ホームロボット人とともに作業を行うユニバーサルロボットの協働ロボット

ロボット Insight

人とともに作業を行うユニバーサルロボットの協働ロボット

レンテックインサイト編集部

OECD先進諸国の中で日本の労働生産性は下位に低迷しています。さらに熟練工の高齢化や人手不足という問題も重くのしかかります。課題が山積みの日本で注目されているのが協働ロボットです。協働ロボットは、日本企業の課題を解決できるのでしょうか。今回はユニバーサルロボット社(以下、「UR」)に伺い、実際に協働ロボットを見せていただきました。

ロボット Insight 人とともに作業を行うユニバーサルロボットの協働ロボット

ユニバーサルロボット 日本支社
General Manager
山根 剛氏(写真右)
Customer Service Engineer
小澤 祐一氏(写真中央)
Marketing Manager
江下 由香子氏(写真左)

自前でロボットを導入する革新を巻き起こす

UR社は、2005年にデンマークの学生3人が世界初の商用の協働ロボットを開発したことから始まりました。これまでに50,000台を超える協働ロボットを販売しており、世界トップシェアを誇ります。

同社の協働ロボット(URロボット)の主力製品は「e-Series」。e-SeriesにはUR3e、UR5e、UR10e、UR16eがあり、製品名称についている数字は可搬重量を表します。ただし、UR10eは2021年に可搬重量を拡張し、12.5kg可搬となりました。

「URロボットは、ユーザーがSIerに必ずしも頼らなくても導入できるソリューションです」と山根氏が語るように、エンドユーザーが簡単に導入できる仕組みになっています。いくつか特長を紹介していただきました。

簡単セッティング

従来型産業用ロボットの場合、導入に当たって特別な工業用電源を用意したりアンカーで固定したりといった大掛かりなセッティングが必要でした。それに対してe-Seriesは家庭用電源で使用でき、アンカーで固定する必要がありません。
作業用のアタッチメントも従来は専用のものを作り、ロボットとは別にプログラミングする必要がありましたが、URでは日本を含む世界各国の300社以上のパートナー企業で構成する「UR+(URプラス)」と称するエコシステムを構築。ロボットハンドやねじ締めツール、研磨ツールなど優れた製品を持つメーカーがURロボット用製品を開発しています。これにより、ユーザーは豊富な製品群の中から最適なアタッチメントを選択することができ、またURロボットのティーチペンダントからアタッチメントも一気通貫でプログラミングできるようになっています。

小澤氏に実際にUR+製品であるロボットハンドを取り外していただきました。

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手でボタンを押すだけで簡単に取り付けたり、取り外したりすることができます。

「UR+製品であれば、製品をロボットに取り付け、アプリをUSBメモリでロボットにインストールするだけで、簡単にロボットと接続できます」(小澤氏)。

簡単プログラミング

自前でロボットを導入するためのもう一つのハードルが、ティーチングです。従来型産業用ロボットの場合、ロボットのプログラミングは専門知識を持ったSIerに依頼するため、システム構築や維持費用が高額になっていました。URロボットの場合、ロボットに触れた経験のない方でも簡単にティーチングができるようになっています。
どれだけ簡単なのか、アームを上下させるプログラムを小澤氏に即席で作っていただきました。
まずアームをどの高さまで上げるのか、その位置をティーチペンダントと呼ばれるタブレットの画面上の上矢印をタップして決めていきます。

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アームが上げたい高さになったら「ウェイポイント」と呼ばれる切り返しを設定します。次に下矢印をタップしてアームを下げ、下げたい高さになったら再度「ウェイポイント」を設定します。

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次に「プログラムの再生」ボタンをタップします。

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すると、アームが指定した高さで上下に連続して動きました。
こちらはティーチペンダントを使ったごく初歩的なプログラミング例ですが、ロボットアームを手で動かし、位置を決める「ダイレクトティーチ」を行うこともできるとのこと。「ユーザーは、ロボットを置くスペースと、ロボットに置き換える作業を決めるだけで、すぐに導入することができます」(小澤氏)。
近くで見るロボットは丸みがあって、かわいい形です。「親しみやすいデザインは、エンドユーザーの心の中の壁を取り払ってもらうための工夫です。親しみやすさ、わかりやすさを追求することで、導入のハードルが低くなるよう工夫しています」(小澤氏)。

軽量・省スペースで置き場所の制約が少ない

e-Seriesの中で一番小さいUR3eは、重さが11.2kgと軽く配置しやすいという特長があります。全てのジョイントは±360°回転し、先端のジョイントは無限回転できるため、省スペースで高精度な作業が可能です。

URロボットは、オリックス・レンテック経由でレンタルでの利用も可能です。「購入となると意思決定するのもハードルが高くなりますが、レンタルなら手軽に使えます。レンタルで検証してそのまま買い取っていただくことも可能です」(山根氏)。

URロボットの自前の導入を支援するURアカデミー

「ロボットを導入したいが、知識や経験がないのでできるかどうか不安」という声に応え、同社では「URアカデミー」でトレーニングを実施しています。URアカデミーは無料のeラーニングと有料の対面またはバーチャルのトレーニングの2本立てになっています。

eラーニングでは、「基礎」「応用」「上級」の3コースが用意されています。eラーニングというと教科書をデジタル化したものを思い浮かべますが、URアカデミーのeラーニングではさきほどプログラミングのデモンストレーションで見せていただいたタブレットの画面がブラウザ上に現れ、その画面を操作するとプログラミングができるようになっています。「実践的な内容になっており、eラーニングの受講がロボットを導入するきっかけとなるケースもあります」(小澤氏)。

