定量的指標による適切な目標設定は、かねてより企業の成長に欠かせないものです。そして、IoTや通信環境の整備によってデータ活用の可能性・リアルタイム性が高まった今、適切なKPI・KGIの設定と活用の重要性は高まっています。
本記事では、KPI・KGI導入の現状を踏まえ、KPIの代表例や指標を行動につなげるためのKSFなどについて解説します。
まずは、KGI、KPIとは何かについておさらいしておきましょう。
KGI:Key Goal Indicator/経営目標達成指標
…売上高、利益など企業経営において最終的に目指すべき数値的指標
KPI:Key Performance Indicator/重要業績評価指標
…KGIの達成において鍵となる数値的指標。利益がKGIの場合、販売個数、利益率、設備効率など。
設備効率というKPIに対し、設備負荷率やサイクルタイム……といった形でさらにKPIを詳細化し、KPI/KGIツリーを構成することで課題や解決先を適切に見出すのが典型的なKPI・KGIの使い方です。
内閣府が実施した『マネジメントや組織構造に関する調査(令和2年度)』によると、製造業4,377事業所のうち、8.1%が「1~2つ」、39.0%が「3~9つ」、13.6%が「10以上」のKPIを自社の生産管理において採用しており、3指標以上のKPIを採用している企業は52.6%と過半数を上回っています。また、平成30年度などコロナ禍以前のデータと比べると、その個数は増加傾向にあるようです。
このようにDXの進展とともにKPIを導入する企業は増加しています。
KPIには多様な種類が存在し、事業や立場によって見るべき指標が異なります。そのため、自社にとって適切なKPIの設定に多くの企業が力を入れていることはご存じの通りです。
ここではその中から製造業における代表的なKPIをいくつかご紹介します。
労働者一人当たりの生産性を計測する指標です。経営視点からは付加価値、生産管理視点からは生産量や製造指図の実行にかかる時間など、立場によって異なる生産性の指標を従業員数や労働時間で割ることで求められます。
保有する生産設備がどれだけの付加価値を生産しているかを総合的な視点から判断する指標で、「時間稼働率 × 性能稼働率 × 良品率」で求められます。その低下原因にはTPMの16大ロスが当てはまります。
※TPMについて詳しくは『IoT時代に見直したいTPM活動の基本』をご参照ください。
経営的視点から、事業活動のために投じた資本により得られた利益を測るためのKPIです。計算方法として代表的なのは「税引き後営業利益 /(株主資本 + 有利子負債)」。事業ごとのROICに対してKPIツリーを分解していくことで、KGIと現場のKPIを実態に即して結びつける架け橋となることが期待されます。
「不良数/生産数」で求められるおなじみのKPIです。AI、IoTによる正確な不良率検知や設備データとの掛け合わせにより、改善可能性が高まっている指標の一つでもあります。デジタル化により不良率改善に用いられるエビデンスや、その後の打ち手は広がりを見せています。
品質管理(QC)の基礎であり、ラインごとの能力を定量的に評価するために用いられるKPIです。Cpは「(上限値 - 下限値)/(6 × 標準偏差)」で求められます。また、中心からのずれを考慮したCpkの計算にあたっては、「(上限値 - 平均値)or(平均値 - 下限値)/(3 × 標準偏差)」を行い、値の小さい方を採用します。
KGI、KPIの陰に隠れがちなものの、必ず押さえておくべきキーワードに「KSF:Key Success Factor(重要成功要因)」があります。KSFを一言で言うと、KGIを達成するために押さえるべき必要条件であり、KSFを見出せなければ、適切なKPIの設定はかないません。
数値的に測れるKGI/KPIと違い、KSFは言語で表されるためつかみどころがないように感じられるかもしれません。しかし、KPIを単なる数値とせず、改善行動につなげるための武器とするためにも、KGIとKPIの間の何層ものツリーをまとめる役割としてKSFは大きな力を発揮します。
また、近年はKSFを実現するための具体的な行動ベースの指標として「KAI:Key Action Indicator(重要活動評価指標)」という概念も広まってきています。
工場データの見える化に取り組み、多様なKPIをリアルタイムで取得可能になったもののKGIの達成には思うようにつながらない……、このようなケースでよく見られるのが、「見える化」が目的化しており、その先で何をしていいかが分からなくなってしまっているパターンです。
せっかく設けた指標を無駄にしないためにも、事実を行動につなげるKSFやKAIの活用が求められるでしょう。
KPI/KGIや、それらとともに押さえたいKSF、KAIについてご紹介してまいりました。『2022年版 中小企業白書』(中小企業庁)によると、KPIについての認識が経営層、上位管理職のみに限定されている企業よりも、立場を問わず多くの従業員に広まっている企業の方が労働生産性の水準が高い傾向にあるとのこと。
KPIの活用を促進する好機としても、データの見える化の機運を活用していきましょう。