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DX成功につながるTCOの捉え方

レンテックインサイト編集部

DXの推進における大きな壁の一つに「コスト」が数えられるでしょう。経済産業省が令和2年12月に公開した『DXレポート2(中間取りまとめ)』には、IT関連の費用が投資でなくコストとして捉えられていたことが、企業のIT部門への投資を妨げてきたという見方が記述されています。
IT関連のコストを正確に捉えるにあたって重要なのが「TCO」の考え方。TOCの考え方の基本や使い方について本記事ではまとめてご紹介します。

TCOは「見えるコスト」「見えないコスト」の両方を対象とする

「TCO(Total Cost Ownership:総保有コスト)」とは、設備やITシステムへの投資でかかるコストの総額およびその把握を重視するコスト管理法のことです。他業界に比べ事業規模が大きく、高額の設備投資が行われることも多い製造業ではこの言葉を耳にしたことのある方も多いでしょう。

設備投資にあたって発生するコストとして、まず思い浮かぶのは製品の購入やリースにかかる費用、開発費用、保守・ライセンス費用などですが、実際にはそのほかにも下記のような“見えないコスト”がさまざまに存在します。

【「見えないコスト」の例】

  • 設備やソフトウエアを使いこなせるようになるための従業員の教育コスト
  • 将来的なアップグレード・刷新にかかるコスト
  • 故障やトラブル発生時の対応コスト
  • 製品を使いこなすにあたって必要になるサーバーやバックアップのコスト
  • セキュリティ対策コスト
  • 廃棄にかかるコスト

このような「見えるコスト」に「見えないコスト」と同様に重点を置き、設備・システムの決定に生かすのがTCOの基本的な考え方です。DX時代、オンプレミス、クラウド、その中でもSaaS、PaaSなどITシステムの利用形態は多様化し(詳しくは『いまさら聞けないクラウドの基本 パッケージ・オンプレミス・SaaS・ASP……それぞれの違いとは?』)、TCOで考慮すべき要素も多様化しています。その一方で、クラウド移行によりTCOが大幅に抑えられることに期待を寄せる経営陣や情報システム担当者の声も聞かれます。

もちろん「クラウド移行すれば必ずTCOが抑えられる」といった単純な法則が成り立つわけではないため、TCOの基本を踏まえ総合的に判断を下すことが求められるでしょう。

TCOが目指すのはコストの「削減」ではなく「最適化」

TCOの発祥元と言われる米IT企業、ガートナー社をはじめ多くの企業で鉄則とされているのが、TCOで目指すべきなのはコストの「削減」ではなく「最適化」であるということです。
コストは氷山に例えられ、見える費用(導入費用など)に対し、見えない費用(トラブル対応費用、教育費用、機会損失)などはより大きく、その全体像ははかり知れません。

しかし、そこで諦めてしまうのではなく、項目を指標と結びつけ、TCOを算出できる体制を構築するのが第一歩となります。

TCOを計測するにあたってよく用いられるのが「導入時」「運用時」「廃棄時」の三つのフェーズに分け、それぞれにかかる費用をリストアップするという方法です。新規設備・システム導入時にはそれぞれのフェーズごとに必要となる(と考えられる)コストを細分化し、データを並べて比較します。ここで重要なのが、既存のシステムのデータも並べて比較するということです。

コスト最適化で目指すべきは、現在の機能や利便性を失うことなく、無駄な部分を排除し必要な能力を拡充することです。もちろん、ハード・ソフトの導入費用はまだしも、教育にかかる人件費やシステムダウン時の機会損失などを正確に把握するのは難しいと感じられるでしょう。しかし、データの欠落が発生したとしても同一の基準を設けて比較することで、選ぶべき手段の絞り込みは進みます。

ここで注意したいのが、業種・製品や、想定するユーザーの立場などによって重視するポイントは異なるということです。前者については、重み付けを用いましょう。歩留まり率か、稼働時間か、はたまた教育コストの低さか。点数を数値化して掛け合わせ、それぞれを比較することで、自社の状態について把握できるとともにエビデンスを伴った意思決定が可能となります。後者に関しては、「管理側/エンドユーザー」「IT人材/非IT人材」といった立場の違いによって視点が異なることを前提として、各人材の声を収集することが重要です。その情報収集の過程を経ることが、TCOでリストアップする項目の解像度を高めることにもつながります。

TCOのリストは企業にとって資産となる

TCOはシステムの導入~廃棄まで長期的なスパンで発生し続けます。すなわち、TCO最適化は一時的なものではなく、日々の業務で仕組みや意識として実践され続けられなければなりません。

もちろん、TCOについて最も意識することになるのは設備・システムの導入・刷新のタイミングです。そこでリストアップしたTCOのリストは、企業にとって資産であるということを忘れないでください。その後、「エンドユーザーから〇〇という不満が上がった」「新たなシステム導入が議題に上がった」という場合も、かつて作成したTCOのリストがそのまま判断基準となるのです。

クラウド化の進展などにより、製品導入時のコスト(イニシャルコスト)と運用時のコスト(ランニングコスト)のバランスが後者に偏ってきたことが、TCOへの注目を高めたと言われます。そうであるならば、運用時にコストを最適化できる仕組みを設けることに我々はこれまで以上に力を入れるべきでしょう。

TCOで目指すべきは社内に「定着」させること

コストの最適化を目指すTCOの考え方について解説してまいりました。
TCOは20年以上前から存在する概念であり、決して新しいものではありません。しかし、近年のDXブームによって注目が高まっていることからも分かる通り、企業の間ではまだまだ浸透しきっていないのが実情です。
導入だけでなく行動指針としての「定着」を目指して、まずはコストのリストアップを進めていきましょう。

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