デザインはもはや製品の外側だけでなく、経営課題を解決するために重要な要素の一つだとよく言われます。
そしてその文脈で、「UI/UX」あるいは「デザイン経営」という言葉を耳にしたものづくり企業の方々も少なくないのではないでしょうか。しかし、かつてとデザインの捉え方が大きく異なってきていることもあり、その意味や重要性がいまいち理解できないという声もあります。
そこで本記事では、UI/UXやデザイン経営の意味、ものづくり企業のこれからにおける意義について分かりやすく解説します。
まずは「UI/UX」それぞれの意味と違いについて押さえていきましょう。
UI(User Interface:ユーザー・インターフェース)は一言で言うと、「モノやサービスを繋ぐ接点」を意味します。例えば私たちはスマートフォンを使うとき、側面に取り付けられた電源ボタンを押して電源をオン/オフし、充電口にUSBケーブルを差し込んで充電します。普及し始めた頃は使い方に難儀する人も存在しましたが、今では所有者のほとんどがその利用方法を理解しているでしょう。そして、新たに購入した端末でも触っているうちに使い方を理解できるはずです。
それは、ボタンや充電口が共通する意味を示すものとして分かりやすくデザインされているからです。例えばボタンが極端に小さかったり、充電用と思った挿入口がリセットボタンだったりしたら、トラブルが発生することは想像に難しくありません。
このように、適切に使いこなせるようデザインされた製品やWebサイトは良いUIであるとされ、使い勝手が悪いデザインは悪いUIであるとされています。
UX(User Experience:ユーザー・エクスペリエンス)は一言で言うと、「モノやサービスを使ったときの体験」を意味します。先のスマートフォンの例で言うと、自分の好きなカラーリングが施されていたり、デザインが好みに合っていたりすれば私たちの心は浮き立ちます。それが自分の応援しているメーカーの製品であれば、所持しているというだけで満足感が考えられるかもしれません。
このように、その製品の機能だけでなく見た目やブランド、評判も含めたユーザーの感じる体験のすべてがUXに該当します。
現代日本に暮らす人の多くは、機能的には十分に満足感を得られるものを安価に手に入れることができます。だからこそ、これからの時代にものを買ってもらうには機能やコスト削減だけでなく、UXを高め、自社のプロダクトを好きになってもらう必要があるのです。
デザイン経営とは、その名の通り「従来デザインの領域で用いられていたような思考法を応用して経営を行うこと」を意味します。例えば、UI/UXを意識するということは、はっきりと言語化されずともデザインの領域ではかねてから実行されてきたことではありました。
かつては機能や品質、価格などにばらつきのあった製品が、市場が活発化しベストプラクティスが追及されることで平準化され大きな差異がなくなることをマーケティング用語で「コモディティ化」と言います。
付加価値を生むという点において従来の経営手法が通用しなくなってきた中で、注目を集めることになったのが「デザイン経営」の手法なのです。
デザイン経営の具体的な取り組みとしては例えば社内に役職としてCDO(チーフ・デザイン・オフィサー)を設け、製品、ひいてはブランドすべてのデザインを引き受ける部署を設置することが挙げられます。
2018年に経済産業省・特許庁は「デザイン経営宣言」を行い、日本のデザイン経営を推進していくことを標榜しています。
デザイン経営の実践にあたって重要だと言われるのが「ユーザー像を具体的に思い描くこと」です。
従来型のデザインについての考え方を採用すると、どうしても社内でデザインを完成させ、できあがったものをユーザーにお届けする、という考えになりがちです。
しかし、大事なのはユーザーが何を求めているか、あるいは市場で満たされていないニーズは何かということです。ユーザーアンケートやコミュニティの活用なども行い、できる限り具体的にユーザー像を思い描きましょう。
特にUXの領域において、デザインに絶対的な正解は存在しません。だからこそ揺らがない指標としてユーザー像を明確にすることが求められるのです。
このようにデザイン経営に取り組むことの重要性はBtoC(対個人)だけでなくBtoB(対企業)においても高まってくると言われています。なぜなら、BtoBであっても最終的には他社と比較して「選ばれる」ことが重要であり、そのためにはデザイン経営の手法で自社独自の付加価値を生み出すことが不可欠だからです。
「UI/UX」と「デザイン経営」の意味、そして意義についてご紹介してまいりました。
新しい時代の企業経営において、デザインは最重要事項の一つと言っても過言ではありません。「見た目をよくする」だけではないからこそ、企業規模に関わらず取り組めることはあるはずです。壁にぶつかったら経済産業省・特許庁のリリースしている資料も参照しつつ、貴社にデザイン経営を取り入れることをおすすめします。