IT Insight

製造業で進む“サービス化”の流れ 重要キーワード「二つのMaaS」とは

レンテックインサイト編集部

近年製造業で見られる潮流といえば、デジタル技術の発展・普及を背景に進む“サービス化”です。大手・中小を問わず企業が生き残っていくために必要なサービス化の概念について、同じく製造業界の重要キーワードである二つの“MaaS”とともに解説いたします。
DX界隈で見聞きすることの増えたMaaSですが、使われ方が二つあることはご存知でしたか?
両方の意味を知ることで、製造業界で起こっている大きな変化が見えてきます。

Mobility as a Serviceは「移動」のサービス化

MaaSの一つ目の使われ方はMobility as a Service(サービスとしての移動)。自動車、電車、タクシー、自転車、バスなどの手段を問わず「移動」自体をサービスとして提供するという概念です。
MaaS発祥の地といわれるフィンランドで実際に提供されているサービス「Whim」が例として分かりやすく、スマートフォンのアプリで目的地を入力するだけで移動手段の選択肢と料金が提示され、支払いまで済ますことができます。いつでもどこでもインターネットにつながる環境が当たり前のものとなった結果、生まれた“目的地に行きたい”という消費者の求めるコトにダイレクトに応えるサービスがMaaSというわけです。“移動手段を売る”自動車産業にとっては新たな競合であり、トヨタが多目的なサービスとしての活用を想定した次世代EV「e-Palette Concept」を発表するなど、自動車メーカーの多くは自社のビジネスモデルにMaaSの考えを取り入れる取り組みを熱心に行っています。

Manufacturing as a Serviceは「製造」のサービス化

MaaSの持つもう一つの意味はManufacturing as a Service(サービスとしての製造)です。一つ目のMaaSが「移動」という概念自体をサービス化したように、「製造」という概念自体をサービス化するのが「Manufacturing as a Service」。かつてはモノをつくってそれを売るのが製造業の役割でした。しかし、アフターサービスや製品のレンタルといった形で“売った後”も製品の付加価値を高め続けるのが徐々にスタンダードになってきています。そして、IoTやAI、クラウドの活用により、より高度な形でそれらを実現する考え方が製造業に浸透しつつあるのです。
例えばイギリスの自動車メーカーロールスロイスは航空機エンジンの製造にMaaSの考えを取り入れました。他社と同じく製造したエンジンを売り、そのメンテナンスごとの役務やパーツ交換に対し料金を請求していたロールスロイス。そこから“顧客である航空機会社がエンジンを通して得たいのは「移動に必要な推力」”という点に注目し、長期保守契約を結びエンジンを実際に使用した時間と出力の積に応じて利用料金を請求する「Power by the Hour」というサービスを始めたのです。このサービスは、エンジンに組み込んだセンサから使用状況や部品の消耗具合といったデータを得られるIoTシステムの賜物です。結果として顧客満足度が高まりサービス売上高は年間5~10%向上。さらにデータを利用して最適なタイミングで保守点検を行うことで、25~30%以上のメンテナンスコスト削減や燃料消費量の10%低減にもつながったといいます。

このように、「モノを売る」だけでなくIoTによるデータ取得などを通じて“顧客が本当に欲しい価値”を提供するのが、MaaS(Manufacturing as a Service)であり、製造業においてその重要性は高まり続けています。

“製造業のサービス化”の背景にあるデジタル技術

これまでにご紹介した二つのMaaSに共通していたもの、それは“顧客が本当に欲しい価値をダイレクトにサービスとして提供する”ということです。その背景にはスマートフォンやIoTといったデジタル技術の進歩があり、自社製品とそれらを掛け算することが“製造業のサービス化”のカギだということがよくわかります。

ここまで海外企業の事例をメインで紹介してきましたが、日本企業も負けてはいません。例えばIoT先進企業として知られる建設機械大手のコマツは、建設機械に取り付けたセンサから稼働状況データを収集し、予知保全や故障の検知、盗難防止を行う機械稼働管理システムKOMTRAXを2001年にリリース。さらに、測量データや設計情報をクラウド上で管理することで“安全で生産性の高い土木作業を行いたい”という要望に応える「スマートコンストラクション」サービスを提供しています。
コマツのIoTは元々建設機械の盗難対策として位置情報を把握するために始まったといいます。その取り組みが稼働状況の把握や管理や新ビジネスの開拓にまでつながりました。

このように、デジタル技術の導入が思わぬ効果を発揮し、“製造業のサービス化”を前に進めることは少なからずあります。「今はそれで現場が回っているから」と現在の状況に甘んじることなく、DXによってプラスの変革をもたらせないか柔軟な頭で考えることが現代の企業には求められているといえるでしょう。

“製造業DX”は有用な「サービス化」の手段

二つのMaaSというキーワードの解説を軸としつつ“製造業のサービス化”という考え方についてお伝えしました。
ものづくり企業はサービスという“コトづくり”の側面も取り入れることで、より大きな付加価値を生み自社や社会にプラスの影響を与えられるようになります。そのための手段として有用だからこそ現在“製造業DX”に大きな注目が集まっているのです。
ぜひ一度、貴社の事業を“サービス化”という観点で見直してみてください。大きな躍進につながるかもしれません。

IT Insightの他記事もご覧ください

Prev

Next