立ち仕事や積み下ろしなどで重い荷物を持つ場面が多い工場スタッフや運送スタッフで、腰痛持ちの方は珍しくありません。厚生労働省の『業務上疾病発生状況等調査(令和2年)』によると、令和2年に製造業で記録された業務上疾病(業務を原因とする疾病のこと)1,853件のうち761件(約41%)が腰痛(災害性腰痛)でした。
そこで知っておきたいテクノロジーが、アシストスーツ・パワードスーツです。その原理やメリット、導入事例、選び方など、気になるポイントを本記事でまとめて押さえておきましょう。
そもそもアシストスーツ・パワードスーツはどのようにして腰痛のリスクを軽減してくれるのでしょうか。
器具に注入した圧縮空気を駆動源とするもの、充電式のモーターを利用したものなど種類はメーカーによってさまざまですが、いずれも装着することで「もうひとつの筋肉や骨格」のような効果を発揮してくれます。
その名称やSF的な造形から「人間のパワーを数十倍に増強し、重機並みの力を与えてくれる」というイメージを持たれている方もいますが、それは外骨格型の一部のもの。
どちらかといえば、これまで悩まされてきた重いものを持ったときの負担を軽減してくれたり、中腰など辛い姿勢での作業を楽にしてくれたりするものが、現在農業、介護、製造業などの現場で活用されているアシストスーツ・パワードスーツの中でもポピュラーです。
日本ロボット学会正会員の中村太郎氏らによって『日本ロボット学会誌 Vol.35』(2017)に掲載された論文『腰部の形状を考慮した空気圧アクチュエータによる内骨格型パワーアシストスーツの開発および補助効果検証』では、身長1.76M、体重70kg の成人男性が15kgの物体を持ち上げる動作におけるアシストスーツの効果検証実験の結果が報告されています。同実験において、物体を持ち上げる動作時には非着用時筋電位は平均59.2%でしたが、着用時には39.9%に減少。また、物体を持ち歩く動作時には非着用時筋電位は33.6%、着用時は28.3%でした。
程度の差こそあるものの、アシストスーツの装着によって確実に補助効果は発生しているようです。
アシストスーツが実際にモノづくりの現場でどのように使われているのか、イメージを具体的にできるよう、二つの特徴的な導入事例をご紹介します。
三つの工場で日々数百単位の製品を出荷する製薬企業A社では、原材料の入荷、完成品の出荷の際にどうしても人手を介す必要があり、そこで従業員の身体に負担が発生する状況となっていました。具体的に災害性腰痛の報告はなかったものの、よりよい職場環境をとモーター駆動のアシストスーツを導入し、今では「ない状態が考えられない」という声も現場から上がっているといいます。
先んじてテクノロジーを導入することで職場のあり方を一新したケースです。
「人工筋肉」と評されることも多い空気圧駆動型のアシストスーツも各現場で活躍しています。例えばグローバル化学企業B社では、ファクトリーでの積み下ろしだけでなく、研究拠点での製品や材料の搬送にアシストスーツを活用しているとのこと。作業中の負担感が軽減されることで退勤後の過ごし方も充実し、結果として職場への定着率を高めることにもつながっているようです。
健康被害だけでなく、心理的な負担の軽減という面でもアシストスーツは効果を発揮してくれます。
アシストスーツはさまざまなベンダーから販売されており、どれを選んだらいいか分からないという方も多いでしょう。
最終的にどの製品を選ぶべきかは、それぞれの企業の事情によりますが、以下のポイントは考慮したいところです。
一般にアシストスーツは空気圧式の方が電動式よりも安価です。また、充電の必要性がないというメリットも空気圧式には存在します。しかし、電動式には腰以外の部位もアシストしてくれる、センサーで必要なときだけアシスト力が発揮されるなど空気圧式にはない機能が搭載可能です。
また、厚みやアシストスーツ自体の重量にも違いがあり、特に狭く動きづらい場所での作業が発生する場合にはどれだけの厚み・重さの製品が許容されるかも考慮に入れるべきでしょう。
どの製品を選ぶべきか判断しかねるという場合は、一度レンタルしてみるのも一つの手です。オリックス・レンテックのロボットレンタルサービス「RoboRen」では、アシストスーツもレンタルのラインアップに加えられています。
少子高齢化を背景にした人員不足を解消するためにも、これからの企業は女性や高齢者の方々の活躍も促進していくべきだと言われています。その点でもアシストスーツ・パワードスーツは強い味方となってくれるでしょう。国内市場規模は堅調に拡大しており、株式会社日本能率協会総合研究所は2023年度には
約8,000台の販売台数に到達するという予測を打ち立てています。
従業員の健康と負担軽減の一助として、今後も注目していきましょう。