ロボット Insight

ベンチャーとの連携で加速するソフトバンクロボティクス

レンテックインサイト編集部

ロボット Insight ベンチャーとの連携で加速するソフトバンクロボティクス

 ソフトバンクロボティクスは、ソフトバンクグループ㈱(東京都港区)においてロボット製品・サービスの提供する事業会社として2014年7月に設立されました。これまでに2500社以上に導入されている人型ロボット「Pepper」(ペッパー)をはじめ、AI(人工知能)清掃ロボット「Whiz」(ウィズ)や配膳・運搬ロボット「Servi」(サービィ)などを展開しています。2021年2月にはアイリスオーヤマ㈱(仙台市青葉区)と、合弁会社のアイリスロボティクス㈱を設立するなど、法人向けのサービスロボット事業を強化しています。
 もともとソフトバンクグループがロボット事業に参入したのは2012年に仏アルデバランロボティクス社(2016年5月にソフトバンクロボティクスヨーロッパへ社名変更)に出資したのが始まりです。アルデバランは2005年設立のロボット開発会社で、同社が開発した自立歩行する小型ヒューマノイドロボット「NAO」(ナオ)は、研究や教育用途で5000体以上出荷されています。そのNAOの技術をベースに、ソフトバンクとアルデバランは2012年から共同開発を開始し、2014年6月に発表したのがPepperというわけです。

清掃ロボ、配膳ロボを市場投入

 そしてPepperに続く2種目のロボットとして2019年5月より出荷されているのが、AI清掃ロボット「Whiz」です。最初にWhizを手押しして清掃エリアの地図データを作成・記憶させれば、2度目以降はスタートボタンを押すだけで記憶した地図データをもとに、Whizが自律走行しながら清掃を行います。この性能を実現するうえで、中核技術となっているのがブレイン・コーポレーション(米カリフォルニア州サンディエゴ)のAIソフトウエア「Brain OS」という技術です。既存の商用機器に同社のOSを組み込むことで、周辺環境を検知しながら自律移動できる知能ロボットへと進化させることができます。Whizは、日本のみならず、香港、マカオ、シンガポール、米国などでも販売されており、2020年6月末には世界販売台数が累計1万台を突破し、業務用自律清掃ロボット販売数で世界シェアNo.1(Grand View Research社調べ)を獲得しました。
 そしてソフトバンクロボティクスが、直近で最も注力しているのが配膳・運搬ロボット「Servi」(サービィ)です。ロボットベンチャーのBear Robotics(米カリフォルニア州)と共同で開発し、2021年2月から出荷を開始しました。最大35㎏(上段/中段/下段それぞれ15㎏まで)の運搬が可能で、配膳先のテーブル番号などを選んでタップするだけのシンプルな操作で使用でき、目的の場所まで最短ルートで移動します。また、幅60㎝の狭い通路でも通り抜けでき、人や障害物も自動で回避します。
 実証では、キッチンとホールの往復作業などを大幅に削減できる効果が確認され、従業員の接客時間が2倍に増加した事例のほか、1日約300回の配膳を実施した店舗や、座席回転数の向上によりランチタイムの客数が21%増加した店舗もあったそうです。そういった性能が評価され、約100ブランドでの採用が決定しており、「焼肉きんぐ」などを運営する大手飲食チェーンの㈱物語コーポレーションでは、310店舗にて計443台のServiを導入する方針を示すなど、飲食店を中心に、小売店、宿泊、商業・娯楽、倉庫、オフィスなどでも導入が進んでいます。

ベンチャー企業の技術がベースに

 Pepper、Whiz、Servi、この3製品には共通点があります。それは、ソフトバンクロボティクスが単独で開発したものではなく、ロボット関連ベンチャーの技術を活用しているという点です。先にも述べたとおり、Pepperにはアルデバラン、Whizにはブレイン・コーポレーション、ServiにはBear Roboticsの技術が活用されています。そしてソフトバンクロボティクスの親会社であるソフトバンクグループは、この3社すべてに出資しています。
 ブレイン・コーポレーションは、2017年に1億1400万ドルの資金調達を実施していますが、その際にリードインベスターを務めたのが、ソフトバンクグループが主導する大型ファンド「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」でした。また、ブレイン・コーポレーションは2020年4月にも3600万ドルの資金調達を実施していますが、その際のリードインベスターもソフトバンク・ビジョン・ファンドでした。Bear Roboticsは、2020年1月に3200万ドルの資金調達を実施していますが、その際にリードインベスターを務めたのはソフトバンクグループでした。
 つまり、ソフトバンクグループでは技術力の高い海外ロボットベンチャー企業に出資し、その技術を活かして、ソフトバンクロボティクスで新たなロボット製品を生み出したあと、ソフトバンクグループのネットワークを活用して販売を拡大する戦略をとっているわけです。これはロボットに限った話ではなく、例えば、ソフトバンクが提供しているスマートフォン決済サービス「PayPay」も、ソフトバンク・ビジョン・ファンドが出資しているインド最大の決済サービス事業者「Paytm」と連携して開発されたもので、世界の有力ベンチャーに多数出資しているソフトバンクグループならではの取り組みといえます。
 そのソフトバンクグループでは、AIを活用した分野に投資を集中させる方針を示しています。AIはロボットとの親和性が非常に高く、ソフトバンクグループにおけるロボット分野の重要性もさらに高まっていくことが予想されます。今後、ソフトバンクロボティクスがどんなロボットを開発していくのか、そしてその前段階としてソフトバンクグループがどのロボットベンチャーに目を付けるのか、その点を注目しておく必要があるでしょう。

(出展:産業タイムズ社)

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