IT Insight

IoT時代にIT部門が求められることとは?

レンテックインサイト編集部

前回 (今さら聞けないデジタルトランスフォーメーション) は、デジタルトランスフォーメーションとは何か、それによってシステム導入のアプローチがどのように変わるかについて説明しました。
 デジタルトランスフォーメーションを支える大きな柱の一つがIoT(Internet of Things、モノのインターネット)です。 IoTデータを活用するためには、従来と違った考え方が必要になります。 今回は、それはどのような考え方なのか、またそれによってIT部門の役割がどのように変化するかについて解説します。

IoT時代のデータ活用とは?

IoTとは何でしょうか?
 インターネットは、そもそもコンピュータ同士を接続するために考案されたネットワークです。 インターネットにコンピュータを接続するための通信規約(プロトコル)は、早くも約50年前の1969年に発表されています。
 当初はアメリカ国内の軍や大学などで発展し、次々と新しいプロトコルが作られました。1980年代後半になって、 企業でもインターネットが利用されるようになってきました。 そして、Windows 95がインターネットプロトコル(TCP/IP)を採用したことで、世界中の一般の人たちにも普及するようになったのでした。

 このインターネットにコンピュータ以外のモノも接続するのがIoTです。 ネットワークに接続された機械や家電などのデバイスに通信装置を搭載することで、 デバイス側のカメラやセンサーなどで取得したデータを収集したり、デバイスをリモート制御したりすることが可能になります。

IoTの具体的な活用例をいくつか紹介しましょう。
 我々にとって最も身近な例は、スマートフォンやスマートスピーカーでしょう。 これらも一種のコンピュータですが、それよりはデバイス(装置)というイメージの方が強いと思います。 これらのおかげでどれだけ生活が便利になったか説明する必要はないでしょう。
 工場設備やオフィス機器にセンサーを取り付けて稼働状況をモニタリングし、異常やその兆候を早期検出することで、 障害が発生する前に修理や部品交換をすることを予知保全と言います。 予知保全により機械の点検のための計画停止が不要になり、ユーザー側にとってはより高い稼働率が実現されるだけでなく、 重大事故の防止にもなります。ベンダー側も点検員の時間や交通費の節約ができます。
 自動車に通信装置を搭載することをテレマティクスということは、ご存知かもしれません。 テレマティクスによって、運転手側はさまざまな情報を受け取ることができます。 運転手を管理する側は運転状況を把握することで安全運転を促進できます。 保険会社は保険料や支払額を合理的に決めることができます。
 テレマティクスの究極の応用が、多くの自動車メーカーが実現に向けて取り組んでいる自動運転です。

以上の活用例に共通していることは、製品を開発・販売した側が販売後のデータを収集できるようになったということです。 販売後の製品の使われ方が分かれば、より良い製品を開発することに役立ちます。 またユーザーのより深いニーズも見えてくるので、マーケティングにも活用できます。
 IoTによって収集したデータをIoTデータと呼びます。 IoTデータを製品開発やマーケティングに活用することで、企業はその競争力を高めることができるのです。

IoTデータを活用するポイント

IoTデータを活用するためには、IT部門が今までと違った考え方を採用する必要があります。 それはどのような考え方でしょうか。
 「社内の業務効率化・コスト削減」を目指す「守りのIT」が、従来のデータ活用の中心でした。 守りのITにおいては、とにかく正確なデータが必要でした。 また、コンピュータリソースが今よりも高価で性能も低かった時代には、コンピュータが処理しやすいようにデータを加工し、 データが重複しないようにすることも大切でした。
 しかしIoTデータの活用とは、「企業の製品・サービス開発強化やビジネスモデル変革を通じて新たな価値の創出やそれを通じた競争力の強化」を目指す「攻めのIT」に他なりません。 それにはユーザー主導によるデータ活用が必須です。 いちいちIT部門がシステム構築を企画していたのでは、スピードの面で他社に劣るからです。
 そうなると正確性を多少犠牲にしても、早くデータをリリースすることの方が大切になります。 一方で、ユーザーが簡単に利用できなければ意味がないので、データの意味が分かるようにしたり、どこにどんなデータがあるかを参照できるようしたりする必要があります。
 IoTデータに求められることは、正確性・効率性でなく俊敏性・利用性なのです。

IoTデータ活用に必要なデータの収集・加工とは?

ではデータを俊敏に集めて、利用しやすくリリースするためには、IT部門はどのような役割を担う必要があるのでしょうか。
 まず、IoTデータを活用するためには、IoTデータだけでは不足だということに留意しましょう。 例えば、農業機械を販売している会社であれば、気象情報などと突き合わせて分析する必要があるでしょう。 このようなデータを外部の企業から購入して揃えておくことが必要になるかもしれません。 どのようなデータが必要かは現場部門に聞かないと分からないことが多いので、よくヒアリングすることが重要です。
 またIoTデータそのものは、現場部門で収集することもよくあります。 であれば、他部門もデータを利用できるように、各部門を回ってデータを収集するとともに、データの意味をヒアリングする必要も出てきます。 センサーデータなどは現場部門の専門家でないと内容が分からないことがほとんどだからです。
 部門によっては、他に出したくない機密データがあるかもしれません。 どこまでのデータを他部門に開示していいか、部門責任者の承認を取り付ける必要も出てきます。
どの場合も、今まで以上に現場部門とのコミュニケーションを密に取ることが必要だということです。 これは意外と見落としがちで、IoTデータの活用に失敗している企業では、IT部門と現場部門のコミュニケーション不足が大きな原因であることが多いのです。

各部門からヒアリングしたデータの意味は、「メタデータ」(データに関するデータ)という形で整備します。 また、どのようなデータがどこにあり、どうすれば利用できるかは「カタログ」という形でまとめておく必要があります。 メタデータとカタログを整備しないと、ユーザーはIoTデータを活用することができません。

攻めと守りのバランスが求められている

前回 (今さら聞けないデジタルトランスフォーメーション) も述べたように、攻めのITだけでは成り立ちません。 守りのITも相変わらず必要です。従って、正確性・効率性を追求したデータは今後も残っていきます。 そこに俊敏性・利用性が求められるデータが追加されてくるのです。

IT部門は、攻めと守りのバランスを考えて、どのデータをどこにどのように配置するかについて、以前よりシビアに考えることを求められます。
 こうしたデータ戦略を考え、実行しながら、これまで以上に現場部門を巻き込んでいく力がこれからのIT部門に必要とされます。ただし現場部門を巻き込むと言っても、IT部門主導で進めていくということではありません。現場部門主導になるように上手に進めていくのです。
 これは難しいことですが、その分やりがいがあることではないでしょうか。

IT Insightの他記事もご覧ください

Prev

Next