ロボット Insight

産業用ロボでも存在感を発揮する欧州の老舗メーカーストーブリ

レンテックインサイト編集部

ロボット Insight 産業用ロボでも存在感を発揮する欧州の老舗メーカーストーブリ

 欧州では、IoT技術を活用して、生産工程、物流、サプライヤーなどをネットワークでつなぎ、製造業分野での生産性および顧客ニーズへの対応力向上を目指すドイツの「インダストリー4.0」をはじめ、製造業の生産性を高めるためのさまざまな施策が進んでいます。
それに伴い高性能のロボットソリューションも数多く普及しており、ABB(スイス・チューリッヒ)やKUKA(ドイツ・アウクスブルク)といった世界有数のロボット企業も欧州にはあります。その欧州において、メカトロニクス製品などの老舗メーカーとして知られ、ロボット製品を40年近く手がけるのがストーブリ(staubli)です。

29カ国に展開するスイスの大手企業

  ストーブリは1892年にスイスのホルゲンに「Schelling & Staubli社」として設立され、繊維機械、コネクタ、産業用ロボットの3事業を展開し、従業員は5000人以上、年間売上高は約13億スイスフラン(約1500億円)にのぼるスイスを代表する大手メーカーです。グループ会社であるストーブリエレクトリカルコネクターズ社、ションヘル社を含め、世界に14カ所の生産拠点を有しており、世界29カ国に販売およびアフターサービス拠点を保有しています。

 主力3事業のうち産業用ロボットに関しては、1982年に経営多角化の一環として参入し、米コネチカット州ダンベリーにある多関節アームロボットメーカー「Unimation社」と提携して、スカラロボット(水平多関節ロボット)の開発と製造を行ったのが事業としての始まりです。

 ストーブリは高い生産性と正確性に強みを持ち、電機・太陽電池、食品、ライフサイエンス、機械加工、プラスチック、塗装などの他、クリーンルーム基準サブクラス1から苛酷な使用環境(爆発物を取り扱った作業、ダストが発生する環境における作業、食品加工や無菌室での作業など)まで、あらゆる産業分野ならびに条件で採用されています。
用途も、組立、切断、加工、塗装、包装、パレタイズ、研磨など幅広く対応。コンパクトな4軸スカラロボットから荷重250kg以上までの重量物用ロボット、そしてコントローラーやソフトウエアまでトータルで提供できることが強みです。

医療分野での展開を加速

 ストーブリのロボット製品は、医療および製薬業界で早くから活用されており、1990年代の前半には手術支援用のロボットとして使用されました。ストーブリのロボットは振動なしに100分の1㎜の単位の精度で動作するため、手術器具のガイドなどに用いられており、正確な手術の実現や外科医の負担軽減に貢献しています。

 オーストリアの医療機器ベンチャーであるBHS Technologiesが開発した「Robotic Scope」にもストーブリの技術が使用されています。Robotic Scopeは、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)、3Dカメラ、ロボットアームなどを組み合わせたシステムです。術野を映した3Dカメラの映像がHMDに映し出され、HMDを装着した医師は下を向かなくても術野を確認できます。また3Dカメラはロボットアームの先端に搭載されており、そのロボットアームはHMDの動きと連動しています。つまり、医師の頭の動きに合わせて、ロボットアームが動き、3Dカメラのアングルを変えられるというわけです。

 2020年6月には、手術支援用ロボットを開発するQuantum Surgicalと戦略的パートナーシップを締結しました。Quantum Surgicalは、肝臓癌の低侵襲手術で活用するロボットプラットフォームを開発しており、ストーブリはロボット技術でその開発を支援しています。

移動体とロボットの融合を推進

 ストーブリはパートナー網の拡大やM&Aにも積極的です。2018年4月には、フランスのエンジニアリング大手シュナイダーエレクトリックとパートナーシップ契約を締結。同社が提供する製造業向けのIoTプラットフォーム「EcoStruxure」にストーブリのロボットを統合したシステムの開発・提供などで連携しています。
 EcoStruxureは、住宅、ビル、データセンタ、インフラストラクチャ、各種産業における、プラグアンドプレイでオープンなIoT対応相互運用アーキテクチャおよびプラットフォームです。6つの専門技術分野(電力、IT、ビル、機械、プラント、電力網)において、関連製品からエッジコントロール、アプリまで、あらゆるレベルでイノベーションを実現し、顧客の安全性、信頼性、運用効率、持続可能性、接続性を向上します。このプラットフォームにストーブリのスカラロボット「TSシリーズ」を統合し、標準化されたプログラミングによる時間短縮などにより、シームレスなロボットシステムを実現できます。
 M&Aに関しては、古くは1989年に米ウェスティングハウス・エレクトリック社から「Unimation社」を買収。同じ年に英テルフォードの多関節アームロボットのメーカー、PUMAの製造部門も買収しました。また2004年にはBosch Rexrothのロボット事業を買収しています。そして2018年にはAGV(無人搬送機)や特殊機械などを手がけるWFT社(WFT GmbH & Co. KG、ドイツ・ズルツバッハローゼンベルグ)の株式70%を取得し、子会社化しました。
 ストーブリでは近年、産業用ロボットと移動体を組み合わせた製品開発を強化しており、2017年には「HelMo」を発表しています。レーザーを搭載した移動体が人や物を回避しながら移動し、上部に搭載されたロボットアームで作業を行う複合システムで、コネクタの製造作業などに用いられています。さらに2018年にはAGVなどに強みを持つWFT社を買収し、移動体に関する技術力をさらに高めました。なお、買収されたWFT社の従業員はストーブリのロボティクス部門に加わり、Staubli WFT GmbHとして運営されています。ストーブリではこういった取り組みを通じて、製造現場以外で使用するロボットソリューションも拡大しており、総合ロボットメーカーとしての取り組みを加速しています。

(執筆:産業タイムズ社)

ロボット Insightの他記事もご覧ください

Prev

Next