本記事では、資格を取得したばかりのエンジニアの方などが役立つ、産業用ロボットの教示作業の際に注意すると良いポイントを解説していきます。
日本では労働者人口の減少が進んでおり、産業用ロボットの普及が今後進んでいくことが予想されています。産業用ロボットの導入により単純な部品の運搬や、溶接、塗装などの危険作業が自動化されれば、コストや災害リスクの減少などのメリットがあります。
一方で産業用ロボットの教示作業回数が増えるため、教示作業中に労働災害を発生させ、ロボットをほかの設備に衝突させて故障させるリスクが上昇します。この記事では教示作業中の注意点や、気を付けるポイントを詳しく解説します。
産業用ロボットの教示作業とは、新たにロボットを導入したときや、新製品をラインに流動させるときなどに、ロボットに必要な動作を記憶させる作業です。特別教育を修了した資格者のみがこの作業に従事することができます。
ロボットが移動する経路のポイントを登録したり、製品をつかむ・加工するなどの指令コマンドをプログラムで入力します。プログラムを間違えると流動する製品の搬送や加工をミスするだけでなく、労働災害や設備故障につながるため、慎重な作業が必要となります。
産業用ロボットの教示作業は、教示を行う環境や、目的などにより気を付けるポイントが変わります。そのため資格を取得するための特別教育だけではなく、現地現物で作業者自身が意識しなくてはならない注意点がいくつかあります。それでは具体的な5つの注意点について解説していきます。
2Sとは整理・整頓を指す言葉で、教示を開始する前に不要な部品などは移動しておくこと、床面を清掃しておくことの重要性を指しています。また教示中に作業者が移動するときは足元を確認することも重要です。
これらは基本的なポイントですが、教示を行うエリアに部品などが転がっていたり、油や水が付着していたりすれば転倒するリスクが上がります。教示中はロボットや製品などに注視しがちで、足元の確認がおろそかになりやすいため、ふいに躓いたり滑ったりすると大怪我につながります。
教示作業中はロボット全体を見渡せる距離に立ち、コントローラーで安全なスピードに制限して教示を行うことが重要です。
教示作業中はロボットのスピードは制限されていて、通常の稼働中より低速にしか動かないものの、ロボットとの距離が近すぎれば、いかに低速でも不意な動作で挟まれたり、ぶつかったりして怪我をする可能性があります。
製品のセットポイントなど細かい教示作業はロボットの近くで行う必要がありますので、そのときは特に慎重に、コントローラーの設定を教示速度上限の10%や20%などに落として作業するとよいでしょう。
教示作業でロボットの移動経路を設定する際には、機構や制御メカニズムを理解して教示を行う必要があります。教示者が指示したポイントが不適切であると、移動中の経路でロボットが構造上成立しない姿勢を要求されて異常を発生してしまうからです。
最近よく利用される6軸多関節機構の産業用ロボットは、複数の軸を複合的に回転させて指示したポイントへ移動します。ロボットのオーバーレンジで使用することや、ハンドに近い小さな軸を過剰に回転させるとロボットの異常や故障の原因になります。
またロボット周辺の設備とのインターロック仕様を理解していることも重要です。ロボットが周辺設備内に進入して製品を取り出す動作では、周辺設備が動かないようにロボット側から信号を出す必要があります。
ロボットプログラムを手入力するときは慎重に1文字ずつ確認をする、一度入力したプログラムを再度見直して間違いが無いか確認するなど、十分に注意して入力する必要があります。
ロボットの接続ポイントや、ハンド部分の起動、周辺設備への信号出力などの指令コマンドを入力するときに、万が一間違えると、ロボットが周辺設備と衝突して故障する可能性があります。
最初に実稼働するときは、教示作業や試運転用に制限していたロボットの稼働スピードを少しずつ上げていくことや、非常停止ボタンに手を添えていつでも停止できる準備をしておくことが重要です。試運転の段階では動作に問題がなかったのに、実際に稼働させた際に、稼働スピードなどの影響によって不具合が発生し、周辺設備と衝突する可能性があるからです。
その原因の一つにロボットのスピードが上がると6軸の連動動作に影響が起きて、経路が若干変更されることがあります。またその他の原因としては、教示中に動いていなかった周辺設備が連動運転で稼働したときに、インターロック信号を間違えていてロボットと衝突することなどです。
教示初心者が見落としがちなポイントなので十分に留意して確認を行う必要があります。
産業用ロボットの教示作業で注意するポイントと対策について解説してきました。
産業用ロボットの普及拡大によって教示機会は増えてくるため、この記事で紹介した安全な作業方法を理解して教示作業に従事することがますます重要になってきます。ロボットの衝突防止技術やシミュレーション技術などの技術開発が進めば、安全な作業は可能になりますが、だからといって安全への意識が低下すれば、怪我や災害が減少しない可能性もあります。技術開発が進んだとしても、作業者本人が自らの安全は自ら守るという意識を持つことが重要です。