山口県山口市にて、画像処理関連技術をベースに、FA向けシステムや組み込み用ミドルウエアの受託開発、めまい診断向け眼球運動検査装置「yVOG-Glass」、ブリネル硬度読取装置「YCAM-BR」などの開発・販売を手掛ける株式会社YOODS。
ロボット搭載を前提とした同社開発の3次元ビジョンセンサー「YCAM3D/YCAM3DM」は、チョコ停などのトラブル低減、「ビジュアルティーチ(VT)」による導入コスト・教示工数削減といった業績から、令和4年度文部科学大臣表彰「科学技術賞」を受賞しました。
本記事では、同社代表取締役CEO、原田寛社長にインタビューを行い、「YCAM3D/YCAM3DM」や「VT」といった製品の特徴、山口県に本社を構えるYOODS社ならではの強みなどについて伺いました。
山口県のY、オブジェクト指向(Object-Oriented)のOO、デザイン(design)のD、システム設計(System)のS、に由来しているという株式会社YOODSは、2004年10月創業、社員数15名で、2022年8月からは東海道・山陽新幹線「新山口駅」の近くに本社を構えています。
原田社長は、もともと起業を志向していたわけではなく、自身も出身である山口県にてエンジニアが活躍可能な道を探る中で、画像処理の技術力を生かす現在のスタイルを形作ってきたと話します。
「今画像処理技術者は、どこでも不足していると思うんです」(原田社長)。
しかし、山口には、高度な技術を持つエンジニアが能力を生かせる場が多くないという実情があります。そんな環境のため、画像処理やロボット開発、カメラ開発など、技術を持つ人材を一手に採用できているのが、YOODS社のほかにはなかなかないと原田社長。監視カメラ、Webカメラ、医療など画像処理技術の需要が高まる中で、同社の活躍の場も広がり続けています。
例えば、めまい診断向け眼球運動検査装置「yVOG-Glass」はカメラ付きゴーグルにより眼球の動きの数値化を行うことができ、2018年には「Medtec イノベーション大賞」を受賞。鋼球を押し当てた際の凹みの径により金属材料の硬さを正確に測定するブリネル硬度読取装置「YCAM-BR」は、新幹線のレール車輪や自動車のシャフトなど信頼性が要求される部材の製造現場にて活用されています。
日立グループで3次元ビジョンシステムや知能ロボットの技術開発に取り組むKyotoRobotics株式会社と、2018年10月1日に業務提携を行ったYOODS株式会社。
KyotoRobotics株式会社の出資を受け、一方では国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業 「ロボット活用型市場化適用技術開発プロジェクト」の一環として商品化されたのが「YCAM3D/YCAM3DM」と「ビジュアル・ティーチ(VT)」です。
「YCAM3D/YCAM3DM」が採用している撮影方式は、人間の目と同じように、左右のカメラを用い、プロジェクターで投影したパターンの視差を計算することで3次元認識を行う「ステレオ位相シフト方式」。YCAM3Dの基線長(カメラの間隔)は80mm、YCAM3DMは300mmで、それに比例してWD(※)も異なります。また、「YCAM3D」には17M・10M・10L・6の4シリーズ、「YCAM3D」には10と6の2シリーズのレンズが用意されており、それぞれで使用する範囲が異なります。
YCAM3D YCAM3DM
技術的な観点から「YCAM3D/YCAM3DM」の特長として、原田社長が掲げるのが以下の2点です。
3Dカメラの撮影方式には、光を反射させることで奥行を割り出すToF方式などが一般的です。しかし、光の反射時間を利用する関係上、誤差が生じやすく、対象物の色や模様の影響も受けてしまいます。一方、ステレオ位相シフト方式は、1ピクセル単位で3次元位置を計算できるため、それを採用している「YCAM3D/YCAM3DM」には、精度においてアドバンテージがあります。
さらに、工場での活用で気になるのが振動や衝撃への耐久性です。ハンドアイなど産業利用を前提として開発され、環境試験が繰り返された「YCAM3D/YCAM3DM」の耐久性を意識した機械設計は、「世界中探してもそんなにない」と原田社長も太鼓判を押します。
※…Working Distance(ワーキング・ディスタンス)、作動距離。レンズの先端と撮影する対象物の間の距離。
YCAM3D/YCAM3DMの特長の一つが、汎用ロボットビジョンシステム「ビジュアルティーチ(VT)」です。
現物のワークを用いてロボットティーチングを行いながら、「教示時と再生時とで対象物体の位置がずれていても、そのずれの影響を除去することができる(※)」同システム。そのメリットとして挙げられるのが以下のようなポイントです。
現物でティーチングできるが位置決め設備が必要な「教示&再生方式」、周辺設備が簡素化できるが現物教示が不可能で誤差に弱い「ロボットビジョン方式」、そして、その二つの良いとこ取りを狙ったのがVTといえるでしょう。
2020年に本格的に展開されたこのシステムは、網パレットからのアルミ素形材の加工ラインへの投入、パレット済みワーク(クランクシャフト)のロボットアームによるピッキング、車体組み立ての治具レス化などですでに活用されているといいます。そのほかにもアルミ鋳物のバリ取り、インライン形状計測、溶接、準整列状態のピッキングなど、自動車製造に限らず、FAにおけるその可能性はさまざまに提案されています。
ビジュアル・ティーチ(VT)は、株式会社YOODSが基本特許取得済みの技術です。その精度とスピードは、YCAM3D/YCAM3DMの高精度な測位技術に支えられています。FAの実現、そしてその先にある人手不足解消において、VTの活用はロボット活用分野において、大きなメリットをもたらしてくれるかもしれません。
これまで3Dビジョン関連の事業を展開してきた経験から、原田社長は「ロボットビジョンに対する不信感を感じる」と話します。安定して動かない、値段が高いといったイメージからロボットビジョンのシステム導入を選択肢から外してしまっている方も少なくないのではないでしょうか。
このような、“不完全なシステムにより本来できあがるはずの市場が焼け野原になってしまっている”状況に対し、「『YCAM3D/YCAM3DM』はある程度の問題を解消できていると思います」と原田社長。
3Dビジョンの市場成長を支える立場として、新しい技術や特許の取得などを継続し、築き上げてきた基盤を確固たるものすることを、株式会社YOODSは目指しています。