ロボット Insight

溶接用ロボットで高シェアを誇るダイヘン

レンテックインサイト編集部

ロボット Insight 溶接用ロボットで高シェアを誇るダイヘン

 ロボット大国と呼ばれる日本には多くの産業用ロボット(製造現場向けロボット)メーカーが存在しますが、その中で溶接分野において高いシェアを誇るのが株式会社ダイヘン(大阪市淀川区)です。ダイヘンは1919年の創業以来、国内トップシェアの柱上変圧器をはじめとする電力機器のトップメーカーとして知られていますが、1934年に生産を開始したアーク溶接機でも国内シェア50%以上を占め、その溶接技術とメカトロニクスを融合して、1979年にティーチングプレイバック方式のアーク溶接ロボットを開発し、産業用ロボット市場に参入しました。中国、米国、ドイツ、インドネシアなど、9カ国13拠点のグローバルネットワークを構築し、これまで50カ国以上で納入実績があります。
 アーク溶接、スポット溶接、ハンドリング、シーリングと多彩なアプリケーションに対応できる製品群を構築しており、現在、アーク溶接ロボットに関しては国内シェア39%(ウェルディングマート2016-17より)、世界シェアも30%(ロボット工業会、国内ロボット連盟のデータに基づくダイヘン想定)を有するトップメーカーです。
 溶接機と溶接ロボットを両方製造している企業は世界的にも珍しく、ダイヘンは溶接機との連携の良さが大きな特徴で、溶接ロボットだけでなく、搬送用ロボットや必要な周辺機器も充実しているため、優れたソリューション提案力も有しています。
 2019年12月にはドイツのロボットシステムインテグレーター(SIer)である「LASOtech Systems GmbH」(ラゾテック社)を買収しました。ラゾテック社は、2007年の創業以来、SIerとして欧州の大手自動車メーカーを中心に展開しており、レーザーアプリケーションに強みを持ちます。ダイヘンは得意とするアーク溶接技術とラゾテック社が有する多様なアプリケーション対応力を融合し、欧州市場のアーク溶接ならびにその前後のハンドリングを含む自動化ソリューションの対応力を強化しています。

製品ラインアップを拡充

 ダイヘンでは主力事業である変圧器や溶接用ロボットで培ったノウハウを活かし、1980年代後半から半導体やFPD(フラットパネルティスプレー)の製造現場で使用されるクリーン搬送ロボットの事業も展開しており、真空環境用では世界トップシェアを誇ります。2010年11月にはムラテックオートメーション株式会社からクリーン搬送ロボット事業を取得し、事業体制を強化。そこに独自技術を融合しウエハ搬送ロボット「ACTRANS(アクトランス)シリーズ」として展開しています。また、クリーン搬送ロボットの技術応用も進んでおり、細胞培養で用いる専用搬送ロボットなどもラインアップしています。
 その他、近年は①ハンドリングロボット製品の拡充、②アプリケーションの展開加速、③工場内搬送機器の製品群拡充にも力を入れています。①については2018年に100kg可搬クラスのハンドリングロボット3機種(FD-V80/V100/V130)を発売。同じく2018年10月から、ダイヘンの六甲事業所内(神戸市東灘区)でハンドリングロボット生産用の新棟(3階建て延べ7024㎡)が稼働しています。②については、バリ取りロボット、グラインダーロボット、組立ロボット、ねじ締めロボット、塗装溶射ロボットなどの拡販や新規展開も視野に入れています。③に関する取り組みとしては、AI搬送ロボットやワイヤレス給電システムなどがあります。AI搬送ロボットは、走行経路を示すガイドテープや煩雑な教示がなくても、タブレットで目的地と作業内容を指示するだけで、自ら最適経路を判断し、目的地まで搬送するロボットです。ワイヤレス給電システムを標準搭載し、自動給電により工場の24時間完全自動化を実現しています。

ロボットがロボットをつくる工場」を実現

 ダイヘンでは、ロボット事業の主力拠点である六甲事業所において「ロボットがロボットをつくる工場」をコンセプトに、自社製ロボットやワイヤレス給電システムなどの保有技術を活用した自動化を推進しています。需要負荷の急変や短納期要求に対応できる生産体制の構築および、製造現場の自動化推進により営業・開発への人員シフトを進め、新製品開発や営業・サービス力を強化することなどを狙いに、2013年より生産ラインの自動化に着手しました。
 センサを活用した鋳物部品の仕上げやベースユニットの組立およびボルトパレタイジング(配列)作業の自動化、自動倉庫の導入による部品搬送の自動化を実施。その他、AGV(無人搬送車)やAGF(無人フォークリフト)を活用した工程間搬送の自動化、携帯情報端末を利用した情報管理の効率化、主力機種の組立自動化なども実施しました。
 さらに、ビジョンセンサによる位置決めと力センサを用いて、ギヤのはめ込み動作のロボット化を実現。位置を合わせるだけでは難しいモーター挿入時のギヤの歯当たり調整も、力センサとロボット制御を組み合わせ、熟練工並みの繊細な作業を実現しました。また、ボルトの締結トルク、オイルシールの取り付け状況など品質に影響を及ぼす各種の生産管理データを組立中に自動で取得し、各個体に付けられたシリアル番号とともに保存・管理しています。
 こういった取り組みにより2018年度にはロボット生産ラインの組立自動化率が80%に達しました。その結果、六甲事業所でのロボット生産能力を年産7000台から年産1万2000台に拡大することに成功し、一方で製造人員を2013年度比で50%削減しました。また、自動化の設計ノウハウを開発製品にも水平展開し、自動化対象機種を拡大することでさらなる効率化に取り組んでいます。加えて、ロボットの精度調整作業の自動化、各種パラメータ設定の自動化、検査チェックシートの電子化に取り組むことでさらなる効率化の実現を目指しています。
 ダイヘンは、ロボット製品群の拡充や六甲事業所での取り組みなどを通じて、幅広いノウハウを蓄積し、アーク溶接・FPD搬送ロボットのメーカーから、工場全体の自動化に貢献する総合FA機器メーカーとして飛躍することを目指しています。

(執筆:産業タイムズ社)

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