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中堅企業で急増中!AI搭載SIEMの活用と押さえたい導入のポイント

レンテックインサイト編集部

中堅企業で急増中!AI搭載SIEMの活用と押さえたい導入のポイント

サイバー攻撃が高度化する中、「AIを活用した次世代SIEM」が注目を集めています。しかし、「設定が複雑で導入に踏み切れない」「誤検知で業務に支障が……」など、その導入・運用に悩みを抱える担当者は少なくないのではないでしょうか。

本記事では、大企業~中堅・中小企業がAI搭載SIEMを導入する際に押さえておくべきポイントを解説。導入から選定、運用までの各フェーズでよくある課題を踏まえ、現実的な導入と定着に向けた実践的なアプローチをご紹介します。

【関連記事】SIEMとは?仕組みや導入メリットを解説

「AI搭載SIEM」とは? 「もはや人力では追いつけない」時代の到来

「SIEM(Security Information and Event Management)」とは、企業内に分散する各種セキュリティログを一元的に収集・分析することで、脅威の兆候を可視化・検知するサービスです。従来のSIEMはあらかじめ定義されたルールに基づいて「ログの収集・可視化」「分析・脅威検出」「セキュリティ対策の提案」などを行い、セキュリティ負担の軽減で効果を発揮していました。

それに対し、本記事でご紹介する「AIを組み込んだ次世代SIEM」では、AIが大量のログやアラートを学習・分析することで、異常のパターンや振る舞いを自動で検知します。その結果、可能になるのがルールベースのアプローチでは難しい未知の攻撃や巧妙な内部不正への対応です。さらに、AIが自動で脅威を分析することで、セキュリティ運用の負荷軽減と検知精度の向上もより進むことが期待されます。

背景整理──「もはや人力では追いつけない」時代の到来

近年のAIの普及は、サイバー攻撃の高度化・容易化という副作用ももたらしました。『NICTER観測レポート2024』(国立研究開発法人 情報通信研究機構)によると、2024年に観測されたサイバー攻撃関連通信は約6,862億パケットで、2015年の約631.6億パケットから10倍以上に拡大しています。

それに伴い、セキュリティログの量も爆発的に増加。ファイアウォール、EDR、クラウドサービス、アプリケーション層まで、生成されるログは月間数TBを超えることもあります。こうした膨大なデータは、例えSIEMを用いて統合したとしても、人力ベースで精査・分析するのは困難です。

そのため従来型SIEMでは不要・誤検知を含む脅威通知への対応に担当者が忙殺される「アラート疲れ」が課題となっており、企業には対策が求められています。

そこで、AIで大量のログをリアルタイムで処理・分析し、異常の兆候を自動で検知するだけでなく、「どのアラートが真に重要なのか」まで判断してくれる次世代SIEMに注目が集まっているのです。

特に、情報システム部門が少人数で業務を担っている企業では、24時間365日のセキュリティ監視や、複雑なチューニング作業を人手で行うのは現実的ではありません。そのため、「AIが自動で検知・分類してくれる」「運用負荷を減らせる」といったメリットからAI搭載SIEMへの注目は高まっています。

とはいえ、AI搭載SIEMは「魔法の杖」ではありません。使いこなし、期待通りの結果を得るためには、適切な準備と現実的な課題を踏まえた対策が不可欠です。続いて、そのリアルな実情について詳しく見ていきましょう。

AI搭載SIEM導入・選定・運用のリアル──押さえるべき三つのポイント

AI搭載SIEMの導入を成功させ、安定した運用を実現してアラート疲れやセキュリティ人材不足といった課題を解決するには、どういった点に気を付ける必要があるのでしょうか?

