経済産業省 商務情報政策局 情報処理振興課が発表した『参考資料(IT人材育成の状況等について)』では、IT人材に関する需要と供給のギャップは2030年まで拡大し続け、最大で約79万人のIT人材不足が発生すると記述されています。
2020年代のうちにIT人材を獲得するだけでなく、育てられる体制をつくることが企業、ひいては社会全体にとって重要であることには多くの方が同意されるでしょう。そこで、注目を集めるキーワードが「リスキリング」です。
本記事ではリスキリングとは何なのか、どのように取り組めばよいのかといったポイントについて、IT人材やDX人材を中心とした人材育成に取り組みたいすべての企業に向けて解説します。
「リスキリング」とは、「Re-skilling(スキル習得の再開)」のことであり、社会人が業務や自身のキャリア変化に適応するため必要なスキルを学習することを意味します。社会に出てからも業務に必要なスキルを学び続けなければならないことは、特に経営者や技術職の方などにとっては当たり前に感じられるかもしれません。
現在「リスキリング」という言葉が重要とされているのは、個々人の裁量に任されていたこれまでの社会人の学びをアップデートし、企業や社会のサポートを受けながら、時代の変化に対応するという目的をもって行われるスキル開発を定着させることが求められているからだと考えられます。
経済産業省サイトに掲載の資料『リスキリングとは―DX時代の人材戦略と世界の潮流―』では、「リスキリングは単なる「学び直し」ではない(※)」と明記されています。その理由は、個々人の興味に従った学びではなく、仕事で価値を生み出し続けるために必要なスキルを学ぶことがリスキリングと定義されるからです。そして、その筆頭に挙げられるのがITやDXに関するスキルであることは、冒頭でご紹介した未来像からも明らかでしょう。
また、同資料で主張されているのが、デジタルスキルを含む新たな能力を開発するには、日本企業の得意技とされてきたOJTの延長線上にある手法では達成できず、外部コンテンツやプラットフォームも活用した新たな能力開発プログラムが必要になるということです。
企業が主体的かつ戦略的に新たな能力開発に取り組むことは、リスキリング成功の必要条件だといえるでしょう。
※引用元:リスキリングとは―DX時代の人材戦略と世界の潮流―┃経済産業省、7枚目のスライド
DX人材の開発に向けたリスキリングにあたって、企業は何に取り組めばよいのでしょうか?
一般的に挙げられるのが、下記のような取り組みです。
上記の施策の効果を得るにあたってぜひ意識していただきたいのが「ゴール」「場」「評価」の3点です。
『デジタル時代のスキル変革等に関する調査(2022年度)』(IPA)では、IT企業・事業会社15,000社を対象としたアンケートを実施し、IT人材の学びを阻む障壁として以下の5つをまとめています。
リスキリングのスタート地点から「ゴール」地点までのロードマップを示し、学びの方向性を示すことが人材育成のためには不可欠です。その上で、学ぶための時間を確保し、モチベーションを維持できるよう社内コミュニティや勉強会といった「場」をつくりましょう。また、たとえ多くの時間が確保できなくても、学びの成果が「評価」される機会や制度があれば、リスキリングの文化は定着していくはずです。
DX人材育成のための具体的なツールとして公開されているのが、経済産業省とIPAによって作成された『デジタルスキル標準』です。学びの基礎となる「DXリテラシー標準」と、DXを先頭に立って推し進めるために必要な「DX推進スキル標準」の二つが公開されており、2023年8月には生成AIの登場や進化を反映した改訂版の公表も行われました。
ぜひ、『デジタルスキル標準とは?DX推進に向けた指針の概要について解説』でより詳しい内容をご確認ください。
また、民間企業が運営するITスキルを定量的に判断するためのWebテストやテストセンターで受験するCBT方式の試験も数多く実施されています。テストを通して現在のITリテラシーを把握することは、企業・個人双方にとって不可欠なプロセスとなるはずです。
ただし、「すでに上位資格である基本情報技術者試験や応用情報技術者試験を突破しているにもかかわらずITパスポートの取得が義務付けられた」といった声も時折耳にします。レベルや職域に応じて適した制度を用意できるよう、知見のある人物を交えて制度設計を行いましょう。
IT人材の不足する中で、すべての企業が取り組むべき「リスキリング」について解説してまいりました。ITスキルに限らず、各職域においてスキルの向上に取り組むことは求められており、厚生労働省が運営するjobtag(日本版O-NET)など、そのために企業を支援するサイトも公開されています。社会人にとって学びが重要という風潮が根強い現在のムードを逃さず、学び続ける文化・制度を社内で定着させましょう。