「ロボットフレンドリー」という新しい考え方が経済産業省によって提唱されています。これからの日本がロボット社会を実現するためには、ロボットフレンドリーに基づいた取り組みを進めることが重要です。また、企業が自社の業務へロボットを導入する際にも、この考え方は役立つでしょう。
本記事では、ロボット活用のキーワードであるロボットフレンドリーについて解説します。
ロボットフレンドリーとは、ロボットが働きやすい環境を意識的に整えるという考え方です。2019年に経済産業省が提唱した概念であり、「ロボット実装モデル構築推進タスクフォース」というプロジェクトで推進されています。
ロボットフレンドリーが提唱された理由は、社会でのロボット活用が思うように進んでいないためです。人手不足などのさまざまな課題を解消する手段としてロボットには高い期待が寄せられていますが、ロボットが本格的に活躍している分野はいまだに限られています。
例えば、製造業はロボットの導入が比較的進んでいる分野の一つです。自動車や電化製品の工場などではロボットを活用した自動生産ラインが実現しており、人手不足の解消や生産性向上に貢献しています。
しかし、それ以外の分野では、ロボットの導入は思うように進んでいません。その主な理由は、導入する環境に合わせてロボットをカスタマイズしなければならず、導入コストや運用コストが高くなってしまうからだと言われています。この「環境に合わせてロボットをカスタマイズする」という意識を脱却するために役立つのが、「ロボットが働きやすい環境を整える」ロボットフレンドリーの考え方です。
ロボットフレンドリーな環境を整えるためには、実際にどのような取り組みをしなければならないのでしょうか。ここでは、経済産業省が主導するプロジェクトなどを参考に、施設管理、小売、食品製造の3分野に分けてロボットフレンドリーの具体例をご紹介します。
ロボットが働きやすい環境の具体的なイメージができれば、ロボットを導入する際の障害になり得るものが見えてくるでしょう。施設管理・小売・食品製造以外の分野にとっても参考になる情報が数多く含まれています。
施設管理の分野では、人手不足の解消や非接触サービスの提供を目的としたサービスロボットの活用が期待されています。搬送・清掃・警備といった機能を持つサービスロボットの導入が進んでいますが、ここで課題になるのがロボットの円滑な移動です。
例えば、ロボットが苦手とする段差がフロア内にあれば、ロボットはその先に移動できなくなってしまいます。また、床に障害物が多ければロボットはそれらを避けて移動しなければならず、業務効率が下がってしまうでしょう。
施設管理の分野では、ロボットが円滑に移動できる工夫をすることで、ロボットフレンドリーな環境が整います。具体的には、次のような取り組みです。
小売の分野では、ロボット活用による決済や商品の陳列、在庫管理といった業務の自動化が期待されています。
コンビニやスーパーといった店舗内でロボットを活用するためには、施設管理と同様にロボットが移動しやすい環境を整えることが重要です。例えば、ロボットが動きやすいように商品棚を整理整頓したり、棚と棚の間隔を十分に開けておいたりする工夫が求められます。
また、小売の分野でロボットを十分に活用するには、ロボットが膨大な数の商品を正確かつ迅速に識別できる仕組みを構築しなければなりません。経済産業省のプロジェクトでは、商品画像のマスタデータを整備して小売業界全体で共有しておき、ロボットが画像認識技術やAIによって商品を識別するという方向性が示されました。
食品製造は、製造業の中ではロボット導入が進んでいない分野です。例えば、惣菜や弁当の盛り付けは自動化がしにくく、そのほとんどは人の手で行われています。盛り付け作業がロボットに向かない理由としては、柔らかく不定形な食品をつかみにくいことや、さまざまな種類のおかずを素早く見栄えよく盛り付けるのが困難であることが挙げられます。ロボットで自動化するのが不可能というわけではありませが、高性能なロボットが必要になったり、大幅なカスタマイズをしなければならなかったりと、コストが高くなりがちです。
こういった食品製造の分野をロボットフレンドリーにするためには、既存の作業をロボットでもできる作業に置き換えるという考え方が極めて重要です。例えば、複数のおかずを一つの容器に盛り付けるのではなく、おかずごとの個包装にしてしまえば、見栄えを気にせずにロボットで素早く作業できるようになります。
現在の社会にはロボットフレンドリーの考え方が浸透しておらず、「環境に合わせてロボットをカスタマイズする」という意識がまだまだ強い状況です。カスタマイズ自体が悪いというわけではありませんが、個別に最適化されたロボットは量産がしにくく高コスト化してしまうため、社会全体でのロボット導入が遅れる原因の一つになっています。
しかし、ロボットフレンドリーな環境が整えば、不要かもしれないカスタマイズをせずにロボットを低コストで導入できるようになります。ロボットメーカーも単一の仕様で量産しやすくなるため、ロボットの市場規模自体も拡大していくでしょう。
ロボットフレンドリーに取り組むことは人にとってもメリットがあります。例えば、ロボットが移動しやすい段差や障害物の少ない環境は、人にとっても移動しやすい環境です。また、ロボットを活用した便利なサービスが次々に生まれれば、私たちの暮らしはさらに豊かになっていきます。
ロボットフレンドリーは「ヒューマンフレンドリー」にもつながると考え、取り組みを進めていくとよいでしょう。
ロボットを本格的に活用するためには、ロボットの性能アップを待つだけでなく、ロボットが働きやすい環境を整えていくロボットフレンドリーの考え方が重要になります。ロボットフレンドリーな社会が実現すれば、ロボットは私たちにとってより身近な存在になり、豊かな暮らしを支えてくれるでしょう。
ロボットが働きにくい環境やロボットに向かない作業は、今の社会の至るところに存在しています。ロボットフレンドリーの考え方に則って、職場環境や作業内容を見直してみてはいかがでしょうか。