ロボット Insight

「協働」から「融和」へ、人とロボットで作るものづくりの近未来~オムロン社~

レンテックインサイト編集部

ロボット Insight 「協働」から「融和」へ、人とロボットで作るものづくりの近未来~オムロン社~

オムロン社は、ラスベガスで開催された「CES 2019」でAI技術を搭載した卓球ロボット「フォルフェウス」を発表しました。 人の能力を引き出すロボットの開発に取り組む同社では、ロボットと人が共に働く未来をどのように捉えているのでしょうか。 ロボット推進プロジェクト副本部長 池野 栄司氏にお話を伺いました。

「i-Automation!」で目指す未来の生産現場とは

オムロン社は1933年、前身である立石電機製作所として設立されました。以来、自動改札機やキャッシュディスペンサー、家庭用血圧計といった世界初となる開発を手掛けています。 「創業者である立石一真は“機械にできることは機械に任せ、人間はより創造的な分野で活動を楽しむ”ということをモットーにしていました。 その言葉はまさに現在のテクノロジーと人間の関係性に当てはまります」(池野氏)。

オムロン社が産業用ロボットの開発に参入したのは2015年のことです。 同社は1950年代からFA(ファクトリーオートメーション)に取り組んでおり、センシング&コントロール技術に強みを持っています。 同社がもともと持っている高精度の製品とロボットを統合的に提供することで、他社にはない価値を創出できると考えています。 「現在すでに産業用ロボットが導入されている部分は当社のターゲットではありません。 産業用ロボットが普及しているとはいえ、組立や搬送はいまだに人が行っています。 当社は今まで困難とされてきた工程を自動化し、未来の生産現場を構築していこうとしています」(池野氏)。

未来の生産現場を作るためのコンセプトが「i-Automation!」(※1)です。 「i」はイノベーションを表しており、オートメーションを通じてものづくり現場を革新することを意味します。 生産現場が単一製品の大量生産から多品種少量生産へとシフトするなか、「i-Automation!」では工程をセルに分割し、 作る製品によって異なるセルを組み合わせることでラインをその都度変えていくフレキシブルな生産の実現を目指しています。
※1「i-Automation!」はオムロン社が提供する価値の方向性を示したコンセプトワードです。 生産現場における“制御進化”(integrated)、“知能化”(intelligent)、“⼈と機械の新たな協調”(interactive)のオートメーションでモノづくり革新に取り組んでいきます。

ロボット Insight 「協働」から「融和」へ、人とロボットで作るものづくりの近未来~オムロン社~「i-automation!」

(図:「i-Automation!」全体図)

また、ロボット、センサ、PLCサーボモータは全て統合ソフトウエアで管理されます。シミュレーションやモニタリングができるため、セッティングやメンテナンスが簡単になります。

生産現場にあるものを全てシームレスにつなげて見える化し、人と協調して働く生産現場をスピーディーに構築する、 そして制御と情報の融合で品質と生産性を劇的に向上させる、それが「i-Automation!」の目指す姿です。

人が活躍するスマート工場事例

「i-Automation!」の最新事例として、アイシン・エィ・ダブリュ社の取り組みを紹介していただきました。 同社は10年ほど前からデータ基盤を整備するなど、スマート工場に関連する先進的な取り組みを続けています。 今回の事例は、多品種少量生産のAT用電子制御ユニット(ECU)基板の組み立てと、工程間の搬送をロボットによって自働化したものです。

従来は、「工程間の搬送」「目視検査」「装置への脱着」の作業を10人の担当者が行っていました。 狭い空間に人が行き交うなかでの作業が必要なため、担当者にはかなりのストレスがかかります。 今回の取り組みで、この10人の担当者が行う作業をセル化して、全てロボットで代替することに成功しました。

ロボットと天吊りレール搬送装置が、各装置へのワークの脱着と工程間の移動を行います。 また、目視検査については、カメラによって画像を解析しています。 10人分の作業を今は1人で管理できるようになり、大幅な現場作業効率の向上を見込んでいます。

「オムロンの綾部工場や草津工場でも同様の取り組みをしています。綾部工場では必要な搬送作業の75%を自動化しています」(池野氏)。

簡単セッティングのアーム型協調モデル「TMシリーズ」

ここで「i-Automation!」を支えるロボットの一つ、2018年10 月に発売開始したアーム型協調ロボット「TMシリーズ」を紹介していただきました。

TMシリーズでは、「ピック・アンド・プレイス」「組立」といった作業が可能です。 「従来のロボットは、据え付けから位置決めして厳密に寸法を合わせるので、セッティングが大変です。 TMシリーズの場合は場所を変えても簡単に設置でき、簡単なティーチングですぐに動かすことができます」(池野氏)。

ロボットには広い視野角を持つカメラが標準搭載されており、部品の位置が多少ずれていても、ロボットが自動で補正して組立作業ができるのも魅力です。

協調ロボットのデメリットの一つが作業スピードの遅さです。 協調ロボットは人に対して安全性を確保するために、250mm/秒と非常に遅いスピードで作業しなければなりません。 そうしたデメリットを回避するべく、TMシリーズでは処理スピードを上げる工夫を盛り込んでいます。 「TMシリーズでは最大1400mm/秒までスピードを出すことができます。 人を検知するセーフティライトカーテンを使って、人がいないときは最大1400mm/秒で使い、人が入ってきたら安全なスピードに変わるという使い方ができます。 こうすると産業用ロボットと遜色ないスピードでの組立が可能です。」(池野氏)。

目的地まで自律的に走行するモバイルロボット「LDシリーズ」

自らマップを作って動き回る自動搬送モバイルロボット「LDシリーズ」です。 内蔵しているレーザスキャナで人や障害物を検知し、ぶつかることなく目的地まで行くことのできる経路を自ら選んで走行します。

従来の無人搬送車はレール式のため、工場内のレイアウトを変更すると、レールを引き直す必要がありました。 LDシリーズではレールが不要で、マップ上のゴールを指定するだけで、ロボットが効率的なルートを選択して自律的に移動します。 モバイルロボットによって、作業場から製品を受け取り出荷場まで自動で搬送することもできます。

モバイルロボットの活用は生産現場にとどまりません。「当社は生産現場向け、FA工場向けにロボットを開発していますが、モバイルロボットはまったく異なる分野でも活用いただいています。 空港で荷物を運んだり、ラウンジでドリンクを運んだり、といった用途でも使われています」(池野氏)。

「協働」から「融和」へ「i-Automation!」の目指す未来

冒頭で紹介した卓球ロボット「フォルフェウス」は、難易度をプレイヤーのスキルレベルに合わせて返球できるため、人間がロボットと卓球をすることでスキルをどんどん伸ばすことができます。 生産の現場でも、単に人と一緒に働く「協働」だけではなく、一緒に働きつつ人の能力を最大限引き出す「融和」がオムロン社の目指す未来です。

ロボット Insight 「協働」から「融和」へ、人とロボットで作るものづくりの近未来~オムロン社~

「当社はロボット単体を販売するというよりは、ロボットを全体の中の一つのコンポーネントと考えています。 今までできなかった自動化をセンサ、PLC、サーボモータ、ロボットを組み合わせて実現していくことが当社の使命です。 ものづくりを革新させてこそ、人間の能力が引き出され、ロボットとの“融和”が実現するのだと思います」(池野氏)。

ロボットを進化させ、より価値あるイノベーションが生まれる。オムロン社のこれからの取り組みに期待が高まります。

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