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人間中心設計とは何か? プロセスや日米の乖離を押さえよう

レンテックインサイト編集部

製品やシステムのデザインにおいて人間を中心におく開発手法、人間中心設計。『DX白書 2023』(Copyright 2023 IPA)によると、ITシステムの開発手法として米国では43.5%が全社的に活用しているのに対し、日本では4.8%と大きな乖離が見られます。「人間中心設計とは何か」を皮切りに、この乖離の原因について考え、実践手法など基本的な事項についてもご紹介します。

人間中心設計とは何か?

まずは「人間中心設計」とは何かについて見ていきましょう。

「人間中心設計(HCD:Human Centered Design)」は、その製品やサービスを使う人(≒ユーザー)の視点を中心に、場合によっては協創も取り入れながら行うデザインの知識体系を意味します。

人間中心設計は「ISO 9241-210」として「ISO 13407」を引き継ぐ形で国際規格化されており、2019年に公開された最新版のサブタイトルは「人間-システムの相互作用における人間工学──Part 210:インタラクティブシステムのための人間中心設計」。すなわち、人間中心設計の前提には、“システムとユーザーの相互作用”があるのです。

人間中心設計における相互作用は、以下の4つのプロセスそれぞれで生じます。

  1. ユーザーの要求を知る
  2. ユーザーの要求を整理し、明確化する
  3. ユーザーの要求を製品・サービスに反映する
  4. 3の結果を評価し、要求事項を満たせているかを確認する

重要なのは、この4ステップはユーザーの要求が満たされるまで繰り返されるということです。そのため「ISO 9241-210」における人間中心デザインの原則の一つとして「プロセスの繰り返し」が示されています。

ものづくりにおいてユーザーを中心に据えるニーズ志向の発想はかねてより存在していましたが、その考えを体系化するとともに、Web誕生後に重要性を高め続けているコトづくりにも応用可能にしたのが人間中心設計の特徴的なポイントです。

その視点で押さえておきたいのが「UX(ユーザー体験)」との親和性です。その製品やサービスを機能ではなく体験価値の側面からとらえ、UXを向上させるにあたって、ユーザーとの相互作用をプロセスに組み込む人間中心設計が効果的なのは当然といえるでしょう。

UXとは何かについて詳しくは、『「UI/UX」「デザイン経営」とは?これからのものづくりにデザインが重要と言われるのはなぜ?』をご参照ください。

日米の乖離から考える、人間中心設計とDXの関係

人間中心設計のメリットは、ユーザーとの対話を通して「UI/UX」を継続的に向上させられることにあります。
前述のDX白書によると、「UI/UX」を全社的に活用している企業は米国では22.3%なのに対し、日本では4.4%。また、デザインという観点を経営や開発の領域に応用する「デザイン思考」を全社的に活用している企業の割合にも米国は24.4%、日本は2.8%と大きな乖離があります。
こうした開発手法全体への関心の低さが「人間中心設計」の採用割合、ひいてはDX進展の遅れにつながっているのではないでしょうか。

『DX白書2023』にてITシステムにおける新たな手法・技術の採用における日米の格差の原因として、触れられているのが以下の2点です。

  • 量・質の双方における人材不足
  • ユーザー・ベンダー企業の相互依存による新たな手法・技術採用の消極化

いずれも、日本のDXの遅れの原因としてよく指摘される点です。

これに対し特筆したいのが、人間中心設計のプロセスや手法は、職種を問わず身につけやすいというポイントです。むしろ、その原則の一つとして「学際的なスキル・視点を含むデザインチーム」が定義されており、設計者、デザイナー、マーケター、生産管理など多様な人材が参加することが好ましいとされています。

また、ITシステムにおけるユーザー・ベンダーの相互依存に対しては、そのまま「(自社の)ユーザーを中心に据えること」が解決策となります。従来の固定的な取引関係から「価値を中心としたつながり」に移行することが、低位安定に陥った既存産業をアップデートすることにつながるという指摘は、『DXレポート2.1(令和3年8月31日)』にも記述されていました。

人間中心設計は社内や現場でこそ効果を発揮する場合も

人間中心設計は、平たく言えばユーザーにとって心地よい体験を提供するための開発手法の一種であり、「ユーザー中心設計」と呼んだ方が正確なのではないかと指摘されることもあります。

ただし、「人間=ユーザー」とする場合に忘れてはならないのが、社内システムや制度をデザインする場合、そのユーザーは現場の作業者や管理者であるということです。

これまで、業務ソフトウエアのUI/UXはコンシューマ向け製品に比べ、ユーザビリティやデザインが考慮されにくい傾向にありました。しかし、例えばプラント制御システムの画面設計において、人間中心設計のプロセスを導入し、高い操作性、ひいては生産性向上やミス防止につながった例も見られます。

人間中心設計のノウハウは、これまでユーザビリティのウェイトが小さかった領域でこそ大きな効果を発揮する可能性が高いでしょう。

人間中心設計はIT以外の分野にも応用可能

『DX白書2023』のデータをきっかけに、人間中心設計とは何か、DXとの関係、今後生かしていくためのポイントについてご紹介しました。ここまでITシステムの開発にフォーカスして解説してきましたが、人間工学(エルゴノミクス)など、従来から工業・工程設計で用いられてきた概念と基本理念を同じくするのが「人間中心設計」です。

多種多様な領域に応用可能な考え方として、活用を検討してみてはいかがでしょうか。

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