。(図3参照)

ISM 周波数

図3 ISM 周波数

さまざまな用途に使われる2.4GHz帯ISMバンド

ISMバンドの一つである2.4GHz帯周辺の状況を見てみましょう。 図4は2.3GHzから2.6GHzにかけての日本における周波数割り当ての概要です。 この周波数帯の電波は上下の周波数帯に比べて適度な直進性と回折性があり、 波長が13cm~11.5cmと短いため小さいアンテナで送受信できるなど、移動通信や屋内レベルの近距離通信で扱いやすい特長があり、デバイスも豊富です。 一方、電離層の影響を受けず雑音や大気の減衰も少ないため衛星通信などにも向いています。

周波数割り当て状況

図4:周波数割り当て状況(総務省資料を基に作成)

具体的には図4で2.3GHz帯の放送事業とあるのは、テレビ放送の移動中継などに使われているものです。 2.5GHz帯の移動衛星は衛星携帯や船舶電話の衛星との通信、2.545GHz以上の広帯域移動無線アクセスシステムは無線によるインターネット接続のための周波数で、 「WiMAX」として知られる無線接続などが該当します。

本記事のテーマに掲げた2.4GHzでは、当然ながら全域に亘ってISMが第一優先で割り当てられており、その代表例が先に挙げた家庭用の電子レンジです。
ISM以外では下半分がアマチュア無線に、上限付近は道路交通情報の「VICS(Vehicle Information and communication System)」 ビーコン用に割り当てられています。 移動衛星にも一部使用割り当てがあります(2483.5~2497MHz)。 VICSのアンテナ出力は路側・車載共に10mWですが、アマチュア無線は2400から2450MHz の範囲で移動・固定で2W、月面反射通信を行う場合は100Wまでが許可されます。 他にはデジタルコードレス電話、模型飛行機のラジコンにも使われています。

混雑が激しい2.4GHz帯ISMバンドでの干渉対策とは?

2.4GHz帯は無線LAN、Bluetooth、ZigBee、RFIDといったIT通信用途にも使われており、特に近年無線LANの利用が増えています。 それぞれの概観については図5をご覧ください。

2.4GHz帯を使用する主なデジタル通信技術

図5 2.4GHz帯を使用する主なデジタル通信技術

現実の2.4GHz ISM帯ではISM機器よりもむしろこれらの通信アプリケーションによる電波で満ちています。 各々は独自の周波数を使っていますが、その範囲は大きくオーバーラップしているため干渉対策の①は成立せず、 ②距離を離す、③出力を落とす、④遮蔽するといった対策を取ろうとするといずれも利便性を大きく下げてしまいます。 そこで残る干渉対策の手段が「⑤符号化する」ことです。
現代のデジタル通信では情報を「符号化」してから電波に乗せています。 符号化によって得られるメリットの一つが電波の干渉・混信に強くなること(ほかにノイズの低減や暗号化など)です。 符号化にもさまざまな方法があり、Bluetoothではチャネルをランダムに移動する周波数ホッピング、 無線LANでは多数の周波数帯に信号を分散させるOFDMなどの方法が使われています。 デジタル信号処理技術によって生まれたこれらの新しいしくみを本記事では総称して符号化と呼んでいます。
2.4GHz帯は非常に手軽に使用できる周波数帯であり、IoTやM2Mの広がりとともに今後も活用が進むと考えられるため、 これらの技術はますます重要になっていくことでしょう。

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