ロボット Insight

ロボット技術で建設現場を変革する竹中工務店

レンテックインサイト編集部

ロボット Insight ロボット技術で建設現場を変革する竹中工務店

 大手総合建設会社である株式会社竹中工務店は、現場や工場などの作業員の負担軽減策としてロボットに関する取り組みを進めています。その1つが、2020年2月に開発した「建設ロボットプラットフォーム」です。BIM(コンピューター上に作られた建物・設備の3次元モデル)データを活用した基盤システムで、ロボットが自律走行するための経路・範囲シミュレーション、遠隔操作、遠隔監視などが、建設ロボットプラットフォームを通じて行えます。
 従来、施工中の建物内での建設ロボット運用は、カラーコーンをターゲットとして作業範囲を指定する必要があり、ロボットや機械の稼働台数増加、機能の高度化に伴う保守・運用に関する管理業務が多様化するなど、各管理業務の効率化にも課題がありましたが、建設ロボットプラットフォームを活用することで、ロボットの搬送ルートの指定する作業が不要となり、カラーコーンが見える範囲でしか使用できなかったロボットの作業範囲を大幅に拡大できます。そして、複数の建設ロボットの稼働状況を、ロボットを保有するレンタル会社とともに管理することで、保守運用業務を効率化することもできます。

墨出しロボットなどを開発

 独自のロボット開発も進めており、2019年4月には自走式の墨出し(仕上げ工事や設備工事において、工事の基準となる線や位置などを床や壁に表示する作業)ロボットを建設現場に試験導入し、従来比約3倍の生産性向上を実現しました。レーザーで墨出し地点を指定し、その情報をWi-Fi通信で受け取った墨出しロボットが目的地まで自走して墨出し作業を行います。実証では、フロアの1点あたりの墨出し所要時間を従来機の98秒から33秒に短縮し、約4時間で100㎡の墨出し作業に成功しました。精度も高く、設計値に対する誤差は平均2mm以下でした。
 そのほか、豊和工業株式会社(愛知県清須市)、株式会社カナモト(札幌市中央区)、朝日機材株式会社(東京都墨田区)と、自動的に床面を清掃する吸引型ロボット「AXキュイーン」を2019年に共同開発しています。四隅に置かれたカラーコーンを360度レーザーセンサーで検出することで清掃領域を判断し、移動経路を自動生成するロボットで、1時間で637㎡を自動で清掃できます。
 ロボット関連技術としては、高層建物の鉄骨柱(角形断面)の溶接において、ロボットの作業を容易にする新溶接工法も独自に開発しました。従来、ロボットで鉄骨柱の溶接する場合、ロボットが4つの面を1面ずつ直線的に作業しますが、その結果、柱の角ではロボットが溶接を取り合ってしまうことがあり、熟練溶接技能者が柱と柱の継ぎ目の状態を確認しながら溶接を行う必要がありました。竹中工務店の新工法は、溶接する柱の角に仕切り部分を設ける手法で、これによりそれぞれのロボットの作業範囲が明確になり、柱の角もロボットによる溶接が容易になりました。

鹿島や清水建設と連携

 総合建設会社間の連携も進んでおり、その1つとして2019年12月から鹿島建設株式会社と、建設現場におけるロボットやIoT技術の活用で協業しています。そして2020年10月には、清水建設株式会社も参画し、現在3社でプロジェクトチームを立ち上げており、ロボット技術の相互利用などにも取り組んでいます。
 建設業では現在、就労者の高齢化や就労人口減少などが課題となるなか、大手総合建設会社を中心にロボットやIoT技術を活用した施工支援ツールの開発が進んでいます。しかし、それらは企業ごとに操作方法が異なり、実際に使用する協力会社の負担が大きいことが課題です。また、個社での開発・生産ではコストを下げることも難しくなっています。
 そこで竹中工務店、鹿島建設株式会社、清水建設株式会社は、技術連携することで開発の重複をなくし、施工ロボットの普及や、ロボット価格の低減などを目指しています。技術連携の一環として、機械遠隔操作システムや場内搬送管理システムを共同開発しています。また、開発済み技術の相互利用として、竹中工務店の清掃ロボットや鹿島建設の溶接ロボットの現場活用が計画されています。

4足歩行ロボットの活用も推進

 ユニークな取り組みとしては、最先端のロボット技術を保有するBoston Dynamics(ボストン・ダイナミクス、米マサチューセッツ州)の4足歩行型ロボット「Spot」(スポット)を建設現場で活用する実証を進めています。スポットは、秒速1.6mで移動でき、荒れた地形でもバランスを保ちながら自律移動することも可能なロボットで、最大14㎏の荷物を運搬することもできます。また、利用者のニーズに応じて様々な外部ユニットを追加することもでき、竹中工務店ではスポットにセンサーやカメラを搭載して、建設現場の巡回、進捗管理、安全点検などへ活用できる可能性を検証しています。
 2020年12月には、株式会社竹中工務店、株式会社竹中土木、鹿島建設株式会社の3社で、スポットの共同研究を進めることで合意。鹿島建設は、トンネル工事において、掘削した場所の写真撮影、ポンプメーターなどの計器点検、坑内巡視などをスポットで実施した実績があり、3社はスポットの運用ノウハウなどを共有し、検証作業の効率化を図り、建設現場におけるスポットの早期実用化に取り組んでいます。
 日本建設業連合会の試算では、2015年度から2025年度までの10年間で建設業界の技能労働者が128万人減少すると予測されており、高齢化に伴う将来の技能労働者不足も大きな課題となっているなか、竹中工務店ではこういった取り組みを通じて新たな建設現場のかたちを生み出そうとしています。

(出展:産業タイムズ社)

ロボット Insightの他記事もご覧ください

Prev

Next