コロナ禍で人の接触を減らすことへの需要が高まったことや、かねてより続く人手不足を背景に、AGV(無人搬送車)への注目が高まっています。また、次世代AGVと称されるAMR(自律走行搬送ロボット)への移行も進められており、今後も普及していくことが予想されます。
本記事でAGVとAMRの違いなど今知っておくべき基本を押さえ、これからの活用方法について考えていきましょう。
AGV(Automatic Guides Vehicle=無人搬送車)の市場規模は2020年時点で、全世界で23億ドル程度、日本国内で200億円規模と見込まれています。コロナ禍で設備投資は抑えられる傾向にあるものの、長期的には右肩上がりでさらに市場が拡大することはほぼ間違いないでしょう。
実際、一般社団法人日本産業車両協会が発表した無人搬送車システム納入実績によると2008年のリーマンショックとそれを主因とする金融危機により無人搬送車納入台数は減少しましたが、10年間でピークを更新する水準まで復活しました。
特に今後の成長を支えると考えられるのが、AMR(Automatic Mobile Robot=自律走行搬送ロボット)です。これまでの磁気テープや電磁誘導ケーブル等によるガイド式のAGVから、センサーにより臨機応変に動線を選択し、人と協働できる自律移動式のAMRへ移行することで以下のようなメリットが得られると期待されています。
ただし、適切な工場内環境の構築やリスクアセスメントの策定など、導入の工夫はAMRであっても欠かせません。その点を怠ればセキュリティの侵害や事故につながる恐れもあります。
とはいえ、AIやIoTと掛け合わせることでさらなる可能性をこれまでよりも低コストで得られるかもしれないというのは、AMRの大きな魅力であり、今後も普及は進んでいくでしょう。
AGV、AMRを活用するイメージをもう少し具体的に思い描くため、実際の事例を見てみましょう。
24時間稼働する工場の運営において無人搬送車は非常に頼りになる味方です。前工程、中工程、完成工程を経て金属加工品の製造を行うA社では、各ラインの半製品、工具の供給をAGVに行わせ、そのAGVの稼働状況はIoTセンシングにより、スマホなどでいつでもどこからでも確認できる体制を整備。結果として、全体で10名以下、常に2~3名の交代制という少人数で工場を管理する仕組みを構築しています。AGVに搬送を任せることで女性や高齢者でも働ける職場環境が整ったこともメリットの一つになります。
コロナ禍によりなるべく人手を介さず、製品や工具の積み込みから搬送、積み下ろしまでを完結させたいというニーズは高まっています。そんな中で、アーム型など、協働ロボットとAGVを連携させてピッキングを自動化する工場も登場してきているようです。ロボットと人間ではサイズや動きに違いがあり、工場内装置の配置や動線の設計を見直す手順には必ずと言っていいほど苦労が発生します。とはいえ、人手を完全に排除できれば密を回避できるだけでなく、大幅な生産性向上も望めます。
AGVやAMRにAIを組み込むことで広がる可能性には大きな期待が寄せられています。例えば、これまで難しかった積まれ方の異なる製品のピッキングもAIと画像認識をかけ合わせれば正確に行えるようになってきています。また、人やフォークリフトといった障害物をセンシングすると、停止するだけでなく適度な位置まで後退し、適切な動線を新たに探る協働型AGV、AMRについても実用化が進んでいます。カギとなるのはAGVを個別あるいは数台まとめて制御するAGVS(Automatic Guides Vehicle System)です。
AGV導入や活用に際してよく浮かぶ疑問に、簡潔にわかりやすく回答します。
GTP(Goods To Person)は、AGVの一種でいわゆる「自動棚搬送型ロボット」のことを指します。商品を棚ごと運び、作業者の元へまとめて届けます。どちらかと言えば数十人~など規模の大きめの工場において、人間あるいはほかのAGVと協働させる目的で使われることが多いです。
工場内の安全管理においてAGVの衝突事故がリスクとならないか、またAGVの停止やエラーによる渋滞やその復旧作業によって、かえって手間がかからないかなど心配になっている方も少なくないでしょう。
AGVの稼働に合わせて工場内の動線を設計することが予防としては最も効果的です。最初から最適なルートが設計できるとは限らないため、徐々に状況を見て改善していくことになります。その際、IoTによるモニタリングを実施することは、即座の復旧や正確なルート策定につながります。
AGVの現在地、そしてこれからの導入にあたって知っておきたい知識をご紹介しました。センシング技術の発展によりAGVのAMR化が進み、活用が当たり前のものとなるであろう未来が予測されています。導入を成功につなげるには事前のオペレーションの設計や環境構築が考えている以上に重要となります。メーカーや専門家への相談も含め、計画に本気で取り組みましょう。