我が国の製造業における外部委託の割合は徐々に増加してきています。2020年経済産業省企業活動基本調査-2019年度実績-によると、2019年度に製造委託を行った企業の比率は72.0%で前年より0.2ポイントの増加でした。
サービス化(詳しくはコチラ)が加速していることもあり、ものづくり産業のあり方はかつてなく多様化してきています。
そこで本記事では製造委託の目的とそれにまつわるデータ、また「OEM/ODM/OBM/EMS」などの基本用語について解説します。
製造委託に関する委託者側のメリットとして挙げられるのが、以下のようなポイントです。
皆さんは、「スマイルカーブ現象」という言葉をご存じでしょうか。
ものづくりの上流である設計・開発段階と、下流である販売・保守段階の付加価値が高く、中流にあたる組立・製造段階の付加価値が低くなる現象です。付加価値を示すグラフにおいてスマイル(笑っているとき)の口のように工程の左端・右端が高く、中央がへこんでいる様を指して名付けられました。
このような収益構造も、製造委託の高まりにつながっているのかもしれません。
とはいえ、2005年版ものづくり白書では、日本はすり合わせ重視のものづくり文化を背景に「組立・製造」の付加価値の高い「逆スマイルカーブ」現象が生じていることを示すデータが示されていました。「2020年版中小企業白書」では、その内容を受けて事業領域の分類ごとに営業利益率や労働生産性を分析しています。
『主たる事業領域別、営業利益率の水準(2018年)』では「最終製品の開発・設計」(4.0%)と「サービス・メンテナンス」(3.9%)が突出しており、それに「素材の製造」「部品の製造」(ともに3.5%)が続きます。また、『複数の事業領域を保有する企業における営業利益率の水準(2018年)』では、「上流+中流+下流」(3.5%)がトップで、それに「上流のみ」「上流+中流」(ともに3.4%)が続きました。
このようなデータから2000年代まで『逆スマイルカーブ状態』にあった製造業の付加価値構造は、この10年余りでスマイルカーブ化してきたことが伺えます。とはいえ、従来の組立・製造の強さも消えてはおらず、全般に平準化されているのが現状といえるでしょう。
製造を委託される側のメリットについても考えてみましょう。以下のようなものが挙げられます。
製造委託には、委託者と受託者の間に技術や組織構造における上下が存在する「垂直的」分業と、委託者と受託者が対等に協力し合う「水平的」分業があります。受託企業の成長の流れとして「垂直的」分業で技術水準と売上を高め、生産力とブランドを確立したうえで「水平的」分業の割合を増やし、自社ブランドの開発も進めるというものがあります。
生産量を自社でコントロールできない、技術やノウハウを秘匿しにくいといったデメリットもありますが、台湾TSMCのように受託製造の専業企業として設立された企業が、半導体製造のトップメーカーとなった事例も存在します。
それでは、製造委託を理解するうえで知っておきたい用語について押さえてていきましょう。
OEMとODMは“ものづくりの主体が委託者・受託者のどちらにあるか”で区別されます。
ものづくりの主体は「委託者」にあります。委託者が製品の企画や設計、販売を行い、受託企業には基本的には生産工程のみを依頼することになります。また、この場合の受託企業もOEMと称されます。
ものづくりの主体は「受託者」にあります。場合によりますが、受託者が製品の企画や設計から販売、マーケティングまで行うことがあります。ブランドが委託者にあり、受託企業は協力しつつその他の事業領域を受け持つイメージです。
このように本来の意味には違いがあるものの、実際のところOEMとODMの境目はグラデーションとなっており、OEM企業がODMや自社ブランドの製造を行うことも多くあります。なお、OEM、ODMと対比して自社ブランドの製品を自社の持つ工場で製造することを「OBM(Original Brand Manufacturing)」と呼びます。
また、電子機器の製造委託は「EMS(Electoronics Manufaturing Service:電子機器製造サービス)」と称されます。EMSでは設計から生産まで全ての工程をまかされる企業が多く、OEMよりもODMに近いイメージで捉えるとよいでしょう。
製造委託のメリットとあり方について委託企業・受託企業双方の目線から解説してまいりました。いずれの視点であっても、また、ODM/OEMの違いはあってもいえるのは、双方が“得意分野に注力する”という視点が重要であるということです。自社のコアコンピタンス(中心的な強み)は何かを見極めることから、製造委託の可能性を探っていきましょう。