近年、業務効率や生産性を高めるツールとしてロボットへの注目度が高まっており、さまざまなロボティクス機器が開発・販売されています。その中で利用件数が増えつつあるのが、装着型のロボティクス機器です。身体に装着することで、作業者の動きをアシストしてくれる機器で、歩行支援やリハビリ、重作業時にかかる身体的負担の軽減などに活用され、パワーアシストスーツやウエアラブルロボットなどとも呼ばれます。その装着型ロボティクス機器を展開する企業の中で多くの実績を積み上げているのが株式会社イノフィスです。
イノフィスは、東京理科大学の小林宏教授が開発したウエアラブルロボット「マッスルスーツ」を事業化するために2013年に設立されたベンチャー企業です。マッスルスーツは、肉体的負荷の高い現場作業者の腰の負担を軽減する簡易装着式の筋力補助装置で、背中に背負うかたちで使用し、関節を人工筋肉で動かし着用者の動きを補助します。人工筋肉はゴムチューブを筒状のナイロンメッシュで包み、両端を接合する構造を採用しており、ゴムチューブへ圧縮空気を注入することでゴムチューブが膨張し、その膨張がナイロンメッシュによって長さ方向の収縮を伴う強い引っ張り力に変換される仕組みです。
イノフィスの製品は、空気圧を駆動源としており、圧縮空気の出し入れで人工筋肉を伸縮・駆動させます。その構造的特徴から低コストで、かつパワーと安全性が優れており、着脱も容易です。介護施設、農業、製造現場、空港業務など幅広い分野で活用されており、累計出荷台数は1万台を突破しています。
イノフィスでは、金型製造などを手がける菊池製作所株式会社(東京都八王子市)の出資・経営支援を受け、2014年から本格的な販売活動を進めており、製品自体も年々進化しています。販売活動を始めた当初の製品は、コンプレッサー、ホース、タンク、スイッチなどのパーツが付属品として必要でしたが、2017年からはこういった付属品が不要なスタンドアローンタイプの販売を開始。屋内、屋外問わず、幅広いエリアを自由に移動できる仕様を実現するとともに、空気注入も事前に完了させるため、作業中のスイッチ操作が不要となり、利用者は作業により集中できるようになりました。また、引火リスクの高い電気部品は使用していないため、防爆性が向上し、火気禁止のエリアでも使用することが可能となりました。
そして2018年から「マッスルスーツEdge」の販売を開始しました。従来モデルの基本機能は踏襲しつつ機能の簡素化などを図ることで本体の重量や奥行きを大幅にカット。従来モデルでは5~6.6kgあった本体重量を4.3kgまで低減しました。また、価格も従来モデルは70万~90万円でしたが、マッスルスーツEdgeは49万8000円という価格を実現しました。また、腰部に加えて腕の動きもアシストする「マッスルアッパー」の販売も2018年から開始。最大補助力は35.7kgfで、大がかりな設備を使用せずに重量物の取り扱いなどが可能となりました。
そして2019年11月に現在の主力製品となる「マッスルスーツEvery」の販売を開始しました。大きな注目点としてはその価格で、税別13万6000円で市場投入しました。25.5kgfの最大補助力で動作をアシストする機能はこれまでと変わらず、本体重量は3.8kgと、これまでのマッスルスーツシリーズの中で最軽量を実現。介護、製造、物流、建設、農業などの作業現場での使用に加え、家庭での介護や家事、家庭菜園や冬の雪かきなど、さまざまなシーンで利用でき、重量物を運ぶ作業やつらい中腰での作業の腰痛予防に貢献します。また、販売体制もユニークで、ビックカメラ、ヨドバシカメラ、ジョイフル本田など、家電量販店やホームセンターなどで購入できる体制を敷いています。
イノフィスの出資者である菊池製作所は、生産面でもイノフィスを支援しており、2015年1月から福島県南相馬市でマッスルスーツの量産ラインを運用しています。工場は南相馬市小高区にあり、敷地面積は約4.5万㎡、延べ床面積が約1.2万㎡の規模を持ち、最大で年5000台のマッスルスーツを生産できると推定されます。菊池製作所は南相馬工場ならびに福島県飯館村に保有する既存工場内に、ロボット関連部品を生産するための設備も有しており、福島県内でロボット生産を一貫して行える体制も備えています。
イノフィスの取り組みは幅広い企業から注目を集めており、2015年8月には、株式会社産業革新機構(現株式会社INCJ)、株式会社TUSビジネスホールディングス、DBJキャピタル株式会社、三菱UFJキャピタル株式会社、JA三井リース株式会社、西武しんきんキャピタル株式会社、多摩信用金庫、とうほう・次世代創業支援ファンド、あぶくま信用金庫、株式会社大東銀行、株式会社福島銀行がイノフィスへ出資しました。
また2019年1月には、香港のShun Hingグループ、台湾のJOCHU社、NECキャピタルソリューション株式会社、株式会社ベンチャーラボインベストメント、東京理科大学インベストメント・マネジメント株式会社、SMBCベンチャーキャピタル株式会社、三生キャピタル株式会社などが総額8億640万円を出資。そして2019年12月には、株式会社ハイレックスコーポレーション、フィデリティ・インターナショナル、ブラザー工業株式会社、フューチャーベンチャーキャピタル株式会社(ロボットものづくりスタートアップ支援ファンドによる出資)、株式会社ナック、TIS株式会社、東和薬品株式会社、株式会社トーカイ、株式会社ビックカメラなどが総額35億3000万円を出資しました。
イノフィスでは、新製品の研究開発および国内外の事業開発や事業拡大に資金を充てるとともに、出資企業の一部と業務提携して事業の拡大を図っており、人が装着型ロボットを身に着けて生活したり、働いたり、治療を受けたりすることが当たり前になる日を目指しています。
(出展:産業タイムズ社)