産業用ロボットにとって、ロボットハンドは汎用性や動作速度・精度を大きく左右する重要な要素です。ロボットハンドにはさまざまな種類があり、作業内容に合わせて最適なものが選定されています。
この記事では、ロボットハンドの種類や特徴に加えて、今後の技術動向についても紹介します。
ロボットハンドはロボットアームの先端に取り付けられており、人間の手の役割を担う部位です。ものを掴んだり離したりする機能が必要とされるほか、動作の素早さや、掴んだものを壊さない繊細さも求められます。また、人間では不可能な回す動きや、握る動きなどを実現できるロボットハンドもあり、高速で動いて疲れることもないことから人間以上の生産性を発揮することが多いです。
一般的に、ロボットハンドは対象物や作業内容に合った専用のものを準備する必要があります。適切なロボットハンドを使わないと生産性が下がったり、そもそも作業ができない可能性があるためです。そのように特定の用途に特化したものを専用ハンドと呼びますが、同じロボットを別の用途で使用する場合はツールチェンジを行って別の専用ハンドに付け替える作業が必要になります。
しかし、すべてのロボットハンドが専用ハンドに該当するわけではありません。複数の対象物や作業内容に対応できる汎用ハンドと呼ばれるものも存在します。汎用ハンドには高い技術力が求められますが、都度ツールチェンジをしなくてよいのが大きなメリットです。
ロボットハンドにはさまざまな種類がありますが、大きく分けると把持ハンドと吸着ハンドの二つあります。
把持ハンドは人間の手を模したロボットハンドで、指や爪によって対象物を掴む構造です。2本指や3本指のロボットハンドが多いですが、用途によっては4本指以上のものも使用されています。基本的に指や爪が多いほど対象物を掴んだ時に安定しやすくなりますが、構造が複雑になるので高価になる傾向にあります。
把持ハンドは後述する吸着ハンドに比べると動き自体は遅いケースが多いです。しかし、人間の手のように繊細な動きができるので、組み立て作業などに適しています。
吸着ハンドは、真空吸着や磁力によって対象物をロボットハンドに吸着させる構造です。磁力を用いる場合は対象物が磁性を持つ金属に限られるので、真空吸着を使うロボットハンドの方が普及しています。
吸着ハンドは把持ハンドのように繊細な動きはできませんが、非常に素早く動きます。そのため、ライン上での仕分け業務のように対象物を移動させる作業に適したロボットハンドです。
ロボットハンドを選定する際は、どのような対象物を扱うか、どのような作業をさせるかといった点を十分に考慮しなければなりません。事前に考慮しておきたいポイントを簡単にまとめていますので、ぜひ参考にしていただきたいです。
昨今の製造業には、大量生産と同等のコスト・納期で個々の顧客ニーズに合わせたカスタム製品を生産する「マスカスタマイゼーション」への対応が求められています。それに伴って、ロボットハンドではこれまで以上に汎用性が追求されており、ロボットハンドを付け替えることなく多種多様な製品に対応できる技術の開発が進んでいます。
例えば、人と同じ5本指を持ち、紙をつまむといった繊細な動きができるロボットハンドが開発されています。5Gを活用した遠隔操作技術の観点から考えても、5本指のロボットハンドであれば人が操作しやすくなるので効果的です。
ほかにも、対象物に合わせて指先の硬さを磁力で自在に変化させる技術もあります。食品工場で卵のような壊れやすいものを搬送する事例があり、ロボットハンドの汎用性を高める技術として注目されています。
将来的には、ロボットハンドが人のような触覚を持つようになるかもしれません。対象物の硬さや温度を瞬時に認識するロボットハンドが実現すれば、これまで不可能だった難易度の高い作業をロボットが担ってくれるでしょう。実際にアメリカの大学では、ロボットに触覚を持たせることを目的とした研究が進められています。
また、ロボットハンドに対象物を掴む以外の機能を組み込んでいるケースもあります。例えば、ロボットハンドにカメラを搭載して画像認識の機能を追加し、乱雑に積まれた対象物を瞬時に認識してピッキングするというものです。従来はカメラを設置するための設備を別に用意しなければならず、ロボットの作業スペースを余分に取らなければならないという課題がありました。しかし、カメラの小型化・軽量化によってロボットハンドに直接取り付けられるようになった結果、ロボットが作業するための最小限のスペースを確保するだけでよくなります。
このように、ロボットハンドに関するさまざまな技術開発が行われています。製造業だけでなくあらゆる場面でロボットが活躍する社会の実現のためにも、今後の実用化に期待したいところです。
ロボットの性能を考える上で、ロボットハンドは重要なポイントになります。ロボットを導入する際には、ロボットの知能面だけでなくロボットハンドにも注目することが重要だといえるでしょう。さまざまな種類があるロボットハンドの特徴を正しく理解して、自社の製品や作業内容に合った最適なものを選定してください。