
製造業では、人手不足対策や生産性向上を目的として、産業用ロボットや協働ロボットの導入が進んでいます。ロボットを現場で活用するためには、動作経路や作業内容を設定する「ティーチング」が必要です。
一方で、実際の運用では導入時には想定していなかった再調整や条件変更が発生し、ティーチング工数が大幅に増えるケースも少なくありません。
本記事では、ティーチング工数が増大する理由と現場への影響、工数削減に向けた考え方について解説します。
製造現場にロボットを導入した際に、ティーチングや調整作業の増大が問題になるケースがあります。特に多品種少量生産では、製品変更のたびに設定変更が必要となり、ティーチング工数の増大につながります。
近年の製造業では、顧客ニーズの多様化によって、多品種少量生産への対応が求められる場面が増えています。従来のように同じ製品を長期間生産するのではなく、短期間で生産品目が切り替わるケースも珍しくありません。ロボットアームなどは、ティーチング内容を変更することでさまざまな作業に対応できますが、その分、多品種少量生産では設定変更の頻度が増え、ティーチング工数の増大につながります。
生産品目や作業条件の変更によって再ティーチングが必要になる例として、溶接作業では、対象物の位置や形状が変わると、ロボットの動作軌道や速度などの条件を再調整する必要があります。搬送工程でも、ワークのサイズや配置の変更に応じて、把持位置や搬送経路の修正が必要になる場合があります。
特に試作品対応や生産品目が頻繁に切り替わる現場では、ティーチング時間が実際の生産時間を上回るケースもあります。その結果、本来は効率化を目的として導入したロボットが、かえって運用負荷の増大要因になる場合があります。
ティーチングには、ロボットの操作方法に加え、座標系や動作経路、速度、安全に関する設定などの知識が必要です。ティーチングペンダントを用いる作業では、担当者の経験に左右される部分もあり、特定の熟練者に作業が集中しやすくなります。その結果、担当者によって作業品質や調整時間に差が生じ、ティーチング工数が増大する場合があります。
作業が属人化していると、対応できる担当者が不在の場合に、ライン変更や設備調整を進められず、対応までの待ち時間が発生する可能性があります。また、対応可能な人材を増やすには教育や技能習得のための時間も必要となるため、ティーチングに関連する総合的な工数が増加します。
ティーチング工数が増大すると、作業担当者の負担が増えるだけでなく、生産ラインの停止時間や調整待ち時間も長くなります。その結果、設備稼働率や生産計画に影響し、ロボット導入による効率化の効果を十分に得られない場合があります。
従来型のオンラインティーチングでは、実機を使用して動作を設定・確認するため、ティーチング中は対象設備を生産に使用できません。段取り替えや調整のたびにラインを停止すると、設備稼働率の低下につながります。生産時間中の停止を避けるために夜間や休日に調整作業を行う場合には、担当者の勤務負担が増える可能性があります。
特に短納期対応が求められる現場では、ティーチング時間そのものが生産のボトルネックになる場合があります。製品変更の頻度が高いラインでは、ロボットを導入したにもかかわらず、生産効率が期待ほど向上しないケースもあります。
ロボットを安定して稼働させるには、動作経路や位置、速度などを調整し、作業品質と安全性を確認する必要があります。組立や溶接など、位置精度が品質に影響する工程では、対象物や設備の条件に合わせた細かな調整が求められます。設定が適切でない場合には、動作のばらつきや加工品質の低下につながる可能性があります。
また、実機を使用するティーチングでは、ロボットの動作範囲や周辺設備との干渉、安全に関する設定なども確認する必要があります。こうした確認や調整の項目が多いほど、ティーチングに必要な工数も増加します。

ティーチング工数の問題に対しては、シミュレーション技術やAI・ビジョン技術を活用した改善が進んでいます。周辺設備やセンサーを含めた、システム全体で効率化を図る考え方が重要です。
近年は、3Dシミュレーション上でティーチングするオフラインティーチングの活用が進んでいます。仮想空間上で事前に動作検証することで、実機停止時間を短縮しやすくなります。
例えば、ロボット動作の干渉確認や経路調整をシミュレーション上で事前に行うことで、現場での試行錯誤を減らせます。設備立ち上げ時のトラブルを抑え、生産開始までの期間短縮にもつなげられます。
ただし、オフラインティーチングにも課題があります。ロボットや周辺設備の3Dモデル作成には手間がかかり、実機との差異によって最終調整が必要になる場合もあります。そのため、シミュレーションだけで完全に運用できるわけではありません。
近年は、カメラやセンサーを用いてワーク位置を自動認識し、把持位置の補正や動作経路の生成に活用する技術も広がっています。例えば、ピッキング工程では、カメラでワーク位置を認識し、ロボットが自動で把持位置を補正できるようになります。
一方、照明条件やワーク表面状態によって認識精度が低下する場合もあります。そのため、カメラだけでなく、照明設計やセンサー配置、制御システムまで含めた全体最適化が重要になります。
ロボット導入では、本体の性能だけでなく、導入後に発生するティーチング工数も重要な検討項目です。特に多品種少量生産では、生産品目の変更に伴う再ティーチングや作業の属人化によって、想定以上の調整工数が発生する場合があります。
オフラインティーチングやAI・ビジョン技術は、実機での調整作業や試行錯誤を減らす手段となります。ただし、実機との差異に対する最終調整や、現場条件に応じたシステム設計は必要です。ロボット導入時には、生産方式や品目の変更頻度、運用体制を踏まえ、ティーチング工数を含めてシステム全体を設計することが重要です。