ビッグデータの活用によってロボットが自律的に判断して行動したり、工場の生産性向上につながったりなどの効果が生まれています。本記事では、工場などで用いられる産業用ロボットとビッグデータの組み合わせによる価値創造について解説します。
データは「21世紀の石油」とも言われており、近年データの持つ価値の高さが注目されています。しかし、データはただ集めるだけでは価値を生み出せず、価値を生み出せるかどうかは活用方法次第といえるでしょう。
工場内ではロボットアームやAMR(自動搬送ロボット)などの各種ロボットが製品のピッキングや加工、搬送などの作業を担います。これらのロボットは、工場内やロボット自身に取り付けられたセンサーで収集した膨大な量のビッグデータを基にして性能を向上させてきました。
大量のビッグデータを効率よく分析するためにAI技術と組み合わされることも多く、AI技術自身も大量の学習データが多いほど精度の高いモデルを構築できます。そしてAIによる分析結果を活用することで効率よくロボットを制御できるようになります。このようにセンサーによるデータ取得、AI技術を用いたデータ分析、効率的なロボット制御、という循環を繰り返してさらなる効率化が実現できるのです。
近年はセンサーのコストが低減したため多くのセンサーを用いた情報収集が容易になりました。また半導体技術が向上したため現場の機器に搭載したICにて高速演算処理が可能になりました。こうしたハードウエア技術の進歩もビッグデータが活用できるようになった一因といえるでしょう。
かつてはロボットアームに作業内容をティーチングするために、アームの各軸の動きを細かく設定する必要がありました。ビッグデータおよびAI技術を活用することで、細かなティーチング作業なしでもロボット自身が状況判断を行い自律的な作業が可能となります。
例えば、ピッキングや組立作業において対象物の性質に合わせた適切な判断が可能です。カメラで対象物の形状を把握して最適な把持方法を検討したり、物体を把持する際の力加減から適切に作業できているか判断したりします。また対象物の形状や向きなどがさまざまに変化してもリアルタイムに認識して柔軟な対応が可能です。
次に次世代AGVとも呼ばれるAMRの例をご紹介します。これまで工場内では、機体に荷物を載せて搬送作業ができるロボットであるAGV(無人搬送車)が広く用いられていました。そして近年はAGVに代わってAMR(自動搬送ロボット)の導入が進んでいます。AMRは機体に搭載した複数のセンサー情報およびSLAM(自己位置特定技術)を基に自律移動できることが特長です。
AMRは活動する範囲における環境地図を作成し、目的地までの最適なルートを導き出すことが可能です。これは車の自動運転でも用いられる技術で、目の前に現れた障害物の回避や工場内のレイアウト変更への対応など、周囲環境の変化に対して柔軟に判断・行動します。また機体間でのデータ共有もできるため、作業のボトルネックとなるエリアにおいてAMRの台数を増加させた場合にも容易に対応できます。
スマートファクトリーとは、工場における生産性向上や人手不足の解消を目的としてIoTやAI技術を取り入れた工場のことです。各種センサーを用いて収集したデータの分析により、現状の課題を解決して生産性や業務効率の向上につなげます。ドイツ政府が主導した国家プロジェクト「インダストリー4.0」がきっかけで注目を集め、日本国内でも導入が進められてきました。
工場内の生産設備や機器、測定器、作業者などから収集できるさまざまなデータを活用して課題解決を実現します。例えば、不良品が発生した場合の要因分析、リアルタイムな異常検知といった、工場で発生したトラブルの解決が自動化できます。また生産工程のうちボトルネックとなる個所の発見や設備のエネルギー効率の最適化、作業者の配置の最適化など、工場全体における業務プロセスの改善にも役立っています。
ロボットは収集したビッグデータを基にさらなる性能向上を実現できます。本記事では、対象物の状況にリアルタイムで対応するロボットアームや、自律的に最適な走行ルートを算出するAMRを例としてご紹介しました。またIoTやAI技術を活用するスマートファクトリーはビッグデータを基に工場全体の業務プロセスの最適化を目指します。
このように、データはうまく活用することで大きな価値を生み出します。一方で工場内の機器の入れ替えや、新たな設備の導入にはコストがかかるため進めにくい場合もあるでしょう。その上方針が明確でないのにシステムを導入しても、うまく活用できなければ大きな負債となってしまいます。まずは目的や方針を明確にしてから、データの活用方法を考えてみてはいかがでしょうか。