国内企業でトップの売り上げを誇り、世界有数の自動車メーカーであるトヨタ自動車株式会社。そのトヨタ自動車が数多くのロボット製品も手がけていることはあまり知られていません。トヨタグループにおけるロボットの歴史は古く、1970~80年代にかけて産業用ロボットの開発を実施したのが始まりです。現在では、溶接工程や塗装工程で多数の自社製ロボットが導入され、組立工程や運搬作業などでもロボットが活用されています。そして、この産業用ロボットの技術に、自動車技術、電子技術、知能化技術を結集し、社会のニーズに応えていく「パートナーロボット」のプロジェクトを2000年に発足させました。
パートナーロボットは、「やさしさ」と「かしこさ」を兼ね備え、人のパートナーとして人をサポートすることをコンセプトにしています。開発力の強化と開発のスピードアップを図るため、2005年1月に専属の「パートナーロボット開発部」を社内に設立。同2005年に開催された愛知万博では、2足歩行型のヒューマノイドロボットを発表し、2本足での安定した動きや、楽器を演奏できる人工唇とロボットハンドなどが大きな注目を集めました。
現在は2016年4月に設立された「未来創生センター」を中心にさまざまなロボット開発が進んでいます。その中で初めて本格的に事業化したものが「ウェルウォーク」です。歩行練習やバランス練習を行うリハビリテーション用パートナーロボットで、トヨタが持つ高速・高精度なモーター制御技術、2足歩行ロボット開発で進めてきた安定性の高い歩行制御技術やセンサー技術などが取り込まれています。下肢麻痺で歩行が不自由な人が自然な歩行を習得できるように、脚部をつり上げる機構を活用しロボットが動作を支援するシステムです。2017年4月に「ウェルウォーク WW-1000」という商品名でレンタルを開始し、2019年11月からは新モデルの「ウェルウォークWW-2000」を展開しています。
研究開発は国内だけでなく、海外でも実施されており、その中核が「Toyota Research Institute」(TRI、米カリフォルニア州ロスアルトス)です。2016年1月にAI技術の研究・開発を行う子会社として設立され、自動運転やロボットの研究を進めています。ロボット分野では家庭内で使用するロボットの開発を進めており、2020年9月末に最新の研究成果を公開しました。TRIでは本社内に「MOCK HOME」と呼ばれる模擬住宅を設置して研究開発を進めており、実際の住宅と同じようなキッチン、ダイニング、バスルーム、リビングスペースを活用し、ロボットの機能テストなどを実施しています。その一つとして天井に設置したレールを移動して作業する「ガントリーロボット」などが実証されており、ロボットを活用して食器洗浄機へ皿を置く作業、テーブルなどの拭き掃除、ごみの片づけなどを日々テストしています。
また、TRIではロボット用グリッパーの開発も強化しており、特に形状が柔軟に変化するソフトグリッパーの実証を進めています。開発したグリッパーには多くの気泡が含まれており、把持した際に気泡の圧力を変化させることでさまざまなワークや工具に対応できることが特徴です。グリッパーの内部には、形状の変化を感知する深度カメラが搭載されており、動きを追跡して表面のせん断応力を推定できることもできます。
2021年7月に開催が延期された東京オリンピック・パラリンピック競技大会においてもトヨタはさまざまなロボットを提供します。その一つとして、大会マスコットキャラクターである「ミライトワ」「ソメイティ」をベースにしたマスコットロボットを組織委員会と共同で開発。大会関連施設などにて選手や観客を歓迎する他、子供たちがマスコットロボットを通じて、新たな形で大会を楽しめる企画が検討されています。
マスコットロボット以外にも、ヒューマノイドロボット「T-HR3」、遠隔地間コミュニケーションサポートロボット「T-TR1」、生活支援ロボット「HSR(Human Support Robot)/DSR(Delivery Support Robot)」、フィールド競技サポートロボット「FSR(Field Support Robot)」を提供します。
そのうち、T-HR3は遠隔操縦タイプの人型ロボットで、操縦者が離れた場所にいても操縦システムを介してロボットを直感的に操ることができます。操縦者は、ロボットに搭載されたステレオカメラに映し出される立体映像をヘッドマウントディスプレイで確認しながら、腕や手に装着した機器を介してロボットが外から受けた力も共有でき、自分の分身のようにロボットを操ることができます。歩行の操作も次の1歩のタイミング、位置、向き、重心移動を脚部に装着した機器を介して直感的に指示ができます。
HSRは介助犬をコンセプトに開発した小型ロボットで、小回りの利く円筒型の小型・軽量ボディ(直径43cm、高さ100.5~130.5cm)をベースに、格納できるアームを装備。タブレットを用いて直感的に操作でき、手足の不自由な人のために自宅内の離れた場所に移動し、様子を確認したり、落ちたものを拾ったり、物を持ってくることなどができるロボットです。
大会期間中の活用法としては、遠隔地にいる人がT-HR3とマスコットロボットを介してアスリートと交流することなどが想定されています。具体的には、マスコットロボットをコントローラとしてT-HR3を操作し、動きや力を相互に伝達。アスリートなどとのハイタッチや会話などを通じ、まるで目の前で交流しているかのような臨場感あふれる体験が実現できるというものです。
また、オリンピックスタジアムでは、一部の車椅子席において、HSRが観戦席への誘導や物品運搬などを行う予定です。FSRは陸上投てき競技などの運営において、運営スタッフの追従走行や障害物回避走行を実施しながら競技中の投擲物(槍やハンマーなど)の回収・運搬を行う計画です。
東京オリンピック・パラリンピックの組織委員会では、大会を「史上最もイノベーティブな大会」にすることをテーマの一つとして掲げています。その中でこれらのロボットも大きな役割を担うことになり、これまで我々の目に触れる機会が少なかったトヨタのロボット技術を身近に感じられる場となるかもしれません。
(執筆:産業タイムズ社)