製造業DXとして念頭に置かれやすいのは、IoTの導入やデータ活用など工場のDXではないでしょうか。しかし、日々発生する請求書のデータ化や納品書の管理など、事務作業のIT化を進めることは、工場のDXと同じかそれ以上にモノづくり企業にメリットをもたらす可能性があります。
その中でも、近年注目を集めるのが「OCR×RPA」による事務作業の自動化です。
本記事では、その具体的な活用法やメリット、AI-OCRの可能性などについてご紹介します。
最初に言葉の意味についておさらいしておきましょう。
OCRとは、Optical Character Reader(光学文字認識)の略で、紙資料などに書かれた文字をカメラやスキャナーで読み取り、デジタルデータに変換する技術です。
RPAは、Robotic Process Automation(ロボットによる業務の自動化)の略で、ソフトウエアロボットが繰り返し行う定型作業を自動化してくれる技術です。より詳しくは記事『「製造業×RPA」で知っておきたい活用事例・導入のポイント』をご覧ください。
OCR×RPAの活用例として代表的なのが、請求書、受領書、経費申請書といった紙資料の文字情報を読み取ってデータ化し、Excelなどに転記するまでの作業を自動で行わせるものです。
そのメリットとしては以下のようなものが挙げられます。
製造業でのOCR×RPAの活用イメージを具体的にしていただくため、ここからは実際の事例二つをご紹介します。
東京都でインテリア製品製造に取り組むA社では、顧客から受領する注文仕様書のコードと自社コードに相違があるという問題を抱えていました。データをそのまま転記できないため、毎月FAXで受け取る注文内容を手打ち入力することに多くの工数が取られ、多くの残業が発生する状況にあったといいます。
そこで導入されたのが、OCR×RPAでFAXの画像データをデータ化し、別途取り込んだ注文情報とともに受注管理システムに取り込むソリューション。これを用いて人間が行っていたデータの紐づけ作業を自動化しようという試みです。一部読み取りやデータの紐づけが困難な情報もあったものの、データ入力に割かれていた工数は削減され、かつ社内の全体最適に向けたデータベース基盤の構築が進んだということです。
化粧品の製造、販売に携わるB社では、顧客から寄せられる手書き文書やFAX、注文書などのデータ化作業がかねてより大量に発生しており、その処理を外部に依頼していたといいます。しかし、そのコスト削減効果が大きいことに加え、データベース構築を内部で行える体制を持つ必要が生じたことから、OCR×RPAの導入に踏み切りました。
結果としてB社は、手書き文章などをデータに変換、読み取りの上、CSVファイルとして所定の場所にダウンロードするシステムを構築。修正が必要と判断されたものにのみ人手を割くことで、以前の半分以下の工数でデータの取り込み、修正作業を進められるようになりました。
外部依頼コストを削減した結果、顧客対応や他部署からの依頼処理に時間を割けるようになり、情報システム部門の働き方改善にも大いにつながったといいます。
OCRの技術自体は1960年代から存在し、郵便番号・住所の読み取りなどに活用されてきました。しかし、近年RPAと組み合わせての活用がここまで注目されているのはDXの盛り上がりもさることながら、「AI-OCR」という概念が誕生したからでしょう。
その名の通り、AI(人工知能)を組み込んだOCR、「AI-OCR」は、以下のようなメリットをもたらし、OCRの実用性を高めました。
ご紹介した事例の課題が解決できたのも、AI-OCRの発展のたまものです。紙資料を「使える」デジタルデータに変換するために必要な紙資料の仕分けから読み取り、確認から業務システムへの登録まで一気通貫で進められる可能性がAI-OCRによって開かれました。また、AI-OCRとBPO(Business Process Outsourcing:自社業務を外部へ委託すること)を組み合わせたサービスも見られます。
OCR×RPAで業務効率を高めようという場合には、紙資料の読み取り~データ格納だけでなく、前工程である仕分けや後工程で発生する修正など前後のプロセスを視野に入れて検討する必要が生じるということです。どのような資料を、どの程度の精度で取り込み、最終的にどう活用するかまで、導入検討時点でイメージすることをおすすめします。
製造業のバックオフィス業務の精度向上、効率化につながるOCR×RPAの可能性や具体的事例、導入検討時のポイントについて解説いたしました。企業にとって一番の資産である人材。単純作業にその工数を割かれてしまうのはあまりにもったいないことです。文中の事例などを参考に、自社のバックオフィス部署のネックとなっているデータ取り込み、紙資料の管理などの作業はないか、チェックしてみてください。