ロボット Insight

総合ロボットメーカーへ飛躍する川崎重工業

レンテックインサイト編集部

ロボット Insight 総合ロボットメーカーへ飛躍する川崎重工業

 川崎重工業株式会社は、1969年に国産初の産業用ロボット(製造現場で使用されるロボット)を生産したパイオニア企業で、産業用ロボット分野で50年以上の歴史を有します。自動車や半導体製造向けを中心に国内外のあらゆる分野で製品が採用されており、溶接、組立・ハンドリング、塗装、パレタイジング、ピッキング、半導体ウエハー搬送用クリーンロボットなど、ほぼすべての種類の産業用ロボットをラインアップしています。そのうち半導体ウエハー搬送用では数量ベースで世界50%以上のシェアを持ち、スポット溶接や塗装用ロボットでも高いシェアを有しています。

 耐久性や精度といったロボット自体の性能に加え、同社のロボット部門はシステム関連の人員の割合が高く、工場の診断から最適なロボットソリューションを導き出し、システムアップ、トレーニング、メンテナンスなど、導入診断からアフターサービスまで一貫して提供できることが強みです。

 近年、川崎重工業が注力している製品の一つとして双腕スカラロボット「duAro」(デュアロ)があります。人間の手や腕の独立した動きを再現できる双腕構成のロボットで、作業者一人分のスペースにそのまま収まり、人と安全に共同作業ができます。作業者がロボットのハンドまたは工具を直接手に持って動かし、その動作をロボットに記憶させる「ダイレクトティーチ」にも対応しており、短期間での導入が可能です。また、このロボットはキャスター付きの台(コントローラー内蔵)の上に設置されており、導入後の移動も簡易に行えることが特徴です。電機・電子分野を中心に適用幅を拡大しており、これまで自動化が困難であったCPU組立やフレキシブルプリント配線板の搬送と組付への適用も可能です。

遠隔協調システムを開発

 注目度が高まっている製品としては、遠隔協調で熟練技術者の動きを再現するロボットシステム「Successor」(サクセサー)も挙げられます。川崎重工業のロボット製品に「コミュニケーター」と呼ばれる遠隔操縦装置を組み合わせたシステムで、コミュニケーターを通じて、動作時の感覚(視覚・力覚・触覚・聴覚など)がフィードバックされ、操縦者は離れた場所でもロボットが使用されている現場にいるような感覚を得ることができます。

 サクセサーが有する大きな特徴が「コンバージョン機能」と呼ばれる機能で、熟練技術者がコミュニケーターで操作した動きをロボットが記憶し、自動運転へと切り替えられるシステムです。さらに、ばらつきのある作業でもAIがそれを学習し、自動運転に変換する「AI機能」も搭載しており、これにより微調整が必要な熟練技術者の繊細な動きもロボットで再現できます。

 川崎重工業では2017年末にサクセサーを発表し、それ以降、同社の工場での実証実験や一部のユーザーと連携しながらの用途開発を進め、塗装用、高圧洗浄用、研削用の3種のサクセサーを2019年度に市場投入しました。以前より注目度が高かった製品ですが、新型コロナウイルス感染症の拡大によって遠隔操作のニーズが高まっていることを受け、さらに注目度が増しています。

 開発面での取り組みとしては、自走式ロボット「TRanbo」(トランボ)を2019年末に開催された国際ロボット展で披露しました。垂直多関節ロボットやデュアロをAMR(自律移動型協働ロボット)と組み合わせたシステムで、2020年度内の市場投入を予定しています。当初は製造現場での活用が想定されていましたが、新型コロナウイルスの拡大以降、病院や宿泊療養施設からの問い合わせが増えており、トランボを活用して食事や薬の搬送のほか、簡単な問診や診察準備(体温や心音確認)などを遠隔で行うことも検討されています。

合弁会社で医療ロボットを展開

 川崎重工業では、ロボット事業を今後展開していくうえで「高齢化社会に向けてのロボット」という視点を持っています。これには大きく分けて三つの意味合いがあり、日本をはじめ高齢化社会が進む国では生産年齢人口が年々減少しており、その減少分をロボットでカバーするという点がまず一つ。二つ目は、高齢者の労働参加をサポートするために、高齢者が持てない重量物をロボットに運ばせる、目の機能を補うといったロボットによる高齢者支援という意味合いを持ちます。そして三つめが病気の高齢者を支援するための医療用ロボットで、川崎重工業では医療用検査機器メーカーのシスメックス株式会社(神戸市中央区)と合弁で、医療用ロボットの開発を行う株式会社メディカロイド(神戸市中央区)も展開しています。

 2020年6月には新型コロナウイルス対策の一環として検体採取ロボットシステムを開発。医療従事者が川崎重工業のデュアロを遠隔で操縦して綿棒をハンドリングして、鼻腔から検体を採取するシステムで、医療従事者の感染リスクを回避することができます。なお、同システムには上記のサクセサーの技術が応用されています。検体採取ロボットシステム以外にも、PCR検体分析の一部作業(不活性化作業、PCR反応液試薬の調整やシーリング作業、PCR増幅・検出装置への投入や排出作業)をデュアロで支援するシステムも開発しています。

 同年8月にはメディカロイドが開発を進めていた手術支援ロボット「hinotori(ヒノトリ)サージカルロボットシステム」が製造販売承認を取得しました。国産の手術支援ロボットシステムが製造販売承認を取得するのは本件が初のことです。ヒノトリは、執刀医が高精細の双眼モニターを覗き込みながら術野の3D画像を確認して、8軸のアーム4本を操作し手術を実施。アームはヒトの腕に近いコンパクトな設計で、アーム同士やアームと助手の医師との干渉を低減し、円滑な手術が可能となります。まずは日本市場において泌尿器科を対象に早期の市場導入を目指しています。そして、米州、欧州、アジアなど、海外でも許認可の取得を進め、2022~2023年ごろから海外展開も進めていく方針です。

 ソーシャルディスタンスの確保や遠隔化ニーズの高まりなどを受けて、これまでロボットを多数活用してきた自動車や電機・電子分野以外にも、ロボットの活用範囲が広がると見る向きが強まっていますが、川崎重工業でも上記のPCR関連のロボットシステムなど、ロボットの可能性を広げる開発に力を入れています。そしてそういった取り組みを通じて、産業用ロボットメーカーから総合ロボットメーカーへと飛躍していき、2025年度にはロボット関連事業で売上高2000億円を目標に据えています。

(執筆:産業タイムズ社)

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