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新型コロナウイルスの感染拡大でUV-Cの除菌効果に熱視線

レンテックインサイト編集部

ロボット Insight 新型コロナウイルスの感染拡大でUV-Cの除菌効果に熱視線

 新型コロナウイルスによる影響が世界中に広がる中、各国で衛生への意識が急速に高まっています。それに伴い、紫外線技術を活用した消毒・除菌技術、特に深紫外線(UV-C)LEDによる除菌ソリューションに注目が集まっています。
 紫外線は可視光線よりも波長が短い光で、特に100~400nmの波長域を指し、波長別に315~400nmの「UV-A」、280~315nmの「UV-B」、100~280nmの「UV-C」の3種類に分類されます。このうち最もエネルギーが高く、生体に対する強い破壊力を持つのがUV-Cで、その特性を活かし、トイレ、キッチン、調理器具などの除菌・消臭、水の浄化、空気の除菌などに使用されています。
 UV-Cの光源としては長年、水銀ランプが主流でしたが、人体や環境へ悪影響を与える水銀は「水俣条約」による制限が進んでいることから、現在では、水銀を使わず効率良くUV-Cを発生することができるLEDへのシフトが進んでおり、スタンレー電気株式会社、ナイトライド・セミコンダクター株式会社、日機装株式会社、旭化成株式会社のグループ会社であるCrystal IS社、LGイノテック、SETi(Sensor Electronic Technology)、日亜化学工業株式会社などが、UV-C LED関連製品を展開しています。
 このうち、日亜化学工業は、同社の280nm UV-C LEDを30秒照射することで新型コロナウイルスを99.99%不活化できると2020年12月に発表。また、SETiの親会社である韓国のソウルバイオシスは、同社の紫外線LEDの清浄技術「violeds」(バイオレッズ)によって、新型コロナウイルスを1秒で99.437%不活化できると2021年1月に発表しており、米コロンビア大学の放射線研究センターでも、205~230nmのUV-Cに新型コロナウイルスの不活化効果があると報告しています。

日機装が除菌消臭装置を増産

 新型コロナウイルスは、感染者が触れたドアノブやベッドレールなどでも数日間生きているため、感染者を受け入れる医療機関をはじめ、鉄道車両や航空機の座席、学校、オフィスなどでは数時間かけて人手による消毒作業が実施されています。その作業にUV-Cを活用することで、作業の大幅な効率化が期待されており、ニューヨーク市の地下鉄を運営するメトロポリタン・トランスポーテーション・オーソリティでは、約150台のUV-Cライトを活用して、鉄道車両やバスの内部を除菌する取り組みを進めています。
 UV-C LEDを活用した機器開発も進んでいます。その一つが日機装の「Aeropure」(エアロピュア)です。UV-C LEDを搭載した空間除菌消臭装置で、光触媒フィルターでキャッチした菌やウイルスにUV-C LEDの光を当てることで、菌やウイルスのDNAを破壊し不活化します(UV-C LEDは装置内部に組み込まれており、直接人体に照射されることはありません)。
 2020年1月の販売開始直後から注文が殺到し、医療機関、介護施設、保育園、公共交通機関、飲食店を中心に採用されています。その需要の高まりに対して生産が追いつかず、商品供給の納期が長期化していたことから、2021年1月からAeropureの生産体制を従来の約2.5倍となる年産25万台に増強したほどです。
 ナイトライド・セミコンダクターは、2020年8月に「深紫外線LEDシャワーBOX」を発売。PCR検査の現場において、フェースシールド、防護服、シューズカバーを着用したまま全身を不活化できるシステムで、275nmのLED殺菌灯24灯によって、体の向きを変えて1回転して4分20秒間UV-C照射することで全身を不活化する装置です。UV-C光だけで殺菌化するため薬剤の残留もなく安全で、排気や薬剤ふき取りによる廃材が発生しないため、2次感染のリスクをなくすことができます。

ウシオが無害なUV-Cを実用化

  UV-Cを活用するうえで注意する点があります。UV-Cはその強い除菌力の反面、皮膚がんや白内障を生じさせるなど人体に直接照射すると有害であるということです(UV-Cで照射・殺菌されたものは触れても無害)。そのため、UV-Cを照射しているあいだは、周辺を無人化する必要があります(ちなみに太陽光から発生するUV-Cはオゾン層で吸収されるため、地表には届きません)。
 この問題の解の一つとして取り組まれているのがロボット技術との統合です。移動機能を持ったロボットにUV-Cライトを搭載することで、照射作業を無人化・遠隔化するというもので、移動型UV-C除菌ロボットを展開するデンマークのUVD Robotsは2020年12月に欧州委員会通信ネットワーク・コンテンツ・技術総局と契約し、欧州全土の病院に移動型UV-C除菌ロボット200台の配備を進めています。
 もう一つのアプローチが、人体に無害なUV-Cの実用化です。その一環として、神戸大学とウシオ電機株式会社の研究グループが、222nm波長のUV-Cを人の皮膚や目に直接照射しても影響が少なく、殺菌効果があると発表しています。222nm波長のUV-Cは、殺菌ライトとして一般的に使用されている254nm波長のUV-Cと比べて遜色ない殺菌力を保有。さらに、神戸大学による実験では、222nm殺菌ライトを照射したマウスでは皮膚がんが全くできず、眼についても顕微鏡での観察レベルで全く異常が出なかったそうです。
 222nm波長のUV-Cが無害であった理由はその深達度にあり、皮膚においては、従来の紫外線が皮膚の表皮の基底層という一番下層にまで到達し、細胞のDNAを損傷させてしまうのに対して、222nm波長のUV-Cは角質細胞層という極めて表層(垢になる)部分までしか到達しないため、表皮細胞のDNAを損傷しません。
 そしてウシオ電機は、2020年8月に、学校や商業施設などの有人環境下にそのまま設置・使用できる222nm紫外線ウイルス抑制・除菌ユニット「Care222 U3ユニット」を発売。2021年1月には、東芝ライテック株式会社と連携し、222nmのUV-C技術を搭載した紫外線照射装置を発売しました。
 感染症対応が長期化する中、ウイルスの存在を前提として経済活動を実施する「ウィズコロナ」への取り組みが世界各地で進んでいます。その中で消毒・除菌作業が日常化しており、UV-Cを活用したソリューションについても今後さらに広がりを見せることになるでしょう。

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