医療や介護の現場では、ロボットの活用が進みつつあります。少子高齢化に伴うさまざまな課題を抱える日本において、ロボットの活用は不可欠になっていくでしょう。
本記事では、医療や介護の現場で活躍しているロボットをご紹介します。
NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)は、医療・介護ロボットの種類を次の4つに分けています。
「ロボットの将来市場予測」出典:NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)によると、これらのロボットの市場規模は、2020年には約900億円、2025年には約2,000億円、2035年には約5,000億円まで拡大すると予測されています。また、特に自立支援ロボットと介助支援ロボットの需要が急激に拡大すると考えられており、2020年から2035年にかけて市場規模が10倍近くに膨れ上がる見込みです。
医療・介護ロボットの需要が拡大する背景には、日本が抱える少子高齢化の課題があります。今後の日本では、高齢化によって医療・介護のニーズが高まる一方で、少子化によって労働力が不足していきます。また、医療・介護は身体的な負担が大きく、退職を余儀なくされる人も少なくありません。これらの問題を解消する手段として、各種ロボットの活用による自動化・省力化が期待されています。
医療現場では、上述した手術支援や調剤支援の領域でロボットが活用されています。それ以外にも、医療現場で働く人の負担を軽減するためにさまざまなロボットの導入が進んでいる状況です。ここでは、医療現場で活躍するロボットに関する三つのトピックスをご紹介します。
手術支援ロボットとは、医師がモニターの映像を見ながらロボットの手を動かし、手術を行うものを指します。最も有名なのは内視鏡手術支援ロボットの「da Vinci(ダビンチ)」です。全世界での「da Vinci」による手術件数は、2021年末時点で1,000万件を超えており、日本でも多くの病院が活用しています。
手術支援ロボットといえば「da Vinci」というイメージが強いですが、日本のメディカロイド社も「hinotori(ヒノトリ)」というロボットを開発しています。「hinotori」は「da Vinci」に比べて低コスト・省スペースで導入がしやすく、今後の普及が期待できます。
その他にも、手術支援ロボットに関連する技術として、5Gを活用した遠隔手術、医師に触感をフィードバックする技術、AIによるナビゲーション技術などの開発が進められています。
調剤支援ロボットとは、薬品の取り出し・秤量・調合・配分・分包などの作業を自動で行うロボットです。調剤作業をスピーディに行えるため、患者の待ち時間を削減できます。また、最も大きいメリットは、薬品の取り違えによる投薬ミスをなくせることです。
調剤支援ロボットを活用すれば、薬剤師が調剤作業にかけていた時間を大幅に削減できます。今後は、浮いた時間を服薬指導に割り当てるなどして、患者に対するサービス向上に取り組んでいく病院や薬局が増えていくでしょう。
近年の医療現場では、治療に直接関わらない領域に対してサービスロボットの導入が進んでいます。
例えば、病院内での搬送や清掃を自律移動式ロボットで自動化すれば、スタッフの負担を軽減できます。また、ロボットが病院内を巡回して患者の所在検知や検温を行ったり、ナースコールを代替したりする実証研究が行われたこともあります。
このような医療現場でのルーチンワークをロボットに任せていけば、医師や看護師はより患者の治療に専念できるようになるでしょう。
介護の現場でも、ロボットの活用が進んでいます。上述した医療ロボットよりも、各家庭で使われることもある介護ロボットの方が、私たちにとってより身近な存在になるかもしれません。介護現場で活躍するロボットに関する三つのトピックスをご紹介します。
自立支援ロボットは、障害がある人や身体機能が低下している人の自立を支援するロボットです。自立支援型のロボットを活用すれば、要介護者が自分自身の力で日常生活を送れるようになるため、介護者の負担を軽減できるだけでなく、要介護者自身の心理的負担も軽減されます。
例えば、移動支援ロボットは、利用者の動作状況をセンシングすることで、転倒を防止したり、軽快に歩行したりするサポートを行います。従来はカート型のロボットが主流でしたが、最近ではよりコンパクトな装着型ロボットの開発が進められています。
その他にも、家庭内での自立生活を支援するために、床や高いところにある物を取ってくる、ドアやカーテンを開ける、といった動作を行う生活支援ロボットも開発されています。
介護支援ロボットは、介護支援者の介護による身体的・心理的負担を軽減するために利用されるロボットです。介護施設や各家庭に導入されて、移乗や食事、入浴、排泄などを支援してくれます。
特に注目を集めているのが、移乗支援で活用されている装着型ロボットです。装着すれば、パワーアシスト機能によって力がない人でも要介護者を支えることができ、腰などにかかる負担も軽減されます。
他にも、ベッドがそのまま車椅子になる離床アシストロボットなども開発されています。ベッドから車椅子に移動させる必要がなくなり、要介護者が寝たきりになるリスクも軽減できます。
コミュニケーションロボットは、その名の通り人とコミュニケーションをとることを目的にしたロボットです。AIによって要介護者と会話をする、カメラやセンサーによって要介護者の見守りをする、といった機能を備えています。
最近では、単に会話をするだけでなく、体操やクイズなどのメニューを提案するといったように高機能化が進んでいます。まだまだ人の代わりを担うレベルには至っていませんが、ロボットとコミュニケーションをとることで、認知症の予防やストレスの軽減に効果があると期待されています。
これからの日本では、医療・介護の現場の人手不足を解消する手段として、ロボットの活用例は確実に増えていくと考えられます。現時点では、コストや操作性の課題がまだ残っていますが、国の支援やロボット技術の発展によって導入しやすくなっていくでしょう。