近年、製造業における物流業務の自動化を実現するロボットとして、AGV(無人搬送車)が現場で活躍しています。AGV自体は昔からある機械でしたが、デジタル技術の発展によって利便性が増しており、さらなる進化に期待が集まっています。
本記事では、AGVが自動走行する仕組みの変遷や最新動向、活用例などをご紹介しています。物流業務に課題を持つ製造業の方はぜひ参考になさってください。
AGVは、工場や倉庫といった限られたエリアで使用され、人が操作しなくても自動で走行可能な搬送車のことです。
AGV自体は決して最新機器というわけではなく、1980年代から工場や倉庫で活用されていました。しかし、当時のAGVはあらかじめ決められたルートに沿って動くだけで自由度が低く、用途が制限されていました。
しかし、近年ではデジタル技術が発展したことによって、AGVは進化しています。屋内だけでなく屋外での使用が可能になったり、不定型なルートを自律走行できるようになったりと、利便性が格段に高くなりました。
各種メディアで、Amazonの大規模な物流倉庫内で縦横無尽にAGVが動き回っている様子が大々的に取り上げられた影響もあり、2019年頃からAGVの導入が世界的なトレンドになっています。
AGVはさまざまな誘導方式を経て自動走行する機能を進化させてきました。過去から現在に至るまでの変遷をみてみましょう。
昔のAGVは、電磁誘導式や磁気誘導式が中心でした。どちらも床に設置した金属線や磁気テープを検出してそれに沿って走行する仕組みであり、コストパフォーマンスが高く、最も普及している方式だといえます。ただし、ルートを変更するためには誘導体の再工事が必要であり、自由度が低いのが課題でした。
次第に、画像認識方式やレーザー誘導方式などの新しい技術が開発され、AGVの利便性は徐々に高まっていきます。
画像認識方式は、床や天井に設置した二次元コードなどの記号を読み取ることでAGVが自身の位置を把握し、高精度な位置制御を実現します。また、レーザー誘導方式は、壁や床に取り付けた反射板からのレーザーの反射を利用して自己位置を推定し、自律走行を可能にする方式です。これらの方式では誘導体の設置がまだ必要ではあるものの、ルート変更が格段にしやすくなり、活用シーンが広がりました。
そして近年では、SLAM誘導方式というカメラやセンサーを併用した新たな技術が導入されています。SLAM誘導方式の最大の特徴は、これまで必要だった磁気テープや反射板のような誘導体が不要なことです。カメラやセンサーで取得した情報を基にして周辺の地図情報を作成し、自己位置を推定しながら走行ルートを自動で生成する機能を持っています。また、障害物を検知して自動で回避するため、有人環境での使用も可能になりました。
SLAM誘導方式は、誘導体が不要なことからガイドレスAGVと呼ばれたり、AMR(自律走行搬送ロボット)と呼ばれるなど、AGVが進化した存在として区別されることがあります。
AGVは今もなお進化しており、AIを搭載することで機能向上が図られています。例えば、周辺の人や他のAGVを検知すると停止するだけでなく、道を譲るために移動するといったように高度な協調性を備えたAGVも報告されています。
AGVが最も多く活躍しているのは、物流倉庫です。主に倉庫内でのピッキング業務を自動化することによって、作業者の負担やヒューマンエラーの削減を実現しています。日本全体で人手不足が深刻化しつつある昨今の状況を踏まえると、多くの人手を必要とする物流倉庫の省人化を目指すことは効果的だといえます。
また、AGVを生産ライン上に配備する事例もあります。必要な部品や工具をAGVで各工程に供給したり、製品の工程間搬送をAGVで自動化したりすることで、生産性を高めているのです。
さらに、先進的な取り組みを進めている企業では、コンベアを廃止してAGVを多数導入し、柔軟な生産ラインを構築する実証実験が行われました。製造業は、個々の顧客ニーズに対応したカスタム製品を大量生産の生産性で実現するマスカスタマイゼーションの時代に移行しつつあります。そのような時代では、工程の組み合わせを自由に組み替えられる生産ラインが求められており、AGVによる自律的な工程間搬送が解決策として注目されているのです。
製造業にとって、物流業務は本質的には価値を産まないものであり、生産性向上のためにはできる限り自動化する必要があります。AGVは物流業務の自動化に役立つのはもちろん、生産ラインの在り方すら変える可能性も持っており、あらゆる場面で活用されていくでしょう。
AGVの開発や実証実験は、各メーカーが活発に進めています。自社の生産性向上に役立てるためにも、今後の動向に注目していただきたいです。