日本電産シンポ株式会社は、日本初の無段変速機メーカー「シンポ工業」として1952年4月に誕生しました。その後、1995年に世界No.1の総合モーターメーカーである日本電産のグループに入り、1997年に現在の社名となりました。無段変速機の技術を伝統産業に融合させ、世界で初めて陶芸用電動ろくろを開発した企業でもあり、現在はコアテクノロジーであるトラクション技術を生かし、製造機械・装置向けの減速機を主力製品として事業を展開。小型サーボモーター用減速機では国内シェアNo.1を誇ります。そして、新たな取り組みとして、2016年から販売しているのが、ガイドレス無人搬送台車(AGV)「S-CART」です。
S-CARTは、レーザーセンサで走行エリア内の特徴物による地図を作り、その地図をもとに自己位置を推定しながら走行するAGVで、ガイドレスのため工場内のレイアウト変更にも簡単に対応できることが特徴です。また高さ20cmの低床設計で潜り込みが可能なため、多彩な使い方に対応できます。
タブレットによる操作も可能で、連続で8時間稼働でき、通信機能(Wi-Fi/Bluetooth)も搭載。現在、搬送重量100kgと1000kgのモデルをラインアップしています。製造現場や物流施設に加え、安全で静音性が高いという特徴を生かし、オフィスやホテルなどでも利用が可能で、追従機能も有していることが強みです。
日本電産シンポは、S-CARTのような自動搬送ロボット分野において企業間連携も進めており、2017年5月には移動ロボットベンチャーの株式会社Doog(ドーグ、茨城県つくば市)と業務提携契約を締結しました。Doogは2012年11月に設立された筑波大学発のベンチャー企業で、「道具として役立つ移動ロボットで人々を笑顔に」を事業コンセプトに据え、人が仕事や生活をする近くで安全で確実に動作する移動ロボットの開発を推進。レーザーセンサと独自のソフトウエア技術を融合し、ロボットが人や台車を効率的かつ高精度で追従できる技術を有しており、その技術を活用した自動追従運搬ロボット「THOUZER」(サウザー)を2016年4月から展開しています。
サウザーは、人の運搬作業を補助する移動ロボットで、レーザーセンサ、モーター、コントロールユニット、バッテリーなどを搭載。簡単なボタン操作で人もしくは台車を認識させることにより、荷物を載せたサウザーがそのあとを自動的に追従することが特徴です。
業務提携の一環として日本電産シンポの商流でサウザーを販売しています。加えて、2017年6月にはS-CARTに追従機能を兼ね備えた新型機種を共同で開発。先行する人間や搬送車などを追従しながら走行するとともに、従来のS-CART同様に特定のエリア内での自動運転もできる製品を市場に投入しました。
日本電産シンポでは新たな取り組みとして、2020年8月に、キヤノン株式会社とガイドレス方式の次世代AGVやAMR(自律走行搬送ロボット)分野において協業すると発表しました。協業の一環として、キヤノンが映像解析システム「Vision-based Navigation System for AGV」を日本電産シンポに提供しています。
このシステムは、水平面および垂直面の幅広い画角で撮影されたカメラデータを用いて、周囲環境の3次元情報とカメラの位置姿勢を同時に推定できることが特徴で、レイアウト変更の多い現場でも移動ロボットの「眼」として柔軟に対応することができます。また、既存のシステムにアドオンして使用することもできます。日本電産シンポはキヤノンのシステムを搭載したAGVの試作機を、キヤノンならびに日本電産シンポの工場内にて2019年から運用し、2020年8月にAGVの新シリーズ「S-CART-V」として製品化しました。現在、搬送重量100kgタイプを販売しており、その他の機種についてもキヤノンの映像解析システムを順次搭載していく予定です。
2019年12月にはGerman Bionic Systems社(GBS社)のパワースーツ「Cray X」の次世代プロトタイプに、日本電産シンポの超偏平アクチュエーターが採用されたことを発表しました。Cray Xは上半身に装着するタイプのロボティクス機器で、作業時に最大30kgまで腰部への負荷を低減することができます。日本電産シンポの超偏平アクチュエーターを動力源として左右に搭載しており、あらゆる方向の作業動作を助け、人による重量物持ち上げや運搬作業の負担軽減に貢献します。
超偏平アクチュエーターは日本電産シンポの波動歯車減速機「FLEXWAVE」内部に日本電産モーター基礎技術研究所(台湾)設計のブラシレスDCモーターを組み込んだもので、外径90mm、全長40.5mmと世界最薄クラスで、定格容量は170W。パワースーツや電動車椅子など、スペースが限られる機器へ搭載する場合も出っ張りの少ないスマートな設計を実現できます。この事例が示すように、近年、ロボティクス分野においてモーターをはじめとした日本電産グループ製品の採用が増加しており、ロボット領域を大きな成長市場の一つとして捉えています。日本電産シンポではS-CARTとCray Xを合わせて提案し、重量物取り扱いに関するソリューションを総合的に提供する取り組みも進めていく方針で、ロボット領域でのさらなる事業拡大を目指していく考えです。
(出展:産業タイムズ社)