導入検討・選定・運用の各フェーズで企業が押さえるべきポイントを、リアルな現場の声を踏まえてご紹介します。

第1のポイント──「前提や期待値の共有が不可欠」

AI搭載SIEMの導入において、最初に立ちはだかるのが‟社内の認識ギャップ”です。

例えば、セキュリティ担当者や情シス部門が「人力の限界」を痛感し、AIによる効率化を望んでいても、社内の別部門や経営層からは「うちにはまだ早い」「高価なツールに頼る前に、運用を見直すべきでは?」といった声が返ってくることがあります。その一方で、「AIで全部自動化できるんでしょ?」と導入前に過度な期待が寄せられることで、計画が実態と乖離してしまう場合も。

AI搭載SIEMは魔法のツールではなく、人の関与を前提とした設計・運用体制があって初めて効果を発揮するものであり、「現実的な運用像」を共有することが必要不可欠です。

また、「導入の目的が曖昧なまま話が進んでしまう」ケースも多く見受けられます。例えば以下のような論点については事前に関係者の間で議論し、認識を共有しておくべきです。

・導入の一番の目的は人的負荷削減か、SOC費用の削減か、属人化対策か? ・今、現場でのログ管理やインシデント対応にどの程度の負荷がかかっているのか? ・そもそも、既存SIEMや監視体制で限界を迎えているという共通認識はあるのか?

このように、導入前に組織全体の理解・合意形成を行うことが新ツール導入の成否を左右します。

第2のポイント──「“AIの中身”はベンダーによって千差万別」

社内で合意形成が達成された後、立ちはだかるのが「製品選定」の壁です。AI搭載SIEMは近年数多くリリースされていますが、その“AIの中身”はベンダーによって千差万別です。

例えば、「AI」と言っても実際は単純な統計ベースのしきい値検知に過ぎないものもあれば、大規模言語モデル(LLM)を活用してログ文脈を理解する高度な仕組みを備えた製品も。

また、機能面だけでなく、以下のような構成・運用モデルの違いも重要な比較ポイントです。

【AI搭載SIEMの主な比較軸】

【AI搭載SIEMの主な比較軸】
比較軸 主な選択肢
提供形態 オンプレ型/クラウド型/ハイブリッド型
運用形態 自社運用/MSP連携/マネージドAI型
価格体系 アラート数/データ量/ユーザー数による従量課金など
対応範囲 ネットワーク機器だけか、EDR/クラウド/ID連携まで広げるか

このように選定には多くの判断材料が必要です。そのため、中には「カタログスペックだけで比較して導入を決めたが、実際には自社のログ形式に合わず、検知精度が上がらなかった」「AI機能がブラックボックスで、運用調整ができない」といった“導入後のギャップ” が生じる場合も。

こうした失敗を避けるためには、「自社の実データ(ログ)を使って試す」「自社の運用体制を模した形で試す」など、リアルを知るための「PoC(概念実証)」を実施し、納得感を持って導入に踏み切ることが重要です。

第3のポイント──「AIの精度を高めるには‟育成期間”が必要」

AI搭載SIEMの導入初期には、かえってアラートが増えたり、運用設計に時間を取られたりと、「導入したのに前より大変では?」と感じられるケースも少なくありません。多くの場合、AIは最初から“完全に自律した分析・判断”をしてくれるわけではなく、精度向上のための“準備期間”が必要です。この期間をどう乗り越え、どのタイミングで運用が“楽になる”のかを把握しておくことが、導入成功のカギとなります。

導入直後は、SIEMが出力するアラートに対して人がレビューし、正誤を判断してフィードバックする作業が不可欠です。このフェーズで重要なのは、「誰がアラートを見るか」「誤検知の判断を誰がするか」といった初期の役割分担を以下のように明確にしておくことです。

・ログレビュー担当(初期アラートの分類・誤検知チェック) ・チューニング担当(除外ルールや重複アラートの調整) ・フィードバック担当(AI学習プロセスに反映)

このフェーズでは、“少人数でも継続的に回せる体制”を作ることが肝心であり、最初から完璧な精度を求めすぎず、「数カ月かけて運用に馴染ませる」くらいの見通しが現実的です。その結果、徐々に、現場のアラート確認作業が「人が全部見る」状態から「人が判断すべきものだけを見る」状態へと移行していきます

