デジタル技術の普及により産業構造や企業価値の変化が進む中、データセンターも大きな変革期を迎えています。クラウドコンピューティング、AI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)、ビッグデータといった新しいテクノロジーが、ビジネスの成長を支えるために膨大なデータと高い処理能力を求めています。また、持続性あるIT利用=グリーンITの実現にあたり、データセンターの環境性能にも注目が集まることとなりました。
そこで、話題となっているのが「次世代データセンター」です。効率性、柔軟性、持続可能性やセキュリティなど、従来のデータセンターとどのような点で異なり、どのような特徴を持つのか。本記事では、知っておくべき次世代データセンターの基礎知識について、分かりやすくご紹介します。
次世代データセンターとは何なのか、なぜ次世代データセンターが今求められているのか。データセンターの役割の変遷を踏まえた上で、次世代データセンターの定義と特徴を押さえましょう。
データセンターは従来、主に企業の情報やITインフラを管理・保管するための施設として利用されてきました。特に初期のデータセンターは、主に社内で利用されるサーバーやストレージの管理を行う場所であり、扱うデータ量や必要なコンピューティング能力も現在と比べて限定される傾向にありました。しかし、インターネットの普及に伴う爆発的なデータ量の増加やクラウド利用の一般化に伴い、データセンターは単なるデータ保管庫から、企業活動を支える高度なITインフラへと進化しました。 さらに近年は、DX(デジタルトランスフォーメーション)により、ビジネスのデジタルシフトが進んでいます。データは企業にとって重要な資産であり、意思決定や顧客サービスの運用改善、新しいビジネスモデルの構築に不可欠な要素となりました。そのため、より大量のデータの通信やそれに伴うセキュリティ性、環境性能などを持つ「次世代データセンター」が求められるようになったのです。
次世代データセンターとは、‟企業のニーズに応える柔軟なITインフラを備えた総合的なソリューションを目指すデータセンター”です。具体的には、エネルギー効率が高く、セキュリティが強化されており、高いコネクティビティとAIなどを活用した自動化機能を持つ点が典型的な特徴といえるでしょう。
次世代データセンターは、デジタル技術の進化と共に、企業が求める要件に柔軟に対応するために、さまざまな革新を取り入れています。本章では、次世代データセンターが持つ主要なメリットについて詳しく解説します。
次世代データセンターでは、高度な光通信技術やディスアグリゲーション、エッジデータセンターなどの活用を通して通信速度や柔軟性が、クラウド・AI時代に適合したものとなるよう工夫されています。ディスアグリゲーションとは、直訳で「分離」を意味し、メモリ、ストレージ、計算リソースなどのハードウエア/ソフトウエアを分離し、個別に最適化および管理する手法です。
また、エッジデータセンターは、データ生成の源泉に近い場所でのデータ処理を可能にし、クラウドへのデータ送信前に初期処理を行うことで、通信コストの削減と遅延の低減を実現します。
複雑なシステムの監視や障害対応、リソース管理においてAI技術の活用が進んでおり、必要に応じて自動的にスケールアップ・ダウンが可能な柔軟性の高いリソース管理やリアルタイムのデータを活用した予防保守などが実現されています。これにより、人手によるミスを減らし、迅速かつ安定したデータセンター運用が可能になります。
また、次世代データセンターはコネクティビティの高まりとともに分散化も進められており、特定の拠点に障害が発生しても、ほかの拠点がバックアップとして機能する冗長性が期待できます。
次世代データセンターでは、従来の境界型防御に加え、ゼロトラストモデルに基づく防御システムが前提となっています。ゼロトラストモデルとは、「誰も信用しない」という前提のもと、内部ネットワークであっても常に検証・監視を行うセキュリティ手法です。例えば、AIによる異常検知、リアルタイム監視、脅威インテリジェンスといった最新技術が活用され、多層防御が徹底されるとともに、IDや生体認証を組み合わせた物理的な攻撃への防御も導入されています。
現代のデータセンターにとって、環境負荷の削減は避けて通れない課題です。次世代データセンターでは、エネルギー効率の向上と環境への配慮が強化されています。例えば、風力や太陽光などの再生可能エネルギーを積極的に採用し、データセンター運営の電力供給源はより持続可能なものにシフトしています。従来の空調冷却に加え、液浸冷却や自然冷却(外気冷却)を活用することで冷却効率を向上させる、廃熱を暖房などの目的で再利用するといった取り組みも進められています。
次世代データセンターでは、PUE(Power Usage Effectiveness)値を低減させることが一つの重要な指標です。PUE値は、総エネルギー消費量に対するIT機器の消費エネルギーの割合を示し、この値が低いほど効率的なデータセンターとされます。最先端のデータセンターは、PUE値1.4以下を一つの目安(※)として、電力効率の改善に取り組んでいます。
※出典:データセンター業のベンチマーク制度の概要(資源エネルギー庁)
データセンターの次世代化が進む中で、企業はクラウド化を進め自社のデータセンター機能を利用するのか、あるいは現状のデータセンターを刷新し「保有」しつづけるのかの間で、バランスをとることを迫られています。
特に近年は、生成AIの開発・活用に乗り出す企業が増えたことで、求められるマシンパワーや電力消費量も右肩上がりに増加する傾向にあります。それに合わせた電力設備や床荷重、冷却性能を備えた「AIデータセンター」も構築が進んできました。
マクロな視点でも従来型のデータセンターから次世代データセンターへの移行は電力消費の効率化にプラスの影響を及ぼすことが、一般社団法人 情報サービス産業協会により、経済産業省の産業構造審議会で提出された資料(※)でも、データとともに示されています。
同資料によると、調査対象となったデータセンター部門のエネルギー消費量は基準年度とされた2006年度から原単位あたりで12.9%減少しており、これには古いデータセンターが新しいデータセンターへ移設される動きが進んだことが影響しているといいます。
AI時代のニーズへの対応や省エネニーズへの対応に当たって、次世代データセンターの活用が不可欠とされる中、企業はデータセンターの利用/保有だけでなく、「刷新」という視点を持つことが求められています。
データセンターの利用/保有について詳しくは「データセンターは保有か利用か 各メリット・デメリットを解説 」もご参照ください。
※出典:情報サービス産業における地球温暖化対策の取組(一般社団法人 情報サービス産業協会) ┃経済産業省
企業のDXやAI開発、データ活用などにおいてデータセンターについて考えることは重要です。そしてその際、次世代データセンターの要件や特性を踏まえた議論は不可欠です。従来のデータセンターとは役割やビジネス戦略上の位置付けが大きく変わっていることを前提に、データセンター自体やその利用方針の刷新に取り組んでいきましょう。