ERP製品の中でも歴史が長くシェアの大きい「SAP ERP」が保守サポート期限を迎える2027年末(2025年末)が近付いています。そのほかにも‟保守サポート期限切れ問題”の迫るシステムはあり、またやむを得ず保守期限切れのシステムを使い続けている企業も存在します。不安を覚える情報システム担当者も少なくないでしょう。 本記事では、保守期限切れのシステムを利用し続けることにはどのようなリスクがあるのか。それらにどう対処できるのかを解説します。 保守延長やリプレースも含め、各選択肢を具体的に検討していきましょう。
「SAP ERP 6.0」が保守サポート期限を迎える問題について詳しくは、「SAPの基幹システムが抱える2027年問題とは?」をぜひご一読ください。
保守サポート期限が切れたシステムを利用していると、どのような問題が発生しうるのでしょうか。 5つのポイントで見ていきましょう。
保守期限が切れると、新たなセキュリティパッチやアップデートの提供が停止します。これにより、新たに発見されるセキュリティ脆弱性に対して無防備になり、サイバー攻撃やデータ侵害のリスクが大幅に高まります。SAP ERP 6.0やSAP Business Suiteに関しては、セキュリティプログラムは継続されますが、セキュリティリスクの高まり続ける現代において最も注意すべき項目です。
定期的なメンテナンスやアップデート、メーカーや提供者からの技術サポートが受けられなくなるため、システムの不具合が発生しやすくなります。これは、業務の遅延や停止につながり、企業の生産性に大きな影響をおよぼす可能性があります。また、問題が発生した場合に迅速な解決が困難となり、長期的に業務やシステムに影響を与える恐れがあります。
特定の業界では、セキュリティ基準や規制の遵守が義務付けられています。古いシステムやソフトウエアを使用し続けることで、セキュリティ基準や規制など特定の条件に違反する可能性があり、取引停止などのリスクが生じます。
新しいソフトウエアやハードウエアは、最新の技術に最適化されています。保守期限が切れたIT機器やシステムは、新しいアプリケーションやデータ量に対応できなくなり、業務の効率が低下する可能性があります。さらに、新しい技術やソフトウエアとの互換性が失われることで、組織内のほかのシステムやツールとの連携に問題が生じかねません。これは、ワークフローの中断やデータの損失につながると考えられます。
長期にわたって旧システムを維持しようとしても、最終的には更新が必要になりますが、その時点での更新コストはかなり高額になる可能性があります。新しいシステムへの移行は計画的に行うことがコストを抑える鍵です。
ITシステムの保守期限切れに対して取りうる対応策としては、以下の三つが挙げられます。
SAPは、2028年~2030年末までの3年間の延長保守サポートを、保守基準料金に2%の追加料金を支払うことで提供するプランを用意しています。このように、追加料金を支払うことで保守サポートが延長される場合があります。ただし、SAPが同期間を延長フェーズと認識しているように、これはリプレースという措置を完了させるまでの暫定的な対応と考えるべきでしょう。
「SAP ERP」→「SAP S/4HANA」のような形で、同じベンダーの保守サポート付き製品に移行(マイグレーション)するという方法です。既存のシステム設定や要件をなるべくそのままに移行する「Brown Field(コンバージョン方式)」、新システムに合わせてデータ構造や業務プロセスを見直す「Green Field(リビルド方式)」、システムを先にマイグレーションしてからデータを段階的に移す「BLUEFIELD」などの移行方法のパターンが存在します。
「SAP ERP」→「Oracle Fusion Cloud ERP」、「SAP ERP」→「Microsoft Dynamics 365」など、他社製品に基幹システムをマイグレーションする方法です。データ移行や業務プロセスの見直し、操作の学習が必要になることはもちろん、製品の選定にも手間が伴いますが、実現したい強い目的がある場合、保守期限切れを理由に思い切った改革に踏み切るのも一つの手です。
前述の通り、製品の保守期限切れに対して取りうる対策は、保守期限の延長かマイグレーションです。いずれも金銭的、あるいは人的コストが必要となりますが、前述の通り期限切れのシステム利用を使い続けることには大きなリスクがあり、また期限が迫ってから拙速に対処することは避けうる損失の発生につながる可能性があるため、1年以上前からの計画が必要となるでしょう。
「SAP ERP」の保守サポート切れ問題は2027年問題としてよく知られていますが、これはERP6以上を利用している場合に限って延長された期限であり、それ以前のバージョンは2025年に保守サポートの終了を迎えます。
このように、保守期限にも細かな条件が設定されている?場合があるため、余裕を持って調査と計画を進めておくこと、そのための情報収集をすることが情シスには求められます。
ITシステムの保守サポート期限切れで生じうる問題について、SAPの「2027年問題」を皮切りに解説してまいりました。今後もWindows 10(2025年10月14日)、Oracle Database 19c(2027年4月30日)など、サポート期限を控えるシステムはさまざまに存在します。本記事を参考に、早期の移行計画策定に取り組みましょう。