そうして運用が安定し、AIが十分に自社環境のパターンを学習できるようになると、SIEMは単なる“ログ統合ツール”ではなく、「インシデントの予兆を検知し、アクションを自動提示してくれる伴走者」へと進化していきます。

この段階まで来れば、初期導入時の「面倒なツール」という印象は一変し、「少人数でも守れるセキュリティ体制」を支える基盤として本格的に活用されることになります。このように、AI搭載SIEMの“育成期間”を正しく設計し必要な役割を明確に配置することで、期待とのギャップを未然に防ぎ、計画通りに導入を進めていけるはずです。

中堅・中小企業が押さえるべき次世代SIEM導入・定着のポイント

AIを組み込んだSIEM製品の導入は、大手企業だけでなく中堅・中小企業にも広がりつつあります。背景には、クラウド化やゼロトラストの浸透に伴うセキュリティ要件の複雑化、そして「人的リソースの限界」があります。

IPA(情報処理推進機構)が発表した『DX動向2024』でも、中小企業におけるセキュリティ人材の確保難と運用効率化ニーズが大きな課題として挙げられており、こうした現場の逼迫感が、AI搭載SIEMの採用を後押ししています。

また、ベンダー各社も中小規模向けに最適化されたクラウド型SIEMやマネージドサービス(MSS)を相次いで展開しており、導入のしやすさも以前に比べて格段に高まっています。そんな中、中堅・中小企業が特に意識したいポイントとしては、以下の三つが挙げられます。

【1】初期の運用負荷への対策

AI搭載SIEMは「自動化で楽になる」という印象が先行しがちですが、導入初期にはアラートの確認・仕分け、誤検知への対応などに人手が必要です。特に人員が限られる中小企業では、「本来軽減されるはずだった業務が一時的に増える」構造が、現場の混乱を招くことがあります。初期フェーズをサポートする「マネージドAI搭載SIEM」や「チューニング支援付きPoC」の活用が一つの解決策となるでしょう。

【2】AIを育てる体制確保

ログの種類や閾値設定、検知ルールのカスタマイズなどAIを育てていくためのチューニングは、前述の通り、‟自社が使える”SIEMを育てる上で避けては通れません。選定段階ではノーコード/GUIなど担当者の理解度に合わせてチューニングできるUI/UXが備わっているのか、またベンダー側の支援体制は整っているのかを必ず確認しましょう。その上で、ゴールを共有し、根気強くAIを育てられる担当者を確保できるかが導入プロジェクトの成功を左右します。

【3】人材不足をカバーする体制と仕組みづくり

セキュリティログの分析、AIの挙動に対する理解、SIEMからのアウトプットをどう業務につなげるか――こうしたさまざまな知識・観点が求められる次世代SIEMの導入において、情シス1名に全責任が集中するような体制はリスクの温床となります。

そこで求められるのが以下のような体制や仕組みづくりを重視するアプローチです。

ログ種別の選定

ファイアウォールやVPNログなど重要度の高い部分から着手し、段階的に拡張に対象を広げる

外部も含めた人材確保

社内1名+外部パートナーなど複数名が関われる体制を構築し、月1回のレビューMTGなどでチームとしての目線を共有する

フィードバック運用

誤検知に対する“判定ログ”を記録し、AIモデルにフィードバックする仕組みをルールとして構築する

AIは魔法の杖ではない──無理なく、育てるアプローチを

AI搭載SIEMの活用に注目が集まる背景から、導入における落とし穴、そして中堅・中小企業が無理なく導入・定着させるための実践的アプローチまで整理してきました。

AIは魔法の杖ではなく、使い方によってはアラート疲れ、チューニング疲れなどの要因となる場合も。しかし、限られたリソースでも着実に効果を出すための道筋──「段階的に導入し、外部と連携しながら、学びを積み重ねる運用」を選ぶことで、自社にとって現実的な方向性が見えてきます。

AI搭載SIEMを自社にとって有効な一手とするために、‟育てていく”という観点をぜひ大事にしてください。

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