ホームロボット協働ロボットで活用されるAIの進化

ロボット Insight

協働ロボットで活用されるAIの進化

レンテックインサイト編集部

ロボット Insight 協働ロボットで活用されるAIの進化

安全対策のために柵に囲われて稼働していた一昔前のロボットとは異なり、2021年現在では、人と一緒の空間で稼働できる協働ロボットが製造現場で活躍しています。AIの進化に伴って協働ロボットの用途が広がっており、従来は人の手でしかできなかった作業を協働ロボットに置き換えることで、自動化による生産性向上が実現できるでしょう。

今回は、協働ロボットの概要や現状の課題、AIの進化といった最新動向について紹介していきます。

協働ロボットとは?

協働ロボットは、安全センサーなどを組み込むことで人に対する安全性が確保されており、人と同じ空間で協働して作業ができるロボットです。

協働ロボットが登場する前の産業用ロボットは、大きな力を扱うため人と隔離した状態でしか稼働できませんでした。安全柵で囲んで設置しなければならなかったため、多額の設置費用と広いスペースが必要であり、大規模な工場を持ち多額の設備投資ができる大企業での導入が中心となっていました。

しかし、協働ロボットは安全柵や広いスペースを必要とせず、限られたスペースでも導入できるというメリットがあります。そのため、中小企業でもロボットを導入しやすくなりました。協働ロボットは、組み立て作業や装置からの部品の取り出し、搬送、品質検査といったさまざまな工程で活用されています。

協働ロボットの課題

 協働ロボットによって、大企業、中小企業を問わず製造現場へのロボットの導入が進みましたが、より広範囲に普及するためにはティーチングが課題となっています。

 ティーチングとは、ロボットに動作を教えることです。ロボットは購入して設置するだけでは思い通りに動いてくれません。作業内容に合わせて、「どういう条件で、どんな順番で、どのように動かすか」をロボットに指示する必要があります。

ティーチングはティーチング技術者(ティーチングマン)によって行われますが、プログラミングなどの専門知識やロボット技術への深い理解が必要です。ティーチング技術者を育成して熟練させるには一般的に1〜2年ほどの現場経験を要し、手間とコストがかかります。中小企業にはそもそもIT人材が不足しているため、どのようにティーチング技術者を育成するかが課題です。日本全体で見ても、ティーチング技術者が非常に不足しています。

 昨今では、ロボットを直接手で動かして動作を覚えさせる「ダイレクトティーチング」という手法があり、プログラミングの知識が不要になる場合もあります。しかし、ダイレクトティーチングにも、ロボットに動作を正確に覚えさせるのが難しい、ティーチングに時間がかかる、ティーチングする度に生産ラインを停止させる必要がある、といった課題があります。

 多品種少量生産が主流になりつつあり、ロボットにはさまざまな作業の担い手になることが期待されていることから、ティーチングの頻度は増加傾向にあります。ティーチングの手間を軽減するとともに、誰でも簡単にティーチングができるロボットが求められているのです。

 ロボット導入に関する法律や資格取得の課題もあります。ロボットを導入する場合、次の2点が法律で定められています。

  • 安全のために柵を設けて、人とロボットの作業場所を分けること
  • ロボットに関わる作業員やメンテナンス担当者は全員が特別教育を受けて資格を取得する必要があること

 「平成25年12月24日付基発1224第2号通達」によって、出力が80W未満で労働者に危険が生じるおそれがないロボットに関しては、人とロボットが同一の作業場所で協働することが認められるとともに、資格も不要となりました。多くの協働ロボットはこの法令に該当するため、柵を設けたり、資格を取得したりする必要はなくなりましたが、導入する機種によっては柵や資格の取得が必要になる可能性もあります。協働ロボットを導入する際には、出力が80W未満の機種かどうかを注意しておくとよいでしょう。

ロボット Insight 協働ロボットで活用されるAIの進化

AIを搭載した協働ロボットが登場

 上述した協働ロボットの課題を克服するものとして新たに注目されているのが、AIを搭載した協働ロボットです。AIを搭載することにより、人と同じように自ら作業を覚えて短時間でティーチングができる協働ロボットに注目が集まっています。

 AIを搭載した協働ロボットの事例を二つご紹介します。

京セラのAI協働ロボット・システム

大手電子部品・電子機器メーカーの京セラ株式会社が、「AI協働ロボット・システム」を開発して2021年にロボット市場に参入すると発表しています。

 AI協働ロボット・システムは、物体認識、経路生成、把持の三つのアルゴリズム(問題解決の手順)を活用してティーチングの手間を最小限にできるのが特長です。例えば、「トレイAからトレイBに移動させる」といった作業目的を指定するだけで、AIが物体を認識して経路を生成し、把持して移動させてくれます。動作手順を細かく教える必要があった従来のティーチング方法に比べると、手間が少なく、簡単な操作で素早くティーチングを行えます。

 京セラはロボット本体や周辺機器は販売せずにソフトウエアシステムのみを提供する予定です。また、内部仕様をオープンにすることで他のロボットメーカーとの協力体制を築き、ロボット市場全体の価値を高める方針となっており、多くのロボットにAIが搭載されて使いやすくなっていくことが期待できます。

デンソーウェーブ×エクサウィザーズのAI協働ロボット

産業用ロボットメーカーの株式会社デンソーウェーブは、自社が提供する小型協働ロボット「COBOTTA」にAIスタートアップの株式会社エクサウィザーズのAI技術を組み合わせたシステムを構築しています。

 展示会で実施したデモでは、食塩の計測システムを実演しました。必要な食塩の重量を指示すると、AIが容器内の食塩の位置を把握して動作経路を自動で生成し、スプーンですくい電子計量器で測定をします。その際、指示した重量ぴったりになるようにスプーンの傾け方を調整し、重量を超えた場合は計量器の塩をすくって減らすことができます。

 また、ミニカーの組み立ての実演では、人が部品を隠して邪魔をしてもAIがその状況を認識して再度同じ部品を組み付けるといった臨機応変な対応を見せました。

ティーチングの課題を克服するだけでなく、AIによってロボット自身が考えて柔軟な対応ができることは、不測の事態が起こりやすい製造現場にとって大きなメリットとなるでしょう。

AIの進化によって協働ロボットの普及が期待できる

 協働ロボットがより広範囲に普及するための課題であるティーチングの手間が、AIの進化によって解消されつつあります。少子高齢化による人手不足が深刻化し、多品種少量生産のニーズが高まっている状況を踏まえて、協働ロボットの導入を検討してみてはいかがでしょうか。

 ロボットメーカーはAI搭載型ロボットの開発に注力しており、今後はさらに便利で使いやすい協働ロボットが登場することが期待できます。

ロボット Insightの他記事もご覧ください

Prev

Next