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“物流クライシス”に対抗する「フィジカルインターネット」とは?

レンテックインサイト編集部

皆さんは“物流クライシス”という言葉をご存じでしょうか。

EC市場の成長、多品種・小ロット輸送の増加、トラックドライバーの不足、気候変動対策に伴うコスト増といった要因を背景に物流需要が物流供給を上回り、正常な物流網の維持が不可能になることを意味します。

物流クライシスへの対応策の一環として実証実験が進められている“新しい物流像”に「フィジカルインターネット」があります。すでに2040年を目指したロードマップが敷かれているこの施策。その概要や必要とされる背景、2040年までの道筋について本記事で押さえましょう。

「フィジカルインターネット」とは“輸送単位の規格化・ハブ化により大幅に効率化された物流網のビジョン”

「フィジカルインターネット」は、“輸送単位の規格化・ハブ化により大幅に効率化された物流網のビジョン”です。

これまでは輸送車両が倉庫で貨物を受け取り、そのまま消費者や経由地へ輸送するのが一般的でした。フィジカルインターネットはそこに「コンテナ」「ハブ」「プロトコル」の3要素を持ち込みます。

  • コンテナ:サイズ・素材・機能などが事業者間を超えて規格化された輸送容器
  • ハブ:コンテナの受け渡し、詰め替えを行う経由地
  • プロトコル:貨物とそれにまつわる情報をやり取りするための取り決め

フィジカルインターネットにより実現されるのが、輸送リソースを無駄にしない合理的な積載容量の活用や、事業者・業種の垣根を超えた物流資産、システムの共有による効率化・レジリエンスの強化、水平連携によるイノベーション創出などです。

ここで「貨物の詰替作業の増加は効率ダウンにつながるのではないか」と考えた方もいらっしゃるでしょう。そこで問われるのが「コンテナ」「プロトコル」、また先端技術の活用による詰め替えの最適化であり、その可能性を探る実証実験が国内外で行われているのです。

フィジカルインターネットロードマップと「物流の2024年問題」

フィジカルインターネットロードマップは、「準備期(~2025)」「離陸期(2026~2030)」「加速期(2031~2035)」「完成期(2036~2040)」の4つのフェーズに5年刻みで分けられています。

また、そこで満たされるべき項目は「輸送機器(自動化・機械化)」「物流拠点(自動化・機械化)」「垂直統合(BtoBtoCのSCM)」「水平連携(標準化・シェアリング)」「物流・商流データプラットフォーム(PF)」「ガバナンス」の6項目に分かれます。

「準備期」と「離陸期」のはざまである2025年は、企業に求められるレガシーシステム刷新の時期として注目されており、また超低遅延・多数同時接続機能が強化されたポスト5Gの本格導入が見込まれる時期でもあります。

また、その前年にあたる「2024年」といえば、「物流の2024年問題」の年です。それはすなわち、働き方改革関連法により定められた「自動車運転業務における時間外労働時間の上限規制」が適用され、深刻な人材不足や物流業界へのダメージが予想されています。

このように、迫りくる2025年の崖と物流クライシスを照らし合わせれば、現在DXとの連携がより重要なことがわかるでしょう。

『物流標準ガイドライン』に見る、フィジカルインターネットの具体像

製造業界においてフィジカルインターネットは、SCMの一環と位置付けられます。
SCMの実現を目指すデータ基盤として内閣府主導で整備が進められているのが「SIP物流スマートサービス」です。

物流・商流のデータ基盤と位置付けられるSIPスマート物流サービスも、現時点では「準備期」にあたるでしょう。そこで進められているのが事業者の垣根を超えたデータ活用の基盤となる「データの標準形式」を規定する活動です。

2022年10月に第2版が公開された『物流情報標準ガイドライン』では、運送計画、入庫、出庫・出荷、配達の4つのプロセスで求められる標準が定義されており、同資料に目を通すことは2040年に向けて実現されるフィジカルインターネットのイメージ具体化に貢献するでしょう。

例えば「出庫・出荷」のプロトコルとして示されているのがASN(Advance Ship Notice:事前納品通知情報)のやりとりと照合により実現する検品レスの例です。また、「配達」プロセスでは、トラックが積み下ろしを行う「バース」を予約するシステムによる効率化の例が示されています。

SCMについて詳しくは『アフターコロナを見据えて考えておきたいSCM(サプライチェーンマネジメント)』をご参照ください。

フィジカルインターネットは「デジタルインターネット」から生まれた

物流の2024年問題や2025年の崖を前にして、製造業でも理解しておきたいフィジカルインターネットとそのロードマップについてご紹介しました。フィジカルインターネットが発案されるきっかけとなったのは「インターネット」におけるパケット交換の仕組みです。デジタルならではの発想を現実にフィードバックしたこのユニークな事例に、これからも注目を続けていきましょう。

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