ホーム3Dプリンター「メイカームーブメント」とは何だったのか

3Dプリンター Insight

「メイカームーブメント」とは何だったのか

レンテックインサイト編集部

3Dプリンター Insight 「メイカームーブメント」とは何だったのか

2010年代、3DプリンターやCADの普及により耳目を集めた「メイカームーブメント」。“誰もが手軽にものづくりに参入できる時代の到来”という強烈なイメージは、記憶に新しいという人も多いのではないでしょうか。
さて、2020年代に入り、メイカームーブメントもまた新たなフェーズに突入したと言われています。

本記事では2010年代のメイカームーブメントについて総括し、その製造業界への影響や2020年代からの「ポスト・メイカームーブメント」について考察します。

メイカームーブメントとは

まずはメイカームーブメントとは何だったのかについておさらいしておきましょう。

CADの汎用化・普及が進んだこと、2009年にFDM方式(熱溶解積層方式)の3Dプリントに関する技術の特許が満了したことなど複合的な要因から、フィギュア、楽器、IoT機器、家具などさまざまなものづくりを個人で行う人々(メイカーズ)が現れ始めました。
2012年にテック誌として知られる米WIRED誌元編集長のクリス・アンダーソン氏が『Makers: The New Industrial Revolution』を出版。メイカームーブメントという名前で、“ものづくりの民主化”ムーブメントが世界的に認識されるきっかけとなります。

メイカーはものづくりを行う個人を指し、ものづくり企業を意味するメーカーと対比される概念です。メイカームーブメントは“第三の産業革命”と称されることもあり、製造業界のビジネスモデルに大きな変化が生じるという期待も込められていました。

実際にメイカームーブメントを新たな機会と捉え、社内にファブスペースを設ける企業、Makers Faireなどのイベントに参加する企業は増加しました。そうしたスペースやコミュニティから「もの」が生まれ、またメイカー文化が盛り上がった側面は確かにあるはずです。

国外では特に中国の深センがメイカー文化の盛り上がった都市として知られています。その成長の勢いは落ち着きを見せつつあるようですが、デジタルファブリケーション(デジタルデータをもとにしたものづくり)やアディティブマニュファクチャリング(詳しくはコチラ)が新たなものづくり都市の誕生を牽引したのは、メイカームーブメントの勢いを象徴していたと言ってよいでしょう。

2010年代で見えてきたメイカームーブメントの限界

さて、このように一定の盛り上がりを見せたメイカームーブメントですが、2010年代を通して、壁も見えてきました。

2017年、工作機械のレンタルやコミュニティとしての機能を備え、メイカームーブメントの象徴の一つだったTechShopの米国内における全拠点が閉鎖されました。その3年後、2020年2月には「Tech Shop Tokyo」も閉鎖という結果に。

その原因として、運営費を賄えるだけのビジネスモデルが確立できず、会員数の増加もそれを補えるほどのものではなかったという点が挙げられています。メイカームーブメントが生じたといっても、それはもともとものづくりに興味があった人、DIYを趣味にした人が中心であり、一般層を巻き込んでのトレンドには届かなかったということでしょう。

また、メイカーのものづくりとメーカーのものづくりには、やはり「趣味/ビジネス」という大きな隔たりがあることもわかってきました。個人の「作りたい!」から生まれるものには、当然ながら量産体制やマーケットの大きさ、コスト、サプライチェーンなどに向けられる視点があまりありません。ものづくりを事業にまで発展させるならば、メイカーであっても長期的なビジョンとビジネス的観点が必要です。

ポスト・メイカームーブメントはどうなるか

2022年以降はメイカームーブメントの利点も限界も見えてきた「ポスト・メイカームーブメント」。その真価が問われるのはむしろここからといえるでしょう。

2010年代のメイカームーブメントを通して、個人でものづくりをしやすい環境は確実に成長しました。それ以上に、メイカーのコミュニティが東京だけでなく地方都市も含めて多数生まれたのは、ポスト・メイカームーブメント社会でも大きな財産となるはずです。

ここからメイカームーブメントを発展させるには、市井のメイカーが取り組むハンドメイドDIYや“こだわりのものづくり”を支えるプラットフォームと、そこから選りすぐりのアイデアを支えるための仕組みが必要になってくるでしょう。

それとともに、事業アイデアを持つ人々や製造業のものづくり人材など多様なメイカーがマッチングできるような空間が求められます。

そのために企業ができるのは、出資やイベント参加で金銭や知見の面からサポートするとともに、「メイカーのネットワークをつなぐ」活動を促進することでしょう。

もちろん自発性と自由が根幹にあるメイカー文化の根幹を乱すような介入は避けられるべきですが、イベントやスペースをメイカーが集まるだけでなくつながる場とするために、よりセグメント分けされたネットワーキングなど、企業だからこそできることはあるはずです。

メイカームーブメントの真価が問われるのはこれから

2010年代のメイカームーブメントについてまとめ、2020年以降のポスト・メイカームーブメントについての展望を記しました。前述の通り、メイカームーブメントの真価が問われるのはこれからでしょう。幻滅期を経た今だからこそ、現実的なメイカーとメーカーのエコシステムが見つかるはずです。ぜひ、現在行われているファブスペースやイベントについてリサーチしてみてください。

3Dプリンター Insightの他記事もご覧ください

Prev

Next