ホームロボット狭小空間を遠隔から点検可能に。業界最小クラスのドローン「IBIS」の実力

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狭小空間を遠隔から点検可能に。業界最小クラスのドローン「IBIS」の実力

レンテックインサイト編集部

ロボット Insight 狭小空間を遠隔から点検可能に。業界最小クラスのドローン「IBIS」の実力

人々の生活と産業を支えるインフラには、人間では進入が困難な場所が無数にあります。こうした場所の点検や測量のニーズに応えるドローン「IBIS」を開発したのが株式会社Liberaware(リベラウェア)です。一般的なドローンにはないIBISの特色や、サービスの独自性について代表取締役CEO閔 弘圭氏に伺いました。

大空を捨て、狭小空間に特化した国産ドローンが誕生

株式会社Liberawareは、狭小空間に特化したドローンを開発しています。代表取締役CEOである閔氏は、もともと千葉大学の研究員として、国家プロジェクトである革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)や戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)に携わり、インフラ点検をドローンで行う先進的な研究開発を行ってきました。「GPSデータが取得できない環境で自律飛行できるドローンを研究開発する中で、産業分野の点検市場について知るようになりました」(閔氏)。

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株式会社Liberaware 代表取締役CEO閔 弘圭氏

こうした経験を基に、今までにないドローンを開発しようとスピンアウトして株式会社Liberawareを設立したのが、2016年のこと。それまで扱っていたのは直径1mほどの大型ドローンでしたが、大きな機体を狭小空間で飛行させることはできません。そこで人が進入しにくい狭小空間で安定して飛行するドローンを開発できないかと考えました。「大型のドローンはそれ自体のプロペラから発生する風圧が強く、室内では使えません。機体を小さくして技術的な課題をクリアすれば、産業用の点検サービスとしてビジネスになると考えて開発をスタートしました」(閔氏)。

こうして大空を飛行する他のドローン製品とは一線を画した開発が始まりました。

人の進入が困難な空間を安定して飛行する点検・測量ドローン「IBIS」

およそ3年の開発期間を経て誕生したのが「IBIS(アイビス)」です。「暗い・狭い・汚い・高い場所専用ドローン」のコンセプトのもと、大きさ191×179×54mm、重さ185gという小型軽量化に成功しました。φ500mmの狭小空間を飛行することができ、筐体が軽いために万一墜落しても施設に損傷を与える可能性が極めて低くなります。

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煙突やダクト、ボイラーのような場所を安定して飛行するのにクリアしなければならない課題は、小型軽量化だけではありません。IBISが一般のドローンとどのような違いがあるのか解説していただきました。

目視外飛行が可能

一般的なドローンは、パイロットがドローンを目視で操縦するのが基本です。一方で煙突のような人が進入しにくい場所では、ドローンだけで飛行し、人間は安全な場所にいて操縦する目視外飛行が求められます。そのためIBISの場合はパイロットがドローンから伝送される映像をモニターで見ながら操縦する形をとります。同社のショールームでデモ飛行を見せていただきました。パイロットの方がモニターを見ながら狭い天井裏にドローンを進入させ、複雑に入り組んだケーブルや配管を巧みに避けながら操縦していました。

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障害物があっても安定した通信を実現

閉鎖空間では、操縦機とドローンが通信できなくなる可能性があります。そのため、操縦機と有線ケーブルで接続されたエクステンションアンテナを閉鎖空間に入れてドローンと通信する方法をとります。

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暗所でも鮮明な映像撮影

空を飛行するドローンのカメラは美しい映像をとるために太陽光で撮影することを前提としているため、暗い場所では映像が黒くつぶれてしまいます。IBISはソニー製品である「STARVIS」のセンサーを搭載した超高感度カメラとLEDライトによって、暗い場所でもノイズの少ない鮮明な映像を撮影することができます。

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粉塵環境での飛行が可能

点検する場所は粉塵環境であることが多く、一般的なドローンではコイルがむき出しになっているために、コイルの中に粉塵が入り込んで飛行できなくなってしまいます。そのためIBISは、日本電産社と共同開発した密閉型の防塵モーターを搭載しています。

