ホームロボットEVの心臓部「eAxle」への注目度が向上

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EVの心臓部「eAxle」への注目度が向上

レンテックインサイト編集部

ロボット Insight EVの心臓部「eAxle」への注目度が向上

 自動車向けの排出ガス規制に端を発したエコカー(環境対応車)への取り組みが加速し、EV(電気自動車)、PHV(プラグインハイブリッド車)、HV(ハイブリッド車)、FCV(燃料電池車)といったエコカーの普及が待ったなしの状況になってきました。世界各国で2050年~2060年に向けた排出ガスゼロ宣言が打ち出され、中国は35年をめどに新車販売をすべてエコカーとし、そのうち50%をEVを中心とした新エネルギー車に、残りの50%をHVとする方針を公表しています。また、具体的環境対策宣言に慎重姿勢を見せていた日本も、ついに2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにする方針を明確にし、2030年代半ばまでにすべての新車を電動車にする目標を掲げています。
 こうした状況下で高い注目を集めているのが、モーター、インバーター、減速機(ギア)を一体化した機電一体型「eAxle」(イーアクスル)です。EV駆動システム、EV用トラクションユニット、EV用トラクションモーターシステムなどと表現されることも多く、次世代電動車の心臓部となるものです。
 調査会社の株式会社富士経済の予測では、イーアクスル世界市場規模は2019年の約5万台から2035年には1467万台まで拡大する見込みで、足元では中国や欧州を中心に需要が高まっています。前述の各国から相次ぐ環境対策宣言によって、自動車メーカー各社はエコカーの投入を急いでおり、トヨタ自動車は25年に電動車550万台を目標に掲げているほか、他の大手メーカーもエコカーの比率を高める方向性を鮮明にしています。
 エコカーを高級車のみならず一般車まで広く普及・拡大させていくには、ガソリン主体の内燃エンジン駆動システムから、モーターを用いた駆動システムへ小型化し、安価に搭載することが求められており、それを実現するための重要な要素がイーアクスルというわけです。このため、モーター、インバーター、減速機などを強みとするメーカー、大手自動車部品メーカーなどが開発を急ピッチで進めています。

積極投資を行う日本電産

 そのイーアクスルの量産出荷で先行しているのが、総合モーターメーカーである日本電産株式会社(京都市南区)です。同社のイーアクスルを採用した車種の販売台数は累計10万台超(2020年末時点)に達し、中国、欧州を中心に20社を超える企業から受注を獲得しています。特に中国では圧倒的シェアを誇り、2030年にはEV市場の40~45%の世界シェア獲得を目指しています。
 モーター専門会社として、ハードディスクドライブ用モーターなどで培った小型・軽量化技術のノウハウをEV用モーター向けに活かせる点が日本電産の強みで、中国国内の競合品と比べても、モーターの体積は半分、軽量化でも群を抜きます。さらに、小型化にあたり、鉄、銅、アルミ、マグネットなどの材料を少ししか使わず、モーター、インバーター、減速機をすべて内製化していることから優れたコスト競争力を有します。また、中国の自動車開発スピードが欧州や日本に比べて半分の1年半程度といわれる中、この開発スピードに追従できている点も高い評価を得ています。
 2021年2月には、工作機械や切削工具を手がける三菱重工工作機械株式会社など、三菱重工業グループの工作機械事業を取得すると発表しました。三菱重工工作機械は、自動車用トランスミッションや減速機などの歯車装置において、切削加工から研削加工に至るまでの高精度・高効率の歯車加工を実現する歯車機械などを展開しており、日本電産では事業取得によってイーアクスルの中核部品の一つであるギアに精通した人材および高度な技術力を獲得する狙いもあります。
 イーアクスルの生産体制も積極的に拡充しており、現在、中国の「日本電産東側(淅江)有限公司」で年産60万台、「広州尼得科汽車駆動系統有限公司(合弁)」で同40万台の生産能力を保有しているほか、「日本電産自動車モータ(淅江)有限公司」において2021年8月から同40万台の生産ラインが稼働予定。そして「日本電産(大連)有限公司」にて同100万台の生産ラインを整備しています。今後は欧州での生産体制構築も急ピッチで進めていく方針で、従来からのモーターなどでの協業体制を含め、生産体制をさらに強化していく考えです。

関連各社は方向性を模索中

 一方、大手自動車部品メーカーからは、「中国や欧州ではEVの伸長がクローズアップされる風潮にあるが、実際には世の中がどの方向性にシフトしていくのか不透明だと思っている。現時点で見えている技術だけで言えば、EVだけに頼るのは合理的ではない」との見方も出ています。車載用2次電池のコスト、急速充電器の普及方法、ガソリン給油時間と急速充電器による充電時間の乖離、急速充電器設置の側面から見た各国の住宅事情など、EV市場の拡大には課題も多いためです。
 欧州自動車部品メーカーからは、中国EV向けにはフルインテグレーション品、車両デザインに合わせて自動車メーカーが最終を担う場合には個別モジュール品(中身のみ提供)、システム全体を網羅し車体まで含めた開発まで一貫で担うケースなど、自動車向けの幅広い知見と技術的蓄積を要するケースも増えています。
 このように、電動車種類の方向性も含め、イーアクスルは模索と進化の真っただ中にあるといえるでしょう。そして、OTA(Over the air)でソフトウエアの随時更新を可能にするEVで市場を席捲するテスラなど新興勢力の存在、アップルのEV参入の動き、大手ティア1が描く統合化の方向性など、電動車を取り巻くマクロ環境も大きく変化しています。こういった変化とともに、EVの心臓部であるイーアクスルに関する動きが今後さらに活発化していくことは間違いないでしょう。

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