クラウド全盛と言われる現代ですが、機密性や構築・運用におけるカスタム性といった理由から、データセンターを構築・保有することへのニーズも根強く存在します。セキュリティ性や構築のしやすさに加え、BCP対策やエネルギー消費といった観点でも評価することの求められる企業のデータセンター。 本記事では、保有・利用それぞれのデータセンターのあり方について掘り下げ、各メリット・デメリットを比較します。
『情報通信白書令和5年版 』(総務省)によると、日本のデータセンターサービスの市場規模は右肩上がりに増加を続けており、2022年には2兆275億円(前年比15.3%増)と初めて2兆円を超えることが見込まれています。
一方、2022年のパブリッククラウドサービスの市場規模は2兆1,594億円(前年比29.8%増)の見込みです。『通信利用動向調査 』(総務省)で集計された「企業において利用しているクラウドサービスの内容(複数回答)」において、64.1%が「ファイル保管・データ共有」を選択しており、データセンターを保有する企業の割合、データをクラウド上で利用する企業の割合はともに増加しています。
市場の伸び率はクラウドの方が高いものの、その中には「社内情報共有・ポータル」や「電子メール」などあらゆるサービスが含まれるため、単純な比較はできません。
また、データセンターの大規模化は進んでおり、クラウドサービス事業者の拠点としてのデータセンター需要が市場の拡大に大きな影響を与えていることが推察されます。
そもそもデータセンターは、企業のPC利用が本格化する以前には自社内に設置されることの多かったメインフレームやサーバー、ネットワーク機器を専用の施設に設置することで管理・運用・セキュリティなどにかかるコストを合理化する目的で誕生しました。
データセンター自体が自社内の電算室やサーバールームから、設置場所や保守・管理にかかる労力を外部化するアイデアであり、そこからDXが進むことでクラウドを経由してデータセンターを利用する形に移行するのは当然の流れといえるでしょう。
データセンターを保有する方法には大きく分けて「ハウジング」と「ホスティング」の二つが存在します。
データセンター内のスペースに「自社所有」のサーバーを設置し、ラックや電源などデータセンターの施設を利用することをハウジングと言います。サーバーの運用管理はユーザー企業の担当者が行うのが原則ですが、運用管理まで委託可能な場合もあります。「コロケーション」もハウジングとほぼ同義ですが、co-location(共同-設置)と、よりスペースの共同利用を前提とした意味を持ち、通信事業者による大規模な利用を想定して用いられる場合もあります。
データセンター内に事業者が設置したサーバーやネットワーク機器を「レンタル」して利用することを意味します。あらかじめ用意されたラインアップから利用形態を選ぶことが一般的であり、機器選定や設定、その後の保守運用にかかる手間が削減できます。「レンタルサーバー」もほぼ同じ意味で使われる言葉です。
このように、ハウジングは自社でサーバーを保有する分カスタム性が高く、ホスティングはサーバーをレンタルする分購入の手間が省ける等、両者の特徴には差異があります。カスタムの自由度や保守管理・セキュリティや災害時の復旧についての自社ノウハウを十分に生かせることを求めるならば、ハウジングの優先度が高まります。一方、アクセスの増減がそう多くないサービス・ウェブサイトを決まったコストの範囲内で運用したいといった場合は、ホスティングが適している場合が多くなるでしょう。
ハウジング>ホスティング>クラウドの順に機器の導入時にかかるコストは大きくなる傾向にあり、その後の運用コストを最適化するには、それぞれに特化したノウハウが求められます。近年オンプレミス回帰の動きがみられる一因には、利用料に応じて課金されるクラウドのコスト構造と事業内容や運用体制がかみ合わず、かえってコスト高になってしまうというケースが存在することが影響しています。
データセンター利用(クラウド)のメリットは、下記のようにさまざまに存在します。
一方、データセンター利用(クラウド)のデメリットは、サービスとしてITインフラを利用することによる制約やクラウド運用特有のノウハウが必要とされることから生じます。長年利用されてきたシステム構成を丸ごとクラウドに移すことは容易ではありません。これまで事業を支えてきた環境を変えるということには常にハードルがつきまといます。ただし、それはレガシーシステムからの脱却にあたって必要不可欠なプロセスでもあります。
また、先に述べた通り、利用料によって利用料金が変動するクラウドの性質からかえって運用コストが高くなってしまったというケースは存在します。セキュリティ性やサーバーの速度や安定性の維持、BCP対策などを徹底するにあたっても、クラウドにおけるコントロール性には制約があります。
なお、クラウドの移行のポイントについては本サイト記事『クラウド、5G時代のデータセンターのあり方を考える 』でも解説しています。
保有か利用か、という観点からデータセンター(ハウジング・ホスティング)とクラウドを比較してまいりました。データセンター利用の中でも、それぞれに適した利用形態は異なります。また、各データセンター事業者、クラウドサービス事業者を比較するための要素はさらに数多く存在します。その点を踏まえた上で、現在のITインフラ状況は保有か利用か、それは事業や自社のケイパビリティに適しているのかを考えてみてください。