少ない風量で飛行可能に

狭い空間は、ドローンのプロペラの風圧で飛行が妨げられるという問題があります。そこで同社では少ない風量で浮くことができるプロペラを独自に開発しました。

国産ドローンという安心感も見逃せません。ドローンの開発については、中国が突出しており、日本のメーカーは少ないのが実情です。「海外のメーカーのドローンを利用したことにより情報が流出するという問題が過去に発生しています。IBISは純正の千葉市産となるため、安心して使っていただけます」(閔氏)。

点検ニーズに応えるソリューション「点検サービスプラン」

極小空間で安定して飛行するためには、高い操縦技術が必要です。そこで同社では公認パイロットが現地に行き、IBISを操縦して点検箇所の飛行撮影を行うサービス「点検サービスプラン」を提供しています。

「点検のニーズが高いトップ3は、煙突、配管(ダクト)、ボイラーです」と閔氏が解説するように、人の進入が困難な設備の点検が可能です。

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点検サービスプランを活用すると、点検作業の「効率化」「安全性向上」という二つのメリットがあります。例えば煙突の内部やタンクの内部を点検するのに、足場を組むかゴンドラを使用する必要があります。IBISで点検できればこうした点検のための設備が不要になり、大幅なコストカットが期待できます。

また石炭火力発電所のボイラーでは、ボイラー内での燃焼によって石灰化したクリンカが落下する危険があります。IBISでは操縦者は炉の外側に位置しながらドローンだけが炉の中に進入して安定して飛行できるため、人が危険にさらされることなく点検できます。「そのほかにも天井裏やエレベーター昇降路の点検、原料倉庫で原料の体積測定といった実績があります」(閔氏)。

サービス提供までの手順としては、依頼内容や点検場所をヒアリングし、IBISの飛行が可能か、くまなく飛行するのにどのくらいの期間がかかるかを判断して、見積もりするという流れです。受注が決定したらパイロットが現場へ同行し、飛行計画に沿ってIBISでの飛行・撮影を行います。

「競合のサービスはほぼありません」と閔氏が語る通り、狭小空間に特化したIBISのハードウエアと、フライトコントローラーやセンシングなどの制御技術、そして飛行管理システムや撮影した映像の管理・編集システムなどのソフトウエアをワンストップで提供する独自性の高いサービスとなっています。

画像処理サービスで業界のDXを支援

さらに同社では「画像処理サービス」を提供しています。通常の点検サービスプランではドローンが撮影した動画が納品されます。画像処理サービスでは、動画をもとに点群化し、3Dデータを生成します。「定期的にデータ化し点群データを重ね合わせることで、経年での変形量を可視化できます。補修時期の見極めなど将来予測に活用できると期待されています」(閔氏)。

最近ではこのように物理空間を3D化して、仮想空間に再現する「デジタルツイン」が注目されています。デジタル上でシミュレーション、分析、最適化を行い、物理空間へフィードバックすることが可能になり、さまざまな付加価値の創出が実現します。

また、煙突など立体的な点検場所を平面化したオルソ画像で提供することも可能です。「3Dデータは専用ソフトウエアを用意しなければなりません。オルソ画像はJPEGの画像ファイルのため、手軽に扱えて、全体がひと目でわかると好評です」(閔氏)。

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このように人間が行う作業の単純な置き換えだけでなく、取得したデータを高度に処理することでDXの取り組みにつながると同社では提案しています。「こうしたサービスを通じて、さまざまな産業でのDXに貢献できればと考えています」(閔氏)。

純国産ドローンで世界を目指す

「会社設立当初は、ドローンで点検を行うという考えが浸透していませんでしたが、今ではドローン活用の幅を広げる企業も増えてきました」と閔氏は語ります。同社は駅の天井裏の点検や、図書館の蔵書点検自動化など、さまざまな実証実験にも参画してきました。「こうした取り組みをしていると、私たちが全く知らないような場所が数多くあるのだとわかります。点検ドローンの潜在的なニーズはまだまだあります」(閔氏)。

将来は海外展開も視野に入れています。「世界のどこへ行ってもインフラはあります。そのため日本にあるニーズは世界にも必ずあると思っています。ハードウエアメーカーはモノを売ってアフターサービスだけ、となりがちですが、当社はサービスプロバイダーとして制御やソフトウエアも含めて提供しています。トータルソリューションを武器に世界に挑戦していきたいと考えています」と閔氏は語ります。

日本のインフラの隅々まで、そして世界へ。IBISの活躍はまだ始まったばかりです。

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