スワームロボティクスという少し変わったロボット技術が存在します。これは、多数のロボットを生物の群れのように制御することで、単体のロボットでは困難なことを実現できるようにする技術です。将来的にはさまざまな用途で活用できると期待されており、技術開発が進められています。
本記事では、スワームロボティクス技術の概要や特性に加えて、将来的な展望についてもご紹介します。
スワームロボティクスは、ロボットの群れを自律分散制御する技術です。スワームロボティクス技術で制御されたロボットは、「スワームロボット」や「群ロボット」と呼ばれています。
スワームロボティクスはもともと、自然界に存在するアリ・ハチ・鳥などの群れのふるまいから着想を得て生まれました。例えば、アリは単体では小さいエサしか運べませんが、群れで行動することで大きなエサであっても巣に持ち帰ることができます。同じように、どれだけ高性能なロボットであっても1台だけで達成できることには限界がありますが、それをロボットの群れで達成しようというのが、スワームロボティクスの基本的な考え方です。
スワームロボティクスでは、群知能によって多数のロボットを制御しようとします。群知能とは、上述したアリのような生物の群れのふるまいを模倣した人工知能です。各ロボットはシンプルなルールに従って行動しますが、それらが多数集まることで、結果的に群れとしての高度なふるまいを行っている状態を目指します。最近では、群知能を自動運転車の制御に応用する研究もなされており、多数のロボットを制御するのに効果的な手法として認知されています。
ロボットが群れとして行動するためには、他のロボットとコミュニケーションを取る手段が必須です。スワームロボティクスではロボット間のコミュニケーション手段として電波や赤外線通信を使うことが多く、お互いの位置情報を教え合ったり、リーダー役のロボットが指示を出したりすることで、最終的な目的を達成しようとします。
一般的に、スワームロボティクスには次のような特性があります。
これらの特性を生かせる用途は数多くあるため、2000年頃からスワームロボティクスの技術開発が進められてきました。しかし、多数のロボットを使ったエンターテインメントとしての実績はあるものの、実用的な用途での実績はまだまだ少ないのが現状です。
上述した通り、スワームロボティクスは比較的新しいロボット技術であり、実用的な用途での実績はまだまだ少ないのが現状です。しかし、今後さらに技術開発が進んでいけば、次のような用途で活躍できるのではないかと期待されています。
これらの用途に共通する特徴は、広範囲にわたって過酷な作業をしなければならないことです。人の手で作業を行うとなると非常に大変ですが、高度に制御されたロボットの群れであれば、容易に達成できると考えられています。
また、ナノマシンやマイクロボットと呼ばれる超小型ロボットをスワームロボティクス技術で制御することで、将来的には医療分野でも活用できると言われています。スワームロボットによる人体内での作業が本当に実現すれば、私たちはより健康に暮らせるようになるかもしれません。
一方で、スワームロボティクス技術が本格的に普及するためにはいくつかの課題も残っています。
スワームロボティクスでは比較的単純なロボットを使うことが多いため、上記のような課題が発生しやすくなっています。また、いくら単純なロボットとはいっても、現在の技術では小型化や低コスト化に限界もあります。これからロボット技術がさらに発展することで、これらの課題が解消されることを期待したいところです。
本記事では、あまり聞きなれないスワームロボティクス技術について解説しました。まだまだ課題はあるものの、大きな可能性のある技術であることは間違いなく、本格的な実用化に期待したいものです。
スワームロボティクス技術で培われたロボット制御技術は、多種多様なロボットが活躍するこれからの社会において役立っていくと考えられます。スワームロボティクス技術のこれからの発展に注目していきましょう。