さらにワンランク上の技術をマスターしたい方向けに対面トレーニングも用意されています。同社の中にあるトレーニングセンターでは実際にロボットを動かしながら複雑な制御を学ぶことができます。

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日本支社内にあるURアカデミートレーニングセンター

対面トレーニングは少人数制です。「一般的にこのようなトレーニングでは4~5人の受講者が1台のロボットを操作しながら学ぶことが多いのですが、URアカデミーのトレーニングはロボット1台につき最大でも2人と少人数で行われるためより実践的です」(小澤氏)。

トレーニングセンターは全国9か所にあります。対面だけではなく、ユーザーの拠点とトレーニングセンターを繋いで、バーチャルトレーニングを実施することも可能です。

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日本支社内にあるURアカデミートレーニングセンターでは、実践的な内容を分かりやすく教えている

URロボット事例:トヨタ自動車北海道株式会社

URロボットの活用事例として、北海道苫小牧市でトヨタ車向けトランスミッションやアクスルなどの部品を製造するトヨタ自動車北海道株式会社の事例を紹介していただきました。

トヨタ自動車北海道は、デフピニオンを加工機に投入する工程において、串刺しにしたデフピニオンを持ち上げ搬送機にセットする作業に課題を抱えていました。ワークをセットすると自重で加工機に流れますが、付着した油や異物でワークがうまく流れないケースがあったのです。またワークの形状が変わると、セットする設備を変更する必要があり、都度費用や時間を要していたので、この一連の工程を改善したいと考えていました。

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協働ロボット導入前の作業の様子

かねてからトヨタ自動車北海道では「モノづくり体質の強化」というテーマを掲げ、自前で工程改善を行うことを模索していました。トヨタ自動車北海道に出入りする代理店より協働ロボットを紹介され、またロボット関連の展示会でも協働ロボットが普及していることを実感し、初めてURロボットの導入を検討することになりました。

カメラで撮影した映像でデフピニオンを認識する方法をとると、時間がかかりサイクルタイムの制限に収まらなくなるという問題があったため、URロボットに内蔵されているフォーストルクセンサー(F/Tセンサー)を活用。ロボットのハンドがデフピニオンに触れた時点で、アタッチメントでつかみ持ち上げる手法を考案しました。 ロボットの導入により、ワークがうまく流れないという異常が少なくなり、工程稼働率は98%に向上しました。

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デフピニオンを串から抜く作業

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串から抜いたデフピニオンを搬送機に乗せる作業

また組み付けラインでも協働ロボットを使用しています。

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組み付けラインでは、ロボットが社員と並んで作業をしている

「組み付けラインでは、従来人が作業していたスペースにロボットを設置しています。ロボットに万が一不具合が発生した場合でも、すぐに人がロボットに代わり作業できる仕組みです」(山根氏)。

URロボットの使いやすさはそのままに、1から設計し直した新製品 UR20

協働ロボットはもともと人が行う単純・反復作業からの置換を主目的に開発されたため、これまでは人が楽に持ち運びができる重さのワークを扱うUR3e(可搬重量3kg)~UR5e(可搬重量5kg)が主流でした。「協働ロボットが人の作業の置き換えニーズ中心であることは現在も変わっていません。ただ最近は重労働を効率化したいというニーズも広がってきました。」と山根氏は語ります。

そうしたニーズに応えて誕生したのがUR20です。
https://www.youtube.com/watch?v=jdedvpNPg2g
UR20は、1750mmのリーチと20kgの可搬重量があり、従来製品と比較してより重いものをより遠くまで運ぶことができます。「重い部品のパレタイジングやマシンテンディングなど、重労働が可能になりました」(山根氏)。

UR20はe-Seriesの拡張ではなく、一から設計し直して開発された製品です。その結果、従来製品と比較してジョイントトルクが約25%、ジョイント速度は65%も向上しました。

UR20の予約受付開始は2022年第4四半期後半、出荷開始は2023年第2四半期の予定です。

協働ロボットで日本の生産性の課題を解決する

URは2020年11月からオンライン展示会を開催しています。展示会にはUR+製品の開発メーカーやSIerが参加。来場者はURロボットの活用事例動画を視聴したり、ウェビナーに参加したりすることができます。

新型コロナウイルス感染症拡大により展示会が次々と中止になった2020年、苦肉の策としてオンライン展示会を開催することになりましたが、うまくいくかは半信半疑だったそうです。「当初はユーザー企業がパソコンを使ってオンライン展示会に来場されることが想像できませんでした。しかしふたを開けてみると1000名以上の方々にご来場いただき、新たな情報発信施策としての可能性を感じました」(江下氏)。

リアルの展示会が再開してからは開催回数を減らしましたが、今年も9月に開催予定です。「これまで展示会への来場が難しかった遠方の企業の方々にも、ぜひオンライン展にご来場いただき、URロボットのさまざまな活用事例をご覧いただきたいと思います」(江下氏)。

日本の製造業は、熟練職人の高齢化と人手不足の問題に直面しています。「協働ロボットは日本企業の抱える課題解決の一助となると思われ、日本での導入件数も右肩上がりに伸長しているものの、世界各国と比較するとまだ少ないのが実情です」と山根氏は指摘します。「大手企業であれば、工場を丸ごと自動化することもできるのかもしれませんが、中小企業では困難です。90%が中小企業である日本には、協働ロボットをさらに活用いただける余地があると考えます」(山根氏)。

簡単に導入でき、柔軟に作業をこなせる協働ロボットの活用は始まったばかり。協働ロボットは、企業の課題を解決し生産性を劇的に向上させる大きな可能性を秘めています。

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