日本電気株式会社
スマートインダストリー本部 ものづくり企画・プロモーショングループ 主任 高野智史氏
スマートインダストリー本部 ものづくり企画・プロモーショングループ 熊谷京香氏
スマートインダストリー本部 ESSグループ マネージャー 阿久津哲史氏
スマートインダストリー本部 ESSグループ 主任 久保田和宏氏
製造現場へのロボット導入を検討する企業が増え、おかげさまでオリックス・レンテックへのロボットレンタルサービス「ロボレン」の利用者数、お問い合わせも急増しています。そんな中、最近のお客さまのご要望として多いのが、いわゆる「ロボットシステムが欲しい」というものです。自社に生産技術に詳しい人材がおらず、必要な機器や機能をそれぞれ検討・導入するのは難しいため、すべてそろったワンパッケージになっていれば、便利で導入が容易ではないかという声が多く寄せられています。
そこで当社と、日本電気株式会社(以下「NEC」)および NEC プラットフォ ームズ株式会社は共同で、2020年から製造現場へのロボット導入をサポートするサービスをスタートしました。NECが現場で蓄積した知見をもとにロボットシステムを開発し、当社がそれをロボレンで提供します。ロボット導入の検証が手軽にでき、より簡単で安く、早く、スムーズなロボット活用が可能になります。さらにIoTやAIのデータ活用基盤の構築・運用もサポートし、スマートファクトリーへと導きます。
NECのロボットへの取り組みと、当社との協業について伺いました
ーーNECのロボットへの取り組みについて教えて下さい
産業用ロボットと自律移動ロボット(AGV)、2つのタイプのロボットを活用したソリューションがあります。産業用ロボットを活用した「ロボット導入トータルサポートパッケージ」と、自律移動ロボットを制御する「マルチロボットコントローラ」です。
ーーオリックス・レンテックとの協業について
最適化されたロボットシステムのパッケージとは言え、いきなり数百万円を超える設備投資は難しく、じっくり検証してから判断したいという声を多くいただきました。そこで製造業を始めとする様々な業界向けにロボットレンタルを行っているオリックス・レンテックと協業し、パッケージ化されたロボットシステムを貸し出して検証できるようにすることで、お客さまが実際の現場でより手軽にロボットを試せるようになっています。
ーーロボット導入トータルサポートパッケージについて
初めてロボットを導入する企業には、①ロボットを扱うスキルや経験値の不足、②ロボット化できない作業や常設不可などの環境条件、③異常の原因解明と復旧対応への不安、という三つのハードルがありました。ロボット導入トータルサポートパッケージはそうしたハードルを解消するものとして、現場確認から構想設計などの導入コンサルティングと、それに応じたロボットシステム、および見える化・分析用のアプリケーションまで一貫して提供します。
ロボットシステムは自社での経験値を活かして設計します。産業用ロボットとハンド、架台、制御部、操作パネル、安全機構まで、すべて組み上げた状態になっています。
また、稼働管理アプリケーションとして、装置の稼働状況や異常検知・通知といった見える化・分析の機能もセットにして提供します。
製造現場に持っていってすぐに使い始められる形になっているのが最大の特長で、通常、ロボットシステム導入に約6カ月かかるケースでも半分の3カ月で稼働開始できます。
ーーどのようなアプリケーションがあるのですか?
今回新しく「開梱ロボットソリューション」を開発しました。
開梱ロボットソリューションでは、工場の部材の受け入れ工程に向けて最適化したロボットシステムにより、段ボール箱を投入すると自動で開梱して排出します。また、稼働状況を管理するアプリケーションもセットで提供しています。
いま工場の受け入れ工程では、多種多様なサプライヤーから入庫してくる段ボールに入った大量の部材を、毎日人手で開梱しています。しかし人手不足で働き手が集まらず、作業している人にももっと別の高度な作業にシフトしてもらいたいという希望があります。またカッターによるケガが多く、労働安全の面からも改善が求められています。それに対し開梱ロボットシステムでは開梱作業を自動化し、省力化と安全性の向上を実現しました。
開梱ロボットシステムは、箱の大きさや高さに関係なく一律で開梱ができます。異なるサイズの箱の連続投入にも対応し、1分で1個、1時間で60個の箱を開けられます。電源は100V対応で、200Vを引いていない倉庫や物流施設でも使えるようになっています。
稼働状況管理アプリケーションは、PCやタブレットなど外部から遠隔でロボットシステムの状況を見ることができます。誤った段ボールの投入や作業ミスなどにより、装置の異常が発生した際に、アラートを発報すると共に、推定原因と対処法も一緒に示し、早期復旧をサポートします。また、作業の進捗や出来高に加え、刃や集塵フィルタなど消耗品の交換時期などもお知らせします。
またIoTプラットフォーム「NEC Industrial IoT Platform」とも連携し、生産ラインや工場全体の見える化にも対応しています。
ーーマルチロボットコントローラとはどのようなものですか?
マルチロボットコントローラは、最近自動化や省人化で注目をあびているAGVやAMR、モバイルロボットといった自律移動ロボットに対し、メーカーを問わず集中して管制制御できるソフトウェアです。
工場内物流や物流倉庫で自律移動ロボットの導入が広がっています。これまでは、磁気テープなど決められた経路上を移動する有軌道型の移動ロボットが使われてきましたが、移動経路の変更を柔軟に行えないことから、最近は自ら移動経路を生成し、経路変更も容易に行える無軌道型の自律移動ロボットへの期待が高まっています。そのため、多くのメーカーが参入しさまざまな特長を持つ製品が出てきています。各社独自の制御システムで制御しているため、自立移動ロボットを利用するユーザー様にとっては、管理が煩雑になるという課題が出てきています。そこで当社はそれらの課題を解決するためマルチロボットコントローラを開発しました。
マルチロボットコントローラは、自律移動ロボットとMESやWMSなどの業務実行システムの間に位置し、業務要求を受けて移動経路を生成し自律移動ロボットの管制制御を行います。目的地点を設定すると自動的に経路を算出・生成し、平常時はその経路に沿って移動します。もし経路上に障害物等を検知した場合、自ら最適な経路をリアルタイムに計算し、修正した経路にて自立移動ロボットの移動を続けることができます。また複数台を同時に制御でき、ロボット同士のすれ違いや待ち合わせも考慮して自立移動ロボットの制御を行います。
マルチロボットコントローラが管制制御する自立移動ロボットの第一弾としてトピー工業製クローラーロボットに正式対応しました。このロボットはクローラーで前後左右に移動でき、段差や隙間に強く、カゴ台車を上に載せた工場内搬送はもちろん、工場間搬送にも利用可能です。
※左図:トピー工業製クラーラ―ロボット / 右図:マルチロボットコントローラ管理画面
今後は、第2弾、第3弾と他のメーカーの自律移動ロボットも管制制御させていく予定です。さらに将来的には自動フォークリフトなども対応していきたいと考えています。
ーー今後に向けて
ニューノーマル社会になることによって製造業にもいくつかの変化が生じると予想されます。従来から言われてきたような人材不足、熟練者の技術やノウハウの継承、5GやIoT、AIの利活用に加え、工場での働き方の変化、サプライチェーンの見直し、新たなビジネスチャンスの創出などが新たな変化点として盛んに言われています。
このニューノーマル社会に対応した製造現場の在り方の一つがスマートファクトリーであり、当社ではそれを「過去・現在のデータから生産性や変動対応力が高い未来のものづくりを迅速に創り出すしくみ。人が生き生きと働ける環境を創り出すしくみ」と定義し、推進しています。ロボット導入トータルサポートパッケージ、マルチロボットコントローラはスマートファクトリーを実現する手段の一つとなります。
今後、OT(Operational Technology:制御技術)領域は色々なメーカーと連携し、マルチベンダーであっても確実に現場からデータを収集して見える化し、最適な制御、分析ができるようにこだわっていきます。単なる自動化・省力化だけではなく、経営層まで届く成果を明示できるように、現場のデータ収集に力を入れていきたいと